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『暁』所属『猟兵』を率いるエルフのリナです。
『血塗られた戦旗』の斥候と交戦中にリタが怪我をする事件が発生。私を含め皆が頭に来て代表に復讐を直訴。断られるかと思ったけれど、代表は快く受け入れてくれました。
直ぐに私は志願者を募って『血塗られた戦旗』の野営地に夜襲を仕掛けました。予め手配してくれたのか、反撃を受けることなく指定された区画に火矢の雨を降らせることが出来ました。
戦果は上々、目標を火の海にして皆も怒りを静めました。でも、それだけで終わらないのが代表。次の策を提示されました。
子供騙しではと思いましたが、充分な下準備を行った上での策ならば充分に効果があると判断したみたいです。
そこで私は代表から、拡声器?なるものをお借りして一人馬を駆って野営地の近くにやって来ました。えっと、ボタンを押して……話し掛けるんでしたっけ。
えーっと。
『傭兵王リューガへ物申したい!出てきなさい!』
おおっ!声が響く!これは便利ですね。代表に量産化をお願いしたいですね。
私が声をかけると、見える範囲に敵が集まり始めました。スキンヘッドの大男……意外と多いな。まあ良いか、本人に呼び掛けるものじゃないし。
後は代表が用意してくれた内容を伝えるだけだし。
『密約に従い、指定された区域を焼き払った!理由は問わないが仕事を成し遂げた!にも拘らず、まだ報酬が支払われていないわ!』
おっ、ざわめきが広がってる。子供騙しも良いところだけど、疑心暗鬼の彼らには効果的みたいね。
実際に被害が出ているわけだし。
「ふざけたこと抜かすな!俺はそんな依頼を出した覚えはない!」
おっと、大声で返してきましたね。あれがリューガか。代表の敵ね。
『誇り高い『血塗られた戦旗』の代表らしからぬ物言いね!私達にタダ働きをさせようなんて、失望を禁じ得ないわ!働いた分は支払うのが筋でしょう!』
「言い掛かりは止めやがれ!何処に証拠があるんだ!?」
『証拠ならあるわよ!貴方のテントの引き出しを見てみなさい!控えが入ってるわ!』
あっ、工作員に仕込ませてるのね。流石代表。
しばらく待ってると、野営地が騒がしくなってきた。どうやら偽の依頼書を見付けたみたいね。
「撃て!あのエルフを撃ち殺せ!早くしろ!こんな出鱈目をこれ以上喋らせるな!」
何人かが銃を向けてきましたね。この距離では当たらないと思いますが、用心しないと。
『なるほど!タダ働きをさせた上に返礼は鉛弾の様子!『血塗られた戦旗』も地に堕ちたものね!これで失礼させて貰うわ!』
拡声器で最後に煽り、私は馬を返した。これ便利ねぇ。
そして予想通り……追撃が来ましたね。野営地から騎兵が二十騎ほど押し出してきた。武装は……弓と槍か。よし。
数分前の野営地。
「あの女を逃がすんじゃないよ!ふざけた真似しやがって!思い知らせてやりな!」
「おうっ!!」
カサンドラの指示により、配下の騎兵二十騎が出撃。帝国には銃身を切り詰めて馬上での取り回しを良くした所謂騎兵銃は存在しない。
そのため騎兵は伝統の弓、槍などで武装している。
「くそっ!これじゃ滅茶苦茶だ。なんてやり難い敵なんだい」
出撃する騎兵達をカサンドラは苦々しく見つめた。彼女とて愚かではなく、一連の騒ぎが謀略であることに気付いていた。
だが、外部からの協力者やリューガに対して批判的なものはそれに乗せられ、明らかに煽るような者も居る始末。
この状況下では満足に戦えず、それ故になんとしても戦果を挙げる必要があった。虎の子の騎兵を派遣したのはその為である。罠である可能性を考慮して、数は二十騎。危険を察知したら直ぐに下がるように指示を出していた。
しかし、追撃に出た騎兵達へ、待機していた『猟兵』がまるで狩りを行う猟犬のように襲い掛かる。
「一人たりとも生かして返しちゃダメよ!殲滅する!」
リナが逃げ先に伏せていたのは、『猟兵』三十名。彼女達は騎兵隊を充分に引き付けてから、三方から襲い掛かる。
「敵襲ーっ!敵襲ーっ!」
「やはり罠か!直ぐに引き上げるぞ!」
騎兵隊は直ぐに反転。敵の居ない南側へと進路を変える。昨晩からの攻撃による興奮が彼らから冷静な判断力を奪っていた。
「バーカ!そこは虎口よ!」
騎兵隊の動きを見たリナは信号弾を打ち上げる。それに気付いた騎兵も居たが、何もかもが手遅れであった。
南側に流れる小さな小川。その手前の草地に潜んでいた者達が一斉に姿を表す。
「撃てーっ!!!」
草花で擬装を施したマクベスと指揮下の兵士達が引き金を引く。重量や時間の問題で機関銃を用意することは出来なかったが、三十名からなる歩兵隊の一斉射撃により騎兵達はバタバタと落馬していく。ある者は馬を撃たれて落馬し、そのまま次の斉射の餌食となった。
「放てーっ!!!」
誤射を防ぐため左右に展開したリナ達も一斉に矢を浴びせる。
「くそっ!罠だったか!?なんとしても逃げるぞ!こんなところで死んで堪るか!ぎゃっ!?」
指揮していた傭兵の眉間を銃弾が貫き、そのまま力なく落馬。
それを見た生き残り達はバラバラに逃れようとして銃弾、矢の餌食となり次々と討たれていった。
これらの惨劇はちょうど稜線の向こう側と言うこともあり野営地からは見えず、ただ銃声が鳴り響く様子が聞こえるだけであった。
罠であるとすぐさま察知したカサンドラは、援軍の派遣を行おうとするも果たせずにいた。それは、野営地内部での騒ぎによるものであった。
「どういうつもりだ!?リューガ!俺たちを始末させようって企んでいやがったのか!?」
「パーカーの奴もこうやって始末させたんだな!?」
見付かった偽の依頼書を手に傭兵達がリューガに詰め寄る。
子供騙しの策ではあるが、ここ最近流布された噂や、堪りに堪った不満を爆発させるには充分だった。もちろん潜入した工作員達が影で煽っているのは言うまでもない。
「まさかてめえ、『暁』と裏で繋がってるんじゃねぇだろうな!?」
「だとすりゃ、とんだ茶番だ!」
「なにふざけたこと抜かしてやがる!?」
「そうだろうが!最近始末された連中は、全部お前の気に入らねぇ奴らだって話じゃねぇか!」
「やってられるか!」
不満は限界に達していた。このままでは抗争以前に組織が瓦解する。そう判断したリューガは、最後の決断を下す。
「そこまで俺を信用出来ねぇなら、見せてやる!総攻撃だ!当然俺が先頭だ!それなら文句は無ぇだろ!?さっさと準備をしやがれ!」
「おう!てめえの後ろにピッタリくっついてやるよ!」
「裏切ってるなら撃たれねぇだろうしな!」
「リューガ!気は確かかい!?」
傭兵達が自分達の持ち場に戻る最中、カサンドラがリューガに声をかける。
「嵌められた!これ以外に選択肢は無いんだ!組織がバラバラになっちまう!だが、俺だってタダでは終わらねぇ!俺達が突っ込むから、カサンドラは部下を率いて側面を突いてくれ!」
「アンタっ!」
「『暁』の小娘に吠え面かかせてやる!頼むぞ、カサンドラ!」
リューガは真正面からの総攻撃を準備しながらも、カサンドラと一計を用意する。それは『暁』に一泡吹かせるための策であった。