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最近、アメリカさんと過ごす時間が増えていった。
放課後、文化祭の準備を一緒にするようになってから、
気づけばいつも隣にアメリカさんがいる。
最初は、それが嬉しかった。
彼は誰にでも優しくて、話しかけられれば自然に笑う。
けれど、僕に向けられるその笑顔だけが、少し違って見えた。
視線の奥に、何かを見透かされているような感覚があったのだ。
「日本、これ運ぶの手伝おっか?」
「いえ、大丈夫です。自分で──」
「いいって! ほら、持たせろ!」
強引に奪い取って笑うアメリカさんの手は、少し熱かった。
「ありがとう」と言うと、アメリカは嬉しそうに目を細める。
その表情を見て、胸の奥が妙に落ち着かなくなる。
──優しすぎる。
そう感じる瞬間が、最近増えた。
教室の空気も、少し変わった気がする。
以前のようにモブ子たちが僕に声をかけてくることは減った。
というより、避けられているようだった。
笑い声が聞こえても、その輪の中に自分の名前が出ることはない。
ただ、彼がそばにいるときだけ、皆が少し距離を取る。
「日本、最近モブ子と話してる?」
「いえ……あの、特に何も」
「そっか。なら、よかった」
アメリカさんの笑顔が、一瞬だけ静まる。
ほんの刹那、目の奥に何か鋭いものが閃いた。
でも次の瞬間には、いつもの柔らかな表情に戻っていた。
その変化が、なぜだか怖かった。
翌日。
文化祭実行委員がクラスを回ってきて、
出し物の分担を確認していたときのことだ。
モブ子が手を挙げて何か言おうとした瞬間、
アメリカさんがさりげなく話題を横取りした。
「それなら俺がやるよ!」
クラス中の視線がアメリカさんに向かう。
モブ子は小さく口を開けたまま、言葉を飲み込んだ。
その後、彼女の姿を見ることが少なくなった。
たまに教室に来ても、どこか落ち着かない様子で、
誰かと話しても笑顔がぎこちない。
──何があったのかは、誰も話さない。
ただ、空気だけが静かに冷えていく。
放課後、帰り支度をしていると、Bが声をかけてきた。
「日本、ちょっと時間ある? 一緒に帰ろ」
「え……でも、アメリカさん、モブ子さんたちと──」
「いいから。あいつらの事は。」
その言い方が、いつものアメリカらしくなかった。
僕は小さく頷いて、鞄を持った。
校舎を出ると、夕焼けが校庭を赤く染めていた。
アメリカは横を歩きながら、穏やかに笑っていた。
まるで何事もなかったかのように。
「日本ってさ、ほんと真面目だよな」
「え? あ、いえ……普通です」
「いや、普通じゃない。ちゃんと頑張ってるの、俺見てるから」
アメリカの声が優しく響く。
だけどその優しさの中に、微かな重さを感じた。
それはまるで、逃げ道を塞ぐような温度だった。
帰り道の途中、ふと校門の方を見ると、
モブ子が一人で立っていた。
制服の袖を握りしめて、こちらを見ていた。
けれど、アメリカさんと目が合った瞬間、彼女は怯えたように顔を背けた。
アメリカは何も言わずに、ただ静かに笑った。
その笑顔を見たとき、僕の背中を冷たいものが伝った。
──あの人の優しさは、誰かを傷つけてでも守るものなのかもしれない。