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「わかりません」
すひまるは、明確に嘘をついた。
アビからは見えないが──彼女の視線の先には、確かに隠れているアオイの姿があった。
「ほう?そうか」
「そ、その……私は脅されていただけで……ルカさんに、無理やり!」
「ならば、仕方ないな」
「……え?」
「お、おねーちゃん!?」
その瞬間、すひまるの腕の中にいたセミマルの身体が、ふわりと宙に浮いた。
「セ、セミマル!?」
「おねーちゃん……なんか……身体のなかが、あつ……い、いた……い……」
「死ね」
「──おね、え……」
パンッ!!
破裂音。風船が割れたような。
だが、それは──小さな身体が肉片と化して四散した音だった。
部屋の中に血と肉が弾け飛ぶ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!」
すひまるの悲鳴が空気を裂く。
「セミマル!セミマル!!ど、どうして……!どうしてこんなことをぉぉぉおおお!!!」
絶叫しながら、すひまるの身体が変化する。【オルビアル】──紫の肌、針の尻尾、黒い翼。
絶望と怒りがそのまま形になった姿。
「殺してやる……殺してやる……!!」
少女の叫びが、王に向けて放たれる。
しかし。
「貴様ごときの攻撃が届くわけなかろう」
静かに放たれたその一言の直後──。
ズルン、と音がした。
見ると、すひまるの尻尾は根元から断たれていた。
「あ……れ……?」
次の瞬間、身体が崩れる。支えを失って前のめりに倒れ込んだ。
なぜ倒れたのか、すひまる自身もすぐには分からなかった。
でもすぐに気づいた。
──太ももから下の右足が、消えていた。
「ぐっ……ギギッ……」
激痛が、遅れて神経を襲う。
嗚咽すら、まともに出ない。
「ふむ、これでも出てこないとなると、どうやら本当に居ないらしい」
「ど、どうして……」
「報告によると貴様は『女神』に気に入られていたらしいからな。近くにいればこれで出てくると思っただけだ」
「どうして……どうして……」
「俺は慎重なのでな。まずこの女を匿っている時点で許すわけないだろう。それと、その身体を維持するには人間の血が必要……下級吸血鬼に人間の血は支給されない。どうやっていたのか気になっていたが——」
アビは【輸血パック】が詰められたバッグを軽く持ち上げて見せる。
「…………」
「どうやら、貴様は《工場》に忍び込んでこれで維持していたようだな。血を盗むのは重罪だ。【死刑】は確定している」
——最初から、アビは【すひまる】を殺すつもりだった。
甘い言葉で油断させ、居場所を聞き出し、利用するだけ利用して……用が済めば処分する。
「セ、セミマル……」
すひまるは、這うようにして近くに転がっていた【セミマルの肉片】を手に取る。
その手に、まだ暖かい感触があった。
それは、ほんの数分前まで確かに生きて動いていた——自分の弟の、ぬくもりだった。
「ごめん……ごめんね……セミマル……」
ぽた、と血と混じって涙が零れ落ちる。
すひまるの目から、生気が失われていく。
「貴様は良く働いた用済みだ……これから先はコイツを餌として誘き出そう」
そう言って、アビの瞳に【サソリ】の紋章が浮かび上がる。
そして——
【時が止まったままのルカ】の身体ごと、彼女は空間から姿を消した。
……………………
…………
……
『さぁ、絶望しなさい♪』
『ア・オ・イ・ちゃん♪』