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報告を受け、異界に急行した俺は異常個体と魔物の群れを見つけた。今は数キロ離れた場所から道具を使って遠巻きに見ているが、近付けば危ないだろう。
「報告にあった異常個体はアイツか」
気色の悪い見た目だ。一見すると人間のようだが、真っ黒いぬらりとした肌に、顔の面積の殆どを一つ目が埋め尽くし、口も鼻も耳も存在していない。頭からは髪のように何本もの触手が生え、細長く伸びてうねっている。
「エイリアンみたいだな」
身長も二メートルは超えているだろう。シュッと細く引き締まったその身には筋肉が詰まっているのが分かる。
「問題は無さそうだな。一旦下がるか」
念の為の目視確認も取れた。後の観察は協会のドローンに任せてこの付近で待機し、他のハンターが集まるのを待とう。
「……何、だ?」
視線を感じる。何かが迫ってきている感覚がある。これは……後ろだ。
「ッ!」
異常個体だ。髪のような触手が俺の体を貫こうと伸びた。
「危ねぇな、マジで」
同時に伸びた触手を飛び退いて回避し、それでも伸びて来た触手は大剣で斬り落とした。
「転移能力持ちか? 厄介だな……」
加えて、索敵能力にも長けているな。あの距離から察知されるとは中々だ。転移と索敵……逃げるだけ無駄だな。戦うしかない。
『オマエハ、ナカナカツヨソウダナ?』
やたらキンキンと響く声。それは俺の頭の中から聞こえた。
「ハッ、直接脳内にって奴か? 益々気色悪いぜ」
俺は大剣を構え、体から闘気を溢れさせた。
「群れを置いて来て良かったのか? 目玉野郎」
『ククク、オマエガキニスルコトデハナイダロウ?』
返事の途中で俺は飛び出し、大剣を振り上げた。
『ムダダ』
転移によって魔物の姿が掻き消える。大剣は空を切った。
「あぁ、転移な。そうやって逃げ回るつもりか? そっちが何もしてこないなら俺だって逃げるだけだぜ?」
背後に立った魔物に大剣の先を向け、挑発する。
『アンシンシロ……オマエハ、ニガサナイ』
魔物がそう口にした瞬間、空間が揺れた。
「ッ!」
『モウオソイ』
全力でその場から離れようとしたが、既に遅かった。
「なッ、これは……」
空間が歪み、視界が入れ替わる。そこはどこを見ても真っ白い謎の空間。どこまで続いているのか分からない、そもそも距離感が掴めない。ここは一体何なのか。ただ、一つ分かるのはちょっとやばい状況だってことだ。
『ヨウコソ、オレノセカイヘ』
魔物の周囲に無数の魔法陣が浮かび上がる。数十個もの魔法陣を一瞬で展開できるこいつは何者だ? いや、違う。これが出来るのはここだからだ。この空間はアイツの世界。恐らく、アイツに有利な空間だ。
「……そうかよ」
だが、俺にそれを破る手段は無い。特殊な異能も、便利な魔術も俺には無い。俺に出来るのは、ゴリ押しだけだ。肉体と技術、そして闘気。これだけで今の今まで生きて来た。
「舐めんな」
一斉に発射される魔術。それらは全て半透明の魔力の槍だ。紫色に透き通った槍。属性すらない、純粋な魔力だけのその槍は物理的に対抗することは不可能だ。
「これでも、元準一級だ」
だが、闘気を用いればその前提は覆る。闘気を濃く纏った大剣で振り払い、俺は無数の槍を一息に弾き飛ばした。
「この程度じゃ、死なねぇよ」
『フム』
頷く魔物。俺は一瞬でその懐まで迫り、大剣を振り上げた。
『ムダ――――』
転移、掻き消える魔物。だが、そのデカい目玉じゃ視線の先も丸分かりだ。
「――――そこだろ」
予測していた魔物の転移先を目掛けて放った闘気の斬撃。赤色の斬撃は三日月のような形で進み、魔物の胴体に直撃した。赤色の光と紫色の光が同時に散る。
『グッ……オドロイタゾ』
魔物の胸の半分程度まで切り込みを入れて斬撃は消滅した。殺すまでは行かなかったか。流石に柔くは無いな。
『コノクウカンデキョウカサレタバリアヲコエテクルトハナ……マトモニクラエバ、マズイヨウダナ』
そう言っている間に魔物の傷は再生し、完全に元に戻った。
「……滅茶苦茶に攻めても駄目だな。狙うのは首だ。一撃でぶっ殺す」
接近戦しか出来ない俺からすると、転移使いは相性が悪い。だが、それでも殺せなかった訳じゃない。
「知ってるか? これが瞬歩って奴だ」
『』
身を低くし、一瞬で魔物の下まで到達する。魔物の眼球が俺を捉えるより速く、俺は大剣を振り上げた。魔物の腕が斬り落とされる。
『ッ、コレハ……』
「遅ぇ」
魔物が転移する。だが、俺は転移するよりも先に斬撃を飛ばしている。赤い斬撃が魔物の首筋を切り裂いた。
『…………アブナカッタ、ゾ』
斬撃は首を落とすまでは至らなかった。魔物が上空に転移し、逃れる。何となく分かってはいたが、やっぱりこの空間はかなり広いな。
「空に逃げんのか? 随分、俺にビビってるみてぇだな?」
『ダマレ。イクラホエヨウト、オマエハソコデミテイルコトシカデキナイ』
魔物の足元に魔法陣が浮かび、魔物はその魔法陣に乗って俺を見下ろす。どうやら、降りてくるつもりは無いらしい。
『モハヤ、オマエニショウキハナイ。ゼツボウシテ、シネ』
魔物が手を上げた。上空に無数の魔法陣が広がっていく。白い空に、ポツリポツリと浮かんでいく。
「ヤバいな」
十、二十、三十……魔法陣の数は増えていき、それはとっくに百を超えているように見えた。
「だが……チャンスだ」
百、二百、三百。増えていくそれを、俺はただ見上げた。
「お前が一番油断するのは、ここだろ」
五百くらいか。限界まで展開されたらしい魔法陣達。その魔力の光が強まる。
「『闘気覚醒』」
胸を強く叩き、闘気を最大限まで活性化させる。燃え上がるように紅蓮のオーラが溢れ出る。身体と深く馴染んだ闘気はあらゆる能力を底上げし、驚異的な身体性能を引き出すが、この技はそう長く使えない。
「行くぜ、クソ目玉」
色とりどりの魔術が見える。流星群みたいで、綺麗だな。