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「……えっと、誤解は解けたって、事でいいですかね?」
「……くそ、死にたい」
「勘違いしてヒートアップしちゃったときはホントどうしようかと思ったんですが、そんな理人さんも可愛いですよ」
背後から覆いかぶさるように抱きしめられ、耳元に吹き込まれる声が妙に甘く、理人の背筋にゾクリとした震えが走った。 瀬名の言葉には相変わらず毒が含まれているものの、あのオフィスでの行為の時に感じた、凍りつくような冷たさは微塵も残っていない。むしろ、鼓膜を震わせるその音色はどこまでも優しく、理人はくすぐったさに身を縮めた。
「……俺一人で、馬鹿みてぇじゃねぇか」 「ふふ、それだけ僕のことを思ってくれてたってことですよね? 僕、すごく嬉しいです」
ちゅ、と音を立てて頬に深いキスを落とされ、理人はたまらず視線を逸らした。 恋人同士になってそれなりの月日が流れたというのに、未だにこうした直截的なスキンシップには慣れない。触れられるたびに、心臓がうるさいほどに跳ねてしまうのだ。
(これじゃ、まるで初心なガキみたいじゃないか……)
気恥ずかしさに耐えきれず、理人はわざとらしく咳払いをして話題を逸らした。
「そ、それよりお前の方こそ、あんなに怒ってただろ。さっき……その……」
「ああ、それは……別に。ただ、ちょっと悔しかっただけなので」
「え?」
「だって、理人さんは僕のモノなのに、あんな風に他の男に触らせようとするから……。本気で嫉妬しましたよ」
ぎゅうっと力強く抱き寄せられ、理人の肩口に瀬名の額が押し付けられる。その甘えるような子供じみた仕草に、理人の胸がトクンと鳴った。
「……っ、あ、あれは、お前が……っ」
「わかってるんです。理人さんが不本意だったっていうのは。……ああでも、あんな風に乱れる理人さんも、なかなかそそられるものがありましたけど」
「おいこら、変態」
「あはは、冗談ですよ。……でも、薬を仕込んだのがあいつっていうのが気に入らないので、今度は家で二人きりの時に試しましょうか、媚薬プレイ。ちょうど、もうそろそろ『アレ』も届く頃ですし」
にっこりと、一点の曇りもない満面の笑みを向けられ、理人は顔を引きつらせた。
「ふざけんな! 誰がするか、そんなもん! ……って、おい。アレってなんだよ」
「えー、理人さんが『買っていい』って言ったんでしょ? 媚薬入りのチョコ」
「あ? 何言って……」
言いかけて、理人の脳裏に以前のやり取りが鮮明に蘇ってきた。 確かに自分は、瀬名が欲しがっていたチョコレートを買うことを許可した。だが、あれは洒落た高級ブランドのチョコだったはずでは――。
嫌な予感に冷や汗を流しながら恐る恐る振り返ると、瀬名は「ほら」とスマホの画面を突き出してきた。 そこには、デカデカと踊る扇情的なキャッチコピー。 『今の性生活に満足していますか? 倦怠期のパートナーを媚薬の力で一変させる禁断の味――』
「…………」
あまりに怪しげな謳い文句に、理人は言葉を失い絶句した。
「ね? ちゃんと書いてあるでしょう。理人さんがいいって言ったから、てっきり興味があるのかと思ってました」
「くっ……あるか、馬鹿っ!」
あの時、瀬名が妙に上機嫌でいたのは、この不純な買い物のせいだったのか。
「はいはい、そんなに怒らないでくださいよ。本当は興味津々のくせに。……それにしても、さっきの理人さんの可愛さときたら。思い出すだけでも興奮しますね」
「っ、うるさい黙れ……っ!」
「あ、また赤くなった。本当、理人さんてば照れ屋さんですね」
「てめぇ、いい加減にしろっ!」
「はは、まあまあ。とりあえず朝ご飯にしませんか? 冷めちゃいますし」
瀬名は楽しげに笑いながら、むくれている理人を宥めるようにその髪を優しく撫でた。
いつもと変わらない、慈しむような手つき。その温度に毒気を抜かれ、結局理人は何も言い返せなくなってしまう。
(クソッ……)
こうやって簡単に絆されてしまう自分も大概だと思いながらも、理人は瀬名に引かれるまま、素直にベッドを降りた。
#ゆめちゅーい