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夢を、見ているような気がした。いや、正確には見ていたかったのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
暗い部屋に重たい空気が入り込んで肺を絞めてくるような気がして今にも私の体内の器官一つ一つが汚れて溶けて崩れて外にばら撒かれる汚い光景が広がる。
「・・・なわけないじゃんね」
誰に話しかけているのかも分からない、意識があやふやで今見ている光景も何も無い。ただそこには景色があるはずなのに私が見ているのは私自身のような気がして酷い目眩と吐き気がする。
私は今、何を考えていたんだっけ。
そんな呑気なことを考えれるほどには私は生きていて無様に血反吐を吐きながら地に這いつくばっていた。
「___・・・い、おーい、聞こえてる?生きてる?まあ生きてるか、生きてなくても興味無いけど」
声がした方を見つめる、人がいた。
「お、目動くし焦点もあってるね、君ってここに住んでる人?住民なら余程変な場所だね、ここ。趣味が悪いとかいうレベルじゃないや。」
ハハハと気味の悪い笑い声をあげる、黙れ黙れ黙れそのうるさい口を開くなよ。目の前の物体を認識したくなくて聞こえないふりをする。いや、しようとしていた。
目を逸らすとガッと顎を凄まじい力で掴まれ無理矢理そちらに向けさせられる。
「おい、目を逸らすなよ。いや、別に逸らしてても逸らしてなくても今から僕がすることは変らないけどさ。」
とりあえず、別の部屋に仲間もいるから僕についてきてよ、なんて如何にもここの主人だと言うかのように私に指図をするこの物体に殴りかかりたい衝動をグッと堪え、後ろを歩く。
「へぇ、着いてきてくれるんだ、おもしろ、人形みたいだね、君って。なんにも考えず目の前のことにしか興味がない、でも興味が湧くだけで実際に何かすることはないし、興味を持つなと言われれば直ぐ様そうする、そんな感じ。」
ベラベラとどうでもいい話を勝手に話される。一度殴っておけば良かったのかもしれない、けど殴ったら私がどうなるか分かんない、お仕置きは嫌。誰だって痛いのは嫌。
無駄話を無視しながら思考に浸ればドアの開く音で現実に引き戻される。
「この家、まだ人がいたみたいだったから、連れてきたよ。」
少し目を上に向けて見てみれば、寝転んでいる者、ビクビクしながら座っている者、電波が繋がらないのかウロウロと歩き回る者、声が聞こえているのかいないのかボーっと天井を見上げる者、少なくとも横にいる物体を含め5、か?と足りない頭で数えた。足りないのは頭以外にもあるけれど。
ジー、と横の物体を見れば、こちらに気づいたのか目が合う、いや、実際には私は目なんて合わせていなかった。目を見たのは、目の中に映るあたし。相変わらずの死んだ魚の目のような目で、目の中に指を突っ込みたくなった。
「自己紹介してなかったね、僕、佳、フルネームは要らないでしょ。なんなら覚えようとも思ってなさそうだし。」
そう言い終えるとこちらを見つめ返す。きっと挨拶返しを待っているのだろう、目の前の物体達にこの家の空気が吸われているのがどうにも気に食わなかった。
「・・・」
しばらく黙ってみれば、物体は溜息をついて目の前の4の物体を指さした。
「あそこで寝転んでるのは志津、無口で口を開けば毒舌、もし君がマゾなら話しかけにいくといい。」
「あそこでビクビクしてるのは真衣、すっごくウザいでしょ。僕もそう思う。メソメソしてて面倒くさい。」
「あそこでウロウロしてるのは東根、人一倍正義感の強いバカ。死に急ぎたいならついていくといいよ。きっと面白くて残酷な最後になる。もちろん人生のね。」
「あそこでボーっとしてるのは柳、今はしてないけど多分あと10分後には大麻を吸ってる。この中で一番無害でカスだ。」
これでいい?と言うかのように眉間に皺をよせてこちらを見る。別に教えてもらわなくても構わなかったが、もし名前を言わないでお仕置きをされるのは嫌だ。
溜息を吐きたい気持ちを手を握りしめ抑え込む。出されかけた息が私の体を巡り巡っていくのを感じる。
「__・・・ルーチェ。」
「それは、君の名前なの?」
首を上下に動かして肯定する。そうすると物体は満足したのか、荷物を背負い直してドアを開けて、4の物体に呼びかける。
「ほら、名前も聞いてやったし自己紹介もしてやったぞ。早く行くぞ。」
そう言うと4の物体はそれぞれのペースで荷物を背負い、私もその物体達の後をついていこうとついて行った。