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🌸イム君視点
風が、やさしく頬を撫でた。
僕は桜の花びらがひらひらと舞うのを見ながら、りうちゃんの横顔をそっと見た。
「今年も、桜、きれいだね。りうちゃん」
言葉をかけると、りうちゃんはゆっくりと頷いた。
いつものように、静かに微笑んでくれるその顔が、今年は少しやつれて見えた。
――でも、笑ってくれてる。
それだけで、僕は嬉しかった。
思えば、僕たちが出会ったのもこの季節、この公園だった。
誰にも話せなかった心の重さを、りうちゃんだけは、なぜか自然に受け止めてくれた。
僕が苦しいときも、りうちゃんはいつも変わらず、優しかった。
なのに、どうして……どうして、神様はそんな人から、命の時間を奪おうとするんだろう。
「りうちゃん、今日は体調、大丈夫?」
そう聞くと、りうちゃんは、弱々しく首を振った。
だけど、そのあとに続いた言葉は、いつもみたいにまっすぐだった。
「でも、どうしても……この桜を、ほとけっちと一緒に見たくて……りうら、頑張って来た」
僕は、その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられた。
こんなに誰かのことを大切に思ったのは、初めてだった。
何もしてあげられない無力さが、ずっと悔しかった。
「ありがとう。僕も、りうちゃんと一緒に見たくて……来たよ」
手を握ると、りうちゃんの手は細くて、冷たかった。
だけど、確かにそこにいて、僕のことを感じてくれていた。
「ねぇ、ほとけっち」
「うん?」
「もし、りうらが先にいなくなっても、来年も、ここに来てくれる?」
――そんなの、聞かないでよ。
そう思いながら、笑って頷いた。
「もちろん。毎年、ここで桜を見るよ。りうちゃんと初めて話したこの場所で、ずっと君のこと、思い出すよ」
それで少しでも、安心してくれるなら、僕は何度だって約束するよ。
りうちゃんの頭が、僕の肩にそっと寄りかかった。
ああ、もう言葉はいらないんだ。
今だけは、ただ、この時間が永遠に続いてくれればいいと、心から思った。
🌸りうら君視点
りうらはもう、自分の体が限界に近いことを知ってた。
何度も医者に言われたし、自分でも分かる。
息は浅くなったし、食べ物の味もしなくなった。
でも、それでも、どうしても見たかったんだ。
最後に、ほとけっちと一緒に、この桜を。
「今年も、桜、きれいだね。りうちゃん」
ほとけっちの声は、いつもと変わらず優しかった。
ああ、りうらはこの声に、何度救われたんだろう。
桜よりも、花びらよりも、りうらにはその声がいちばんきれいに思えた。
「うん。りうら、この景色を見るたびに、ほとけっちと出会った春を思い出す」
ほんとうに、そうだった。
ほとけっちと出会ってからりうらの世界は、静かに、でも確かに変わっていった。
「りうちゃん、今日は体調、大丈夫?」
いつも気にかけてくれる、その声が、愛しくて切なくて……
りうらはゆっくり首を振った。
「ううん。でも、どうしても……この桜を、ほとけっちと一緒に見たくて……りうら、頑張って来た」
りうらの本音だった。
もう歩くだけでも息が切れる。でも、どうしても、どうしても――この景色を、一緒に見たかったんだ。
ほとけっちは、静かに手を握ってくれた。
その手が、あったかくて、ほとけっちの全部が詰まってる気がして……胸がいっぱいになった。
「ねぇ、ほとけっち」
「うん?」
「もし、りうらが先にいなくなっても、来年も、ここに来てくれる?」
りうらは、死ぬのが怖かったわけじゃない。
ただ、忘れられるのが怖かった。
でも、ほとけっちは、迷いなく言ってくれた。
「もちろん。毎年、ここで桜を見るよ。りうちゃんと初めて話したこの場所で、ずっと君のこと、思い出すよ」
その言葉に、りうらの心はふわりとほどけた。
ああ、これでいいんだ。
これで、安心して――行ける。
ほとけっちの肩にもたれかかりながら、りうらはそっと目を閉じた。
もうすぐ風になる。
でも、来年の春も、またここに来よう。
今度は花びらになって、そっとほとけっちの肩に触れよう。
「ありがとう、ほとけっち。ずっと、好きだったよ」
声にはならなかったけれど、風が、きっと伝えてくれる。
コメント
4件
寝たいのに止まらん!!!! 漫画と違ってめっちゃ早く書けるから楽しすぎてハゲそう