コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
日曜の午後。海はもう、夏の賑やかさをすっかり脱いでいた。
灰色の波が静かに寄せては返す。
そして、葵が――そこにいた。
ニットの袖を引きながら、小さく手を振ってくれた。
表情は少しこわばっていたけれど、確かにそこに“葵”がいた。
「……来てくれて、ありがとう」
紗季はそう言うと、真正面から彼女を見た。
「伝えたいことがあるの。ちゃんと、まっすぐに」
葵は何も言わずに、待ってくれていた。
「私、あのとき……怖かったんだ。葵が私をどう思ってるのかも、自分の気持ちも、全部分からなくて。でもね、今なら言える」
「……うん」
「好きだよ。葵のこと、ずっと。
誰よりも、安心するのも、嫉妬するのも、気になるのも――全部、葵だけだった」
「……本当に?」
「うん。本当」
言葉が海風に消えないように、紗季は一歩、葵に近づいた。
葵の目には、もう涙がにじんでいた。
「……バカだよ。ずっと待ってたのに。ずっと、紗季しか見てなかったのに……」
「ごめん。遅くなって。でも、今はちゃんとわかる。私は、葵といたい。これからも、ずっと」
ふたりの距離が、すっと縮まった。
自然に手が伸びて、そっと握ったその手のぬくもりは、あの日の教室と同じだった。
「紗季……私も、今でも、すごく好き」
秋の海辺に、小さな再会の光が灯った。
もう迷わない。もう隠さない。
それは、ふたりにとって二度目の“告白”であり、
初めて本当に心が重なった瞬間だった