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※長いです
※過去編②(終)
「………おんりー、…。あの、……落ち着いて、聞いてほしい。」
「………。」
それから、よく、憶えていない。
たしか、病院かどこかに行って、ドズルさんがいて、待合室かどこかで、もう分かってたよって言うみたいに、ぼうっと、話を聞いてた。
ような、気がする。
「 ……………、…… 、……………… 。」
…………ぼんさんがしんだんだって、おもった。
なんとなく。
なんとなく分かってたのに、信じたくなくて、だから、。
どんって、重たい槍を喉に突き刺された気分だった。
「……………、」
じくじくした、熟れた傷痕みたいな痛みは、もうこの時からずっと、なんだね。
ずっと大切にしてたぬいぐるみを無くしちゃったみたいな。
?
いても分かんないのにいないと足りないの。
名前も知らないような身体の部分、ぜんぶ、気づいたらこぼしてたみたいな。
心臓のど真ん中を半径2センチメートルの銃弾で撃ち抜かれたみたいな。
「…、………………なに…、……なにいってんですか、」
「……。ごめんね。信じられないと、思う、けど、…。」
「 … … …… 、」
助からなかったんだ、って、
それ意外、知らない。何も聞いていない。
何も耳に入ってこなかったから。
「………僕は、そこにはいなくて、偶然会社の近くだったから、駆けつけたんだけど、ね。」
「 」
だれか、だれか、通行人…、余所見をして飛び出した小学生を、庇ったんだって。
誰も悪くなかったんだって、ドズルさんは言ってた。
じゃあなんで誰も悪くないのにぼんさんだけが被害受けなきゃなんないんだよ。
「…。」
口をつぐむ。
こんなこと言っちゃいけない。
事実なんだからどうしようもない。
でも、
「……。………………。」
ねぇ、ねぇ。こんなこと絶対言っちゃいけないけどさ。
でも、それでも、その小学生が死ねばよかったって。おもった。そう思ってしまった。
「 、ぁ 、 」
…………なんで。なんでぼんさんじゃないといけなかったんだろう。
なんでぼんさん一人で逝っちゃったんだろう。なぁ。
じゃあ連れてってくれればよかった。
いいよ。もういいよ。いくらだって身代わりになるのに。
今日、自分の心臓に、絶対になにかが足りなくなった。
ただ人間として彼が呼吸をする必要がなくなったこと、
それだけじゃなくて、もっと、もっと、幼稚園のころからずっとずっと大事にしてた宝物を、なくした。ような。
でもそれが何か分からなかった。
ぼんさんにはもう会えない。その喪失感?
もう、もう、会話して、触れて、怒って、笑って、一緒にいて、くれないの、?
もう会えないの。
正しいことを言う自分の心のかけらが憎くてたまらなかった。
何回も反芻しては込み上げてくるばっかりだ。
「……ッぐす…、……ぅ、……っぅく、」
………こんなに堪え性なくなっちゃったのも、ぼんさんのせいだよ。
嘘が吐けなくなった。
随分と甘ったれになった。
無理、を、しなくなった。
やさしい後遺症だけ遺して居なくなっちゃうなんて、卑怯。
「大丈夫?おんりー。……トイレ行こっか。」
たくさん見られた。
それでもよかった。
だってお前らには俺の気持ちなんか分かんない、だろ?
「…、………ッ、ぅぇ、…はい、……」
そんで、ドズルさんに背中をさすられて、誰もいないトイレの中で声が枯れるくらい泣いた。
こんなに、好きだったんだなぁ。
今更気がつくなんて、馬鹿馬鹿しい。な。
今思えばあの時、泣きもせずに黙って慰めてくれたドズルさんはすごいなぁって。
あの人なりの強がりだったのかもしれない。
「…………。」
そう思えば自分はひどく弱い人間だった。
「………っぅ……、…ッ……………、っ………、…、」
眠れなかった。
………今日はいつもより少しだけ、さびしい日だから。
って、ドズルさんとおらふくんとめんと…、みんなで会社でご飯を食べて、だけど俺だけが、食べ物を喉が通らなくて。
「おんりーはぼんさんのこと、ほんとに大好きやったんやね」って、おらふくんに言われた。
「愛だなぁ」って、めんが呟いてた。
みんな、みんないつもの様子で、
ひどく無理をしているのは分かっていたけど、
それでも、俺だけが、
笑えなかった。
返せなかった。
こえがでなかったの。
「おらふくんは俺の気持ち分かんないでしょ」なんて、言えるわけなくて。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
冗談だって言えなくなった体だ。
「………っぅぐ、……っ…う、………ッ………、」
そんなことにはなり得なくても、
自分でも脱水状態になりそうだと思うくらい、涙ばっかり、こぼれてって。
ひとりのくせに声を押し殺した。
これもぼんさんに対する強がりの、癖だ。
「………はぁッ、」
正常な酸素を吸う。
正常じゃない、息をした。
「…………………ぜんぶ………、」
「ぜんぶ…、ゆめだったらよかったのに、…なぁ…、」
なんにも見えない視界で、
たのしいを感じることを忘れた喉で、
そう、呟いた。