コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「あぁ〜…」
と言いながら自分のデスクに突っ伏す鳥愛(とあ)。
「どーしたんすか鳥愛先輩」
「えー?」
まさか
「実はねー生徒に告白されてさー!んで、今日も目ー合ってドギマギよ!」
なんて言えないしな…
と思い
「いや…メガネ慣れなくてね」
と取り繕った。
「へぇ〜。メガネって全部一緒だと思ってました」
と感心する天美(あみ)に
いや、視界に少しかかるフレームの感じとあと重さと…くらいであんま変わんないけど
と心の中で思う鳥愛。
教室では1時間目の準備で教科書などを取りに生徒たちがロッカーに向かったりと騒めいていた。
「んん〜…」
アイビルの隣で葉道(はど)が鼻と上唇の間、人中と呼ばれる部分でシャーペンを挟みながら
上唇をうにゅうにゅ動かしながらなにか考えていた。
「なんか悩み事?」
アイビルが訊ねる。
「お。イケメンお悩み相談室?」
人中からシャーペンを落とし、右手でキャッチする葉道。
「いや、そんな大層なものではないけど」
「実はさー。うちらのオリジナル曲の作詞が進まんのよ〜」
と言っているとバンドメンバーの蘭と円も加わった。
円は葉道の机に座り、蘭は葉道のイスの背もたれに腰を預ける。
「うちのバンドさ?ま、オリジナル曲もあるけど少なくて
ライブハウスなんかでやるときには新曲がなくて、なんか、うぅ〜んって空気になるんだよね」
「ま、対バンライブだから、他のバンドのファンからしたら聞いたことない曲ばっかだからいいんだけどさ?」
「オレらのファンだよなぁ〜…。
せっかくオレらのファンでいてくれてんのに毎度同じ曲ばっかだと申し訳ねぇ」
「まあ、毎度同じではないけどな?」
「でも曲割的には既存曲やって新曲あるときには新曲じゃん?オール新曲とかやりたいじゃんね?」
「わかるけど。高校生だし、仕方なくない?」
葉道がペン回しを始める。
「というわけなのよ」
「なるほどね」
円が前のめりになり
「アイビルくんなんでもできそうだし、作詞とかもできるんじゃない?」
と目を輝かせて言う。
「え」
アイビルは円を見て、葉道に視線を移す。
葉道も「もしかして!?」と期待に目を輝かせてアイビルを見ている。
今度は葉道から蘭に視線を移す。
蘭も「え?できんの?」と、ほんの少しの期待を込めた目をしてアイビルを見ていた。
「いや…。あ、でもあれじゃない?なんか本軸の言葉とかテーマを決めて
物語なのか、伝えたいことなのか。物語ならケツを決めて
そのケツをラスサビかラスメロに入れて物語を組み立てる感じ。伝えたいことも同じ…かな。
伝えたいことだからリフレインしてもいいけど
リフレインしすぎると聴き手も「しつこい」とか飽きがくるのが早いから
あえて伝えたいことはリフレインせずにラストだけって手もあるけど。
ま、とりあえず本軸決めて書き出してみることだね。とりあえず書いてみてブラッシュアップ。
削れるとこは削って、言い換えできそうなとこは言い方変えて、歌詞として落とし込んでみる感じ。
ま、最近は物語風の、語り口調の歌詞もうけるから
あえて粗削りのまま歌詞にしてみて、メロディーつけてみるってのもありかもしれないけど」
と言ってみた。ハッっと我に返り、3人の顔を見た。
葉道と円はお口パッカーンと開け、固まっており、蘭は「スゲェ」というのが滲み出ている顔だった。
「す、すごいじゃんアイビル。マジで作詞のアドバイスまでできるなんて」
と驚く蘭。
「…っていうのを、こないだ音楽番組で言ってた」
「あぁ〜。なるほど。でもそれを覚えてるのがすごいと思うよ」
優しい蘭。葉道と円も
「「なんだぁ〜…」」
と安心したように脱力した。
「顔良くて、運動神経良くて、顔良くて、背高くて顔良くて作詞もできてって、完璧人間かと思ったわ」
「それなぁ〜」
という話をしていると1時間目が始まる時間が過ぎており、先生が急いで入ってきて
「よっ」
と言いながら机から下りる円と、葉道(はど)の頭に手を置きながら蘭は席へと戻っていった。
1時間目が終わり、2、3、4時間目も終わり、お昼の時間となった。
「お昼じゃい!」
葉道が嬉しそうにお弁当を出す。蘭は葉道が呼ばずとも葉道の側にやってくる。
「士はアイビルの机で食べい」
「なんで葉道が仕切ってんだよ」
葉道に軽チョップをする蘭。
「あいたっ!」
大袈裟な葉道。
「あと士はアイビルの前なんだから自分の机で食べていいだろ」
「あ、そっか」
「お昼!」
円が万尋(まひろ)の机に手を置き
「食べませんか!」
お次は虹言(ニコ)の机にも手を置いて2人をお昼に誘う。
