コメント
2件
好ッ…!
ナチュラルに社長が犯罪してたり、ymが社長にほぼ依存状態だったりする。
なんかこの連載いっぱい♡押してもらってますね。私と同じ趣味の人いるのかな。
いつもありがとうございます!
文才なんかありません。
案の定駄文。駄文。
cpはどこかに記載してます。
主はにわかです。解釈違いがあると思います。
※ご本人様には関係ありません。
薬漬け
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kgym
街灯によって照らされた夜道を加賀美は足早に通り抜けていく。
本来ならもっと早くに帰れたはずだったものが、トラブルによりだいぶ時間がかかったのだ。
ただ、加賀美がこれ程急いでいるのには理由があった。
それが家で待たせている”彼”の存在。
彼は1人では何も出来ないのだから。急がなくては行けない。きっと今だって夕飯を食べることもなく、律儀に加賀美を待っているのだろう。
もっとも、そうなるよう躾けたのは加賀美なのだが。
家に着き、鍵穴に鍵を差し込んで回し、ドアに手をかけそのまま開ける。
玄関で靴を脱いだ。いつもの加賀美なら丁寧に揃えて置くものを、少し乱れたまま放置してリビングへと向かう。
「っ、ただいま帰りました!!」
『あ、おかえり。遅かったね、ハヤト』
その人は特に何をするでもなく、ソファーにちょこんと座っていた。特徴的な赤い目を細めて、夢追が加賀美に微笑みかける。
「すぐ夕飯の用意をするので少し待っていてくださいね、夢追さん」
『うん、ありがとう』
微笑みをかえしつつ言えば、夢追は一つ頷いて、またぼうっとし始めた。
夕飯と入浴を終えて、ソファーで取り留めのない会話を交わす。
会話が途切れた一瞬。狙っていたかのように加賀美の服が控えめに引かれた。
『ねえ、ハヤト。』
「…どうされました?」
『…….』
「言ってくれなきゃ分かりませんよ?」
嘘だ。夢追が言わんとしていることを加賀美は分かっている。加賀美にとってはそんなもの、夢追の何かを必死で強請るような瞳や紅潮した頬を見れば一目瞭然だった。
『…….ハヤト、今日、いつもより帰ってくるの遅かったよね?』
「ええ、そうでしたね」
『…ハヤトが帰ってくるまで、夢追ちゃんと待ってたよ?言われた通り、良い子で。…だからさ、』
宝石のような深紅の瞳が妖しげに細められた。
『…..ご褒美、ちょーだい?』
本当にこの人は強請るのが上手い。自分をしっかりと分かっていて、どうすれば加賀美が喜ぶのかを理解している。
それを見て、加賀美は口元を満足気に歪めた。
「ふふっ、分かりました。取ってくるので少し待っていてください」
そう言えば夢追が隠す気もなく破顔する。それを愛おしそうに眺めてから、加賀美は自室へと向かった。
加賀美が棚から取り出したのはシンプルな小瓶。その中には飴玉のようなものが詰められていた。加賀美はそれを見て、ふと何年も前のことを思い出す。
加賀美はその時、恋煩いをしていた。どうしようもなく好きでたまらない人がいた。
それが夢追だった。もう夢追の何もかもが愛おしくて、小さな仕草でさえ、微かに聞こえる呼吸音でさえ、どうしようもなくなるほどに好きで好きでたまらなかった。
好きだと自覚してからは、さらに感情が膨れ上がった。なんとしてでも手に入れたい、自分のものにしたい、自分だけを見ていてほしい。
そして、加賀美には悪癖と呼べるものがあった。気に入ったもの、欲しいものは手に入れて、自分の支配下に置かなければ気がすまなかった。そのための手段は選ばない。
夢追はその悪癖の対象になってしまった。
自覚をしてからの加賀美の行動は早く、とあるものを、とある筋から購入した。
それこそが、目の前で部屋の照明を反射する、この飴玉のようなもの。
実際には飴玉のような形状にしただけの、とある薬なのだが。
この薬、味は砂糖のように甘く、けれど依存性の高いもの。一、二回口にすれば、これがなくては生きられなくなる。
これを利用して、加賀美は夢追を手に入れることに成功した。
『ハヤト〜?』
リビングから夢追の声がした。待たせてしまっていることに気づき、加賀美は瓶から一粒取り出してから、夢追のところへ急いで戻る。
「はい、どうぞ。夢追さん」
とてとてと近づいて来た夢追の前に加賀美は薬を差し出す。
我慢できないというように、それを取ろうとする夢追に、少しの悪戯心がわいた。
「待て」
そのたった一言で夢追の動きはぴたりと止まる。
どうして、とでも言うように眉を下げて落ち着きなく瞳を揺らす夢追に、加賀美はどうしようもない愛おしさを感じた。
夢追が自分に従順で、自分の言動に一喜一憂して、きっと自分から死ぬまで離れられない。それが加賀美にとってどれ程幸福なことか。
「おすわり」
ぺたん、とへたりこむように、夢追が床に座る。未だ赤の瞳は不安げに揺れていた。
その様子に漸く満足したのか、加賀美が夢追の唇に薬を押し当てる。
「よし」
加賀美がそう言えば、夢追は直ぐに口を開いてそれを口内へと入れ込んだ。
先程のいじらしい表情が嘘だったかのように、幸福感に満ち溢れた顔になる。
加賀美がしゃがみこんで夢追の額に口付ければ、夢追は瞳をどろりと蕩けさせて、加賀美の胸にぐりぐりと頭を押し付けたり、ゆったりとした服から覗く鎖骨や首筋にキスを繰り返したりする。
歪んでいる、間違っている、これは異常だ。きっとこれを見れば誰もがそう思うだろう。
それでも加賀美と夢追にとっては、そんなことどうでも良かった。
加賀美は夢追を愛していて、夢追もそれを受け入れている、自分なりに加賀美を愛している。歪んでいても、捻じ曲がっていても、周りがどう思おうとも、それは愛に変わりなかった。
これは加賀美と夢追にとっては最大限の愛情表現であって、周りが思うほど醜く汚れたものではない。
「愛してますよ、夢追さん」
愛してる、なんて言葉では伝え切れるはずがない程に、膨れ上がった愛情が、執着が、加賀美のなかには今も渦巻いている。
そんな加賀美に対して、自分なりに愛を伝えようとする夢追に、またその感情が黒を帯びて肥大する。
加賀美は未だ惚けている夢追を抱きしめて、幸福に包まれた時間に身を委ねた。