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テレビが完全に沈黙したあとも、部屋には重い空気だけが残っていた。
湊は震える息を吐く。
娘が連れ去られた。
それだけで頭が真っ白になりそうだった。
しかし隣では、朧の鬼気がまだ暴れている。
畳が軋み、壁にヒビが入る。
このままでは里そのものが壊れる。
湊は朧の腕を掴んだ。
「朧、落ち着け」
返事はない。
鬼の瞳は完全に赤く染まっていた。
殺意だけで動いている目。
湊は思い切り朧を抱き締めた。
「お願いだから!!」
その瞬間。
朧の身体が僅かに止まる。
荒い呼吸。
震える腕。
やがて鬼は、苦しそうに湊を見下ろした。
「……湊」
掠れた声だった。
湊は朧の頬へ手を添える。
「娘を助けに行くぞ」
その一言で、朧の瞳に少しだけ理性が戻る。
しかし怒りは消えていない。
むしろ静かに煮えたぎっていた。
「司会者を殺す」
低い声。
今までで一番冷たい声だった。
湊は頷く。
「……ああ」
その時。
部屋の外から足音が聞こえた。
ガラリ、と襖が開く。
現れたのは、里の古い鬼達だった。
巨大な角を持つ老人鬼が前へ出る。
「朧様」
空気がさらに重くなる。
老人鬼は低い声で続けた。
「“家族参加型”が始まった以上、鬼の里も無関係ではいられません」
湊は眉をひそめた。
「どういう意味だ」
老人鬼の目が静かに細くなる。
「昔から、“花嫁試験”には裏があるのです」
静寂。
湊と朧が同時に老人鬼を見る。
老人鬼はゆっくり口を開いた。
「本来、鬼は人を攫いません」
「え……?」
湊の声が震える。
老人鬼は続けた。
「試験を始めたのは、人間側です」
その言葉に、部屋の空気が凍った。
「鬼と人間を交配させ、“強い子供”を作る」
「そのために作られたのが、あの試験場」
湊の背筋を冷たいものが走る。
じゃあ司会者は――。
「あいつ、人間なのか……?」
老人鬼は頷いた。
「しかも上層部です」
朧の殺気がさらに濃くなる。
湊は息を呑んだ。
全部、遊びじゃなかった。
花嫁試験。
鬼の里。
生き残った者。
全部、“選別”だった。
老人鬼は最後に静かに言った。
「そして今回――」
「娘様が狙われた理由も、それです」
湊の頭が真っ白になる。
娘は、鬼と人間の血を引いている。
つまり――。
司会者側にとって、“成功例”。
次の実験対象。
朧の爪が、畳へ深く食い込む。
「……絶対に渡さない」
その声には、父親としての怒りが滲んでいた。
外では、不気味な鐘の音がまた鳴り始める。
ゴォン……
ゴォン……
まるで、次の地獄へのカウントダウンみたいに。