「おぉ。いいよ」
「私でよかったら」
「うっしゃー!」
「あいつ元気だな」
とお弁当を食べながら言う葉道。
「お前が言うな」
と軽チョップする蘭。
「虹言(ニコ)ちゃん、ここ使っていいよ」
と蘭のイスをひく。
「いいの?勝手に」
「へーきへーき。家族の席みたいなもんだから」
勝手なこと言いやがって
と心の中で思う蘭。
「えへへぇ〜」
と自分のイスを蘭の机の近くに持っていく。
「お話したいと思ってたんだよねぇ〜」
ニコニコの円。
「羽飛過(うひか)さんは」
「円でいいよん」
「じゃあ。円はさー。バンドやってんだよね」
「よくご存知で!」
「いや、去年文化祭でやってたがな」
「そっかそっか。万尋ちんはー…何が好きなの?」
漠然とした質問をぶつける円。しかし万尋にとっては明確な答えがあった。
「プロレス」
「おぉ。プロレス。…全然知らんわ」
「でしょうね。知ってたら驚きだわ」
「虹言(ニコ)ちんは?」
「ニコチン…」
と小さく笑う万尋。
「私はー…」
「?」と思いながら答えを待っている間にチラッっと虹言のスクールバッグを見る。すると
「あ!え!あれってさ!」
とスクールバッグを指指す円。
「激痛!!ピアスちゃんでしょ?」
「あ、羽飛過(うひか)さん知ってるんだ?」
「もぉ〜。円でいいってば。知ってる知ってる!ほら」
と言って金髪ショートカットの髪の触覚部分を耳にかける。
すると鮮やかな赤のインナーカラー部分が見えるのと同時に右耳の複数のピアスがお目見えする。
「私めっちゃピアスしてるからさ?見てる」
と笑う。
「ほんとだ。すごいしてるね」
「スゴ。何個してんの?」
「6、1、5!だからー12個!」
「おぉ〜。多い。よくスッっと出てくるね」
「私6月15日日生まれでさ?6、1、5でピアスしよーって決めてたんだー」
「なるほどね」
「なるほど」
と納得する2人だったが、2人同時に
6、1、5…?1ってなんだ?
と思った。
「右が?」
「右が6。左が5。で」
と下唇の左端を指指し
「ここに1」
と言った。
「あぁ〜。リップに1つしてるんだ」
「そうなんよぉ〜虹言(ニコ)ちゃぁ〜ん」
「でも今はしてないんだね?」
「そうそう。冬休みに開けてさ?休み明けに着けて登校したら
さすがに学校では外しなさい。って注意された」
「へぇ〜。うち校則緩いのにね」
「ま、正確には外せるなら外しなさい。だったから、外せませーんって言えばつけられたけどね?」
と円は唇をつまみながら笑った。
「1年生は可愛いよねぇ〜」
「わかります」
鳥愛(とあ)と天美(あみ)もお昼ご飯を食べていた。
「まあ、この学校は昔荒れてたっぽいけど
今じゃお祭り事に力を入れる、世間でも評判の高校になったからね」
達磨ノ目高校でいうところの「お祭り事」とは
通常の高校での体育祭や文化祭などといった「行事」のことである。
「そうですよねぇ〜。実際生徒と接してみたら
みんな全然いい子ばっかで、ヤンキー…は少ししかいないですもんね」
「まあ。いるよね。何人かは。ま、でも大抵1年の前期で辞めるか、めっちゃクラスに溶け込むかの2択」
「それです。ま、実際中退の子が多い気がします」
「まあねぇ〜。いくらうちが偏差値低くて校則緩い高校でも
他の高校なんて足元にも及ばないくらい、お祭り事に力入れてるからね」
「高校のホームページにもパンフ(パンフレット)にも、そこ強調して書いてるんですけどね」
「ま、そーゆー子とかその子の親とかはそーゆーの読まないから。
ただ偏差値が低くて入れそうってだけで受験する子が多い」
「偏差値低いならコーミヤ(黄葉ノ宮高校の略称)とか行けばいいのに」
「あそこも今はヤンキーとか少ないらしいよ」
「あ、そうなんすね」
「なんか周りがいい子ばっかだと、結局のところ、染まるか辞めるかになるらしい」
「平和になりましたねぇ〜」
「この時代に教師になれてよかったねぇ〜」
「ま、仕事はブラックですけどねぇ〜」
「それ言わんでぇ〜」
「午後も頑張りましょー」
「頑張りましょー」
「午後も授業ー…嫌だぁ〜」
と教室では葉道が項垂れていた。
「それは同意。ずっと体育ならいいのに」
ととんでもないことを言う士。
「それはマジで勘弁してくれ」
と言う蘭。
「運動だけは苦手だもんなぁ〜蘭姉ち」
「せめて兄ちゃん」
そんなやり取りを微笑みながら見ているアイビル。そんなこんなで5時間目の授業が始まる。
“授業”と言ってもまだ新学年が始まったばかり。これからの授業方針や特別に使うもの
教室外で授業をする場合などそんなことを話して終わり。本格的な授業は来週から。
そんな説明を聞き、その日の授業と呼んでいいのