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今回も楽しいお話ありがとうございました!!ついに次回相棒の正体がわかる…のか?!だれなんだろう?続き楽しみにしてます!
細い通路を抜けた先、視界が一気に開けた。
そこは巨大なサーカスステージ。
天井まで届くほど高い、赤と金の幕。
円形のステージをぐるりと囲む観客席には——
誰も座ってないのに、ざわめきだけが聞こえる。
「……え、なに?
なんやこの“人おる感”は……」
怖いはずなのに、心臓はなぜか走り出す前みたいに高鳴ってる。
ステージの中央には、スポットライトが一つ。
その光の中に、小さな箱が置かれていた。
木製の、小型の宝箱。
「……これ、開けろってことやんな?」
近づくほどに、胸が苦しくなった。
懐かしいのに思い出せない、
胸の奥で何かがずっと引っかかってる感覚。
箱をそっと開ける。
中に入っていたのは——
青と赤の2色のピエロ帽子。
青には“たっつん”と書かれている。
赤の方は、名前の部分が切り取られていた。
それだけじゃない。
帽子の下に、一枚の写真。
子どもの俺が笑ってて、
隣にもうひとり……
やっぱり顔だけが塗りつぶされてる。
でも。
肩に乗せられた腕の重さだけが、妙にリアルに感じる。
「……なんで俺、この写真見ただけで泣きそうなんや……」
喉がキュッと締め付けられる。
その瞬間。
ステージ上の照明が全部、一斉に落ちた。
真っ暗。
視界がゼロになる。
「……っ!?おい、なんやねん!!冗談ちゃうぞ!!」
返事はなく、
代わりにサーカスチックなオルガンがゆっくり鳴り始める。
ノスタルジックで楽しげで、
でもどこか壊れたようなメロディ。
そして、ステージ中央にスポットライトが戻った。
さっきまで誰もいなかった場所に——
人影がひとつ。
子どもの頃のピエロ衣装。
赤い帽子。
青いスカーフ。
背丈は俺と同じくらい。
顔だけが、光に溶けるみたいに影になってて見えへん。
でも、そのシルエットを見ただけで
心臓がぎゅっと掴まれた。
——知ってる。
——絶対、知ってる。
——俺、この人と笑ってた。
理由も分からんのに涙がにじむ。
影はステージ中央でゆっくりと歩き出す。
ブランコで聞いたあのステップ。
軽やかで、楽しげで、俺の足と同じ癖。
「……お前……まさか……」
影は俺の目の前まで来ると、
胸元から一枚のカードを取り出した。
それをそっと差し出してくる。
震える手で受け取る。
文字が書いてある。
《たっつん。
ずっと、探してた。
ずっと、待ってた。
やっと来てくれたね。》
心臓が一瞬止まった。
影が口を動かした。
——『ただいま』
声は聞こえない。
でも意味だけが、心に直接伝わってくる。
足がすくむ。
涙が勝手に流れる。
「……誰なん……
俺、なんで……
なんでこんな……」
影は俺の肩にそっと手を伸ばす。
優しい動き。
全く怖くない。
触れる——その直前。
舞台全体の照明が、眩しいくらいに一斉に点灯した。
光の中で、影の“顔だけ”が完全に見えなくなる。
それでも、確信に近い感情だけが胸の奥で膨れ上がる。
——相棒。
——俺の相棒だ。
影は指でステージ奥を指さした。
そこには大きな幕があって、
その中央にこう書かれている。
《TRUE MEMORY》
そして、影が最後にカードを俺へ押し込んだ。
《幕を開けて。
本当の名前を思い出して。》
影の姿が、光の中ですっと薄れていく。
「……まっ……てや……
待ってくれよ!!」
手を伸ばす。
けど、影は舞台の光に吸い込まれるように消えた。
俺は震える手で、
幕の真ん中にある紐を握る。
胸が痛い。
息が苦しい。
でも、開けなければ。
相棒の“本当の名前”がそこにある。
「……いくぞ。」
紐を強く、引いた。
——幕が、ゆっくりと開いていく。