テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
hotoke視点
春の風が、そっと窓を叩いていた。病室のカーテンが静かに揺れ、その影が天井をふわふわと泳ぐ。
「……りうちゃん、眠ってるの?」
僕の声に応えるように、細い指がぎゅっと僕の手を握った。眠っていたはずのりうちゃんが、かすかに目を開ける。
「ううん、起きてるよ。ほとけっち、今日ちょっと顔色いいね」
「ふふ、そう見えるだけかもよ」
りうちゃんは、疲れた顔で微笑んだ。その頬はこけて、目の下には隈ができていた。僕のために、ずっとそばにいてくれてる。夜もろくに寝ていない。食事だって、まともにとれていないはず。
——僕のせいだ。
検査の結果が出たのは、三週間前だった。完治はできない。延命には治療が必要。でも、その治療は莫大なお金がかかると医師は言った。
現実を前にして、僕は何もできなかった。ただ、静かにうなずいて、りうちゃんには「大丈夫だよ」とだけ伝えた。
でも、もう限界だった。りうちゃんが痩せ細っていく姿を、これ以上見ていられない。壊れてしまう。りうちゃんまで、壊れてしまう。
「りうちゃん、今日はさ……話したいことがあるんだ」
夕方、陽が傾いた頃、僕はそう言った。
りうちゃんは、僕の顔をじっと見つめた。
「何?」
「……もう、来なくていいよ」
その瞬間、部屋の空気が凍った気がした。りうちゃんの目が、何も理解できないように揺れる。
「え……?」
「もう、いいんだ。僕、りうちゃんに会うとつらくなる。……迷惑なんだよ」
言葉を絞り出すたび、胸が裂けそうだった。嘘だった。全部、嘘だった。迷惑なんて思ってない。ただ、りうちゃんを守りたかっただけだった。
りうちゃんの手が、僕の手からすっと離れた。
「……うそ、だよね……? ほとけっち、嘘ついてるよね……?」
「ううん、ほんとのこと」
りうちゃんは立ち上がった。泣いてなんかいなかった。ただ、表情が消えていた。空っぽの顔で、静かにドアを開けた。
「わかった。じゃあ、もう来ない」
バタン、とドアが閉まる音が、僕の心を深く切った。
ない君視点
「……ない君、どうしよう。ほとけっちが、ほとけっちが……」
りうらは、涙をボロボロこぼしながら話した。
俺は、りうはの話を黙って聞いていた。そして、こう言った
「それ、嘘だよ。ほとけっち、嘘ついてる」
「……え?」
「りうらのこと、ずっと大事にしてるって俺、知ってるもん。そんなほとけっちがそんなこと言うわけない」
「でも……でも……」
「今すぐ行って。まだ間に合う。ちゃんと、ほとけっちに会って、嘘つかないでって言ってこい」
りうらは、ハッとして立ち上がった。
「……うん、行く。絶対、行く」
hotoke視点
ノックの音がして、僕は顔を上げた。
そこには、息を切らしたりうちゃんが立っていた。
「り、りうちゃん……」
「ほとけっち……っ、もう……嘘つかないで……!」
りうちゃんは泣きながら僕にしがみついた。僕も、もう堪えきれなかった。
「ごめん、ごめんね……嘘だった。迷惑なんかじゃない。僕、本当はずっと、ずっと一緒にいたい……」
「だったら、言ってよ。ちゃんと、言ってよ……っ!」
泣きながら笑って、笑いながら泣いて。僕たちはもう、離れないと心に誓った。
それからの時間は、奇跡のようだった。季節が変わり、空が変わり、僕の体は少しずつ衰えていったけれど——
りうちゃんは、最後まで僕のそばにいてくれた。
笑ってくれた。
泣いてくれた。
手を握って、「大好きだよ」って何度も言ってくれた。
そして、最期の瞬間——
りうちゃんの声が、耳元で優しく響いた。
「ほとけっち、ありがとう。ずっと大好きだよ」
ああ、これが「幸せ」ってやつなんだ。
僕は、静かに目を閉じた。
コメント
4件
ぐぅっ…最高です!!悲しい…
これ桃君のことは君付けで呼んでるのに水君のこと呼び捨てにしてたごめん いつもはちゃんと君付けで呼んでるのに…!脳みそバグってきたかも🙄