受験日が差し迫る
俺はその日に向けての準備に追われていた
いつのまにか外は真っ暗
しかも今年は雪が良く降る
口元まで隠れるようにマフラーを二重に巻き、玄関を出る
もう明かりのついている教室は少ない
校庭の脇を通り、右に曲がると保健室が見えてくる
確か昨日から先生は出張だ
明日帰って来るみたいだけど、時間が合わなかったらまた会えない
曲がり角を曲がる
居ないと分かっていながらも、保健室を見た
え?
電気ついてる!
俺は思わず駆け出した
あと数歩で窓に手が届く手前で電気が消される
コンコン!
中にいる人も確かめず、俺は窓をノックした
向こう側から人が駆け寄って来る
先生だ
ここ2週間程会っていなかった
だから両方の手のひらで窓ガラスを小さく叩いて喜んでしまう
先生も電気を消したままこちらに駆け寄り窓に手をかける
鍵を開け窓に手をかけた先生を見て、俺は両手で窓を開けるのを止めた
「ん?なんだ?」
「開けないで!寒くなるでしょ?」
窓ガラス越しに聞こえる程度に声をかける
「早く帰って来たんだね。明日帰るかと思ってた」
「天気が悪そうだから早めたんだよ。ローレンもこんな遅くまで頑張ってんだな 」
「そうだよ?俺達の未来のために‥‥俺頑張るから」
「頑張れしか言えなくて、もどかしいな」
「そんな事ないよ」
窓ガラスに張り付いている俺の手に、先生の手のひらがガラス越しに重ねる
そして俺に顔を近づけて何か言ってる
「え?‥‥何?」
俺は耳をガラスに当てるが何も聞こえない
不思議に思いながら先生を見た
ガラス1枚挟んですぐそこに先生がいる
そして俺のおでこにキスするようにガラスに口付けた
「先生‥‥」
「‥‥‥‥」
ガラスから離れると俺はマフラーから顔を出して先生にお願いをした
「もう一度‥‥してよ」
「‥‥やだよ」
そう言いながらガラスに近づく
ガラス越しに交わす口付け
冷たいはずのガラスが温かく感じた
互いにガラスから離れると、白く曇った跡が残る
先生はそれを手のひらで消す
だから俺も真似て自分の痕跡を消した
「先生‥‥俺本当に頑張るから」
「あぁ、信じてる」
「迎えに行くよ」
「待ってるからな」
離れ難いこの場所から一歩下がる
先生は窓から俺を見ていた
数秒見つめ合うと先生が眉を顰めて『帰れ』と口パクで伝えてくる
俺は一度口を尖らせ、拗ねた振りをしてから笑って先生に手を振った
それに応えて先生も小さく手を振り返してくれる
「え‥‥可愛いっ」
俺の言葉が聞こえたのか聞こえてないのか
追い払うかのように帰れとジェスチャーされた
俺は先生に見送られながら学校を後にした
絶対合格してやる
神頼みなんかしない
俺は自分の力で2人の道を切り開くんだ
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