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『君には見えない、誰かの世界』
第2話「閉じた世界」
――あなたは、じゃぱぱと別れた。
昨日まで知らなかった。
人が「一人になること」を、あんなにも怖いと思うことがあるなんて。
でも――
まだ、あなたには分からない恐怖がある。
その日の帰り道。
あなたは駅へ向かって歩いていた。
すると――
駅の入口で、一人の少年が立ち止まっているのが見えた。
黄色い髪。
元気そうな雰囲気。
……なのに。
なぜか、エレベーターの前から動かない。
あなたが近づくと、少年が気づいた。
tt「おっ!」
tt「昨日じゃあぱと一緒にいた子やん!
じゃあぱと俺は昔っからの親友やねん」
少年は笑った。
tt「俺、たっつん! よろしくな!」
あなたも挨拶をする。
tt「……って、ここで何してんねん?」
たっつんがあなたを見る。
あなたが駅へ向かっていることを伝えると――
tt「おお! ほんなら一緒に行こや!」
そう言って歩き出す。
しかし。
エレベーターの前で、たっつんの足が止まった。
tt「……」
あなたが不思議そうに見る。
tt「……あー」
tt「エレベーター、使うんか?」
あなたが頷く。
tt「そっか……」
たっつんは笑った。
tt「ほな、階段で行こ!」
あなたは少し驚いた。
駅にはエレベーターがある。
階段よりずっと楽だ。
でも、たっつんは階段を選んだ。
-–
階段を上りながら、あなたは尋ねた。
「エレベーター、嫌いなの?」
tt「ん?」
たっつんは少し黙った。
tt「……まあな」
tt「ちょっと苦手やねん」
それ以上は言わなかった。
あなたも深く聞かなかった。
-–
ところが。
数日後。
あなたとたっつんは、街の建物に用事があった。
目的地は――最上階。
tt「よっしゃ! 行くでー!」
たっつんは元気よく階段を上っていく。
あなたも後ろをついていく。
……しかし。
途中でたっつんが立ち止まった。
tt「……なあ」
たっつんが建物を見上げる。
tt「階段……何階まであるん?」
あなたが確認する。
かなり上だ。
tt「……」
たっつんの顔から、笑顔が消えた。
tt「……エレベーター使わんとあかん?」
あなたは頷く。
たっつんはしばらく黙っていた。
tt「……大丈夫や」
tt「俺も乗れる」
-–
エレベーターの扉が開く。
たっつんが中へ入る。
あなたも入る。
扉が閉まる。
――カチャン。
その瞬間。
tt「……」
たっつんの表情が変わった。
あなたが横を見る。
たっつんは壁を見つめている。
tt「……何階やっけ?」
あなたが答える。
tt「そ、そっか」
ボタンを押す。
エレベーターが動き出す。
ウィーン……
tt「……」
たっつんの手が震えている。
あなたは声をかける。
tt「……大丈夫や」
tt「大丈夫、大丈夫や……」
自分に言い聞かせるように繰り返す。
tt「すぐ着くんや」
tt「すぐ……」
突然。
エレベーターが少し揺れた。
tt「っ……!!」
たっつんが壁に手をつく。
tt「……っ」
呼吸が速くなる。
あなたが声をかける。
tt「……ごめん」
tt「ちょっと……待ってな」
たっつんは目を閉じた。
tt「ここ……狭いな」
tt「空気……少ない気がする」
あなたには普通のエレベーターにしか見えない。
壁も。
天井も。
ドアも。
何もおかしくない。
でも――
たっつんにとっては違った。
tt「出たい……」
tt「ここから……出してや……」
声が震える。
tt「頼むから……」
あなたは、たっつんの隣に立った。
そして、落ち着くまでそばにいる。
たっつんは何度も深呼吸をする。
tt「……っ」
tt「……ごめんな」
あなたが首を横に振る。
tt「……ありがとう」
-–
やがて。
チン――
扉が開いた。
たっつんは、ほとんど飛び出すように外へ出た。
tt「……はぁっ……」
壁に背を預ける。
しばらくして。
ようやく呼吸が落ち着いた。
tt「……やっぱ、あかんな」
たっつんは苦笑した。
tt「俺、狭いとこ……ほんまに怖いねん」
あなたは尋ねる。
「どうして?」
tt「……昔な」
たっつんは少し遠くを見る。
tt「小さい頃、狭い倉庫に閉じ込められたことがあってな」
tt「ほんのちょっとの時間やったらしい」
tt「でも俺には……ものすごく長く感じた」
tt「暗くて」
tt「狭くて」
tt「声出しても、誰にも聞こえへん気がして……」
たっつんは自分の腕を握る。
tt「それからや」
tt「狭い場所に入るとあの時のことを思い出してまう」
そして、いつものように笑おうとする。
tt「まあ! だからって、ずっと避けてるわけにもいかんしな!」
あなたは黙っている。
tt「……でもな」
たっつんが小さく呟いた。
tt「『そんなの気にしすぎ』って言われると……ちょっと悲しいねん」
tt「俺だって、普通に乗りたいと思ってる」
tt「みんなみたいに、何も考えずに乗れたらええのになって」
-–
あなたは、たっつんを見る。
さっきまで笑っていた少年。
でも、その笑顔の下には――
閉じ込められることへの恐怖が
あった。
あなたには、ただの小さな箱に見える。
でも彼にとっては。
そこは――
逃げられない世界だった。
-–
帰り道。
あなたはたっつんに尋ねた。
「じゃあ、これからもエレベーターには乗らないの?」
tt「……うーん」
たっつんは少し考える。
tt「無理には絶対乗らないんちゃうかな」
tt「怖いもんは怖いし」
そして笑う。
tt「でもな」
tt「いつか、ちょっとだけなら乗れるようになるかもしれへん」
tt「その時は……」
たっつんがあなたを見る。
tt「一緒に乗ってくれる?」
あなたは頷いた。
tt「……!」
tt「約束やで!」
たっつんは嬉しそうに笑った。
-–
あなたはまだ知らない。
あなたには「普通」に見えるものが世界で一番怖いものになっている人がいることを。
そして。
その「怖い」を知るたびに、
あなたの世界も少しずつ変わっていくことを。
-–
第2話「閉じた世界」――終わり
次回――
あなたが出会うのは、
高い場所を恐れる少年。
あなたは普通に見える綺麗な「景色」。
でも彼には――
足元が消えてしまうような恐怖だった。
コメント
1件
るり、読んだよ…🥀 たっつんのエレベーターのシーン、すごくリアルで胸が苦しくなった。普段あんなに元気な子が、“狭いとこほんまに怖いねん”って言う時の、笑顔の裏にある痛みが伝わってきたよ。しかも「気にしすぎ」って言われるのが悲しいっていう台詞、なんかすごくわかる…って思った。見える世界が違うって、そういうことだよね。 最後の「一緒に乗ってくれる?」で、ちょっと泣きそうになった。るりの描く、人の“怖い”をちゃんと見つめる優しさ、すごく好きだよ。次話の高所恐怖症の子も気になる…🌙