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「ねぇ神崎さん。オレこのままでいいと思う?」
残っていた仕事を片付けながら、神崎さんに声をかける。
「このままで・・・とは?」
「正直オレにはまだいろいろ問題が山積みだしさ。そんな状況でオレ、透子に待っててって言っていいんだよね・・・?」
透子に会いたくて必死に仕事を片付けている一方で、透子に言えないままの、まだいろいろな問題を思い出して、またふと不安になる。
「そうだな・・。正直、樹にはまだ片付けなければいけない問題がいくつかあるからね。それを片付けない限りは、正直望月さんと幸せになれる道はまだまだ遠いとは思う」
今はようやく想いが通じて、一緒にいるだけで幸せだけれど。
でも実際すぐにこうやってオレには一つずつ問題が降りかかって、そんな小さな幸せさえもちゃんと叶えられていない。
それどころかまだオレは過去の男がまた登場しただけで、すぐにこうやって不安で心配になってしまうくらいなのに。
「だけど、今、頑張れるのは彼女がいるからだろ?」
「もちろん。透子がいなかったら、今のオレはここにいないよ」
透子と出会えたからオレは今、自分にも親父も会社にも向き合うことが出来ている。
「昔の樹を思えばさ。オレはここでこうやって樹が頑張ってることが、もうその意味を表してるんだと思うよ」
「そうなのかな・・・」
「樹、今まで誰かの為に頑張ったことなんてあった? こんなにも自分より大切にしたいって想った人いた?」
神崎さんにそう言われて、今までのオレの人生を思い返す。
素直に甘えることも出来ない環境で、だけど決まりきった将来で。
親の期待に応えたいと思う自分がいたと同時に、そんな環境にもうんざりしていたのも事実で。
なのにそこに自分の確固たる意志があったわけでもなくて。
結局自分はどうしたいのか何をしたいのか、どうありたいのかずっとわからないままだった。
何かに頑張るとか、何かに必死になるとか、目に見えないモノにその時はなんの意味があるのかもわからなくて。
それで何かが変わるなんてことも考えなかった。
だけど、それを透子が気付かせてくれて、それに大事な意味があるのだと教えてくれた。
誰かの存在一つでこんなに自分が変われるだなんて、初めて知った。
透子と出会えて、それはごく自然にオレの中で生まれた。
頑張ることで何かが変わって、望めば手に入れることが出来るという、そんな当たり前のような、だけどそんな奇跡が存在するということを。
そんな気持ちにさせてくれたのは、透子たった一人で。
そしてこんなにずっとオレの気持ちを満たしてくれるのは、透子だけで。
オレのすべてを投げ出してでも守りたい人。
オレのすべてをかけて一生守りたいと思える人。
「もう樹の中でちゃんと答えは出てるんじゃないか?」
「まぁね。まぁ何があってもオレが透子がいなきゃ無理だから、頑張るしかないんだけど」
「だからお前がその気持ちだけ揺るがずに大切にしていればさ。何があっても乗り越えられるんじゃないかってオレは思ってるけど」
「そうだよな。透子守れるのはオレしかいないんだよな」
「ならこの先一緒にいる為にも、何があっても樹が頑張ればいいだけ」
ただ透子と一緒にいたい。
だからオレにはオレしか出来ない方法で頑張るだけだよな。
「樹。お前はお前を信じろ。何があっても」
今までのことも、これから待ち受けていることも、全部わかっている神崎さんからの言葉は、やっぱりオレには何よりも心強くて。
「わかった」
「そんなこと考えてる間に早く手を動かして、今は彼女に会いに行くのが先決じゃないのか? とりあえず目の前のことから一つずつお前は向き合っていけばいい」
「あぁ・・そうだよな・・」
確かに今はそんな不安より、まずは透子とオレの気持ちを大事にしよう。
早く透子に会ってお互いの気持ちを、今は確認したい。
「樹?」
「ん?」
すると神崎さんが名前を呼ぶ。
「安心しろ。お前にはオレがいる。お前は必ずオレが守ってやる」
そう伝える神崎さんの言葉。
それは秘書でもあり、兄貴代わりとしてでの言葉でもあり。
小さい頃から、オレが不安になれば、いつもかけてくれた言葉。
この言葉がオレにはどんなに心強くて、嬉しくて、支えになったか。
不安になれば、神崎さんの言葉が力をくれる。
「ありがと」
神崎さんにはそんな一言だけでホントは返しきれないけど。
だけど、きっと神崎さんはわかってくれている。
どんなオレでも見捨てずに、ずっと見守って来てくれて支えてきてくれた人だから。
オレにとっては、透子はずっと一生守りたい大切な存在で。
そして、神崎さんもオレにとってずっと支えてくれてオレに力を与えてくれる大切な存在。
そんな存在がいるだけでも、きっとオレは幸せで。
そんなことを心の隅で思いながら、オレは1分でも早く仕事を片づける為に、改めて目の前の仕事に集中した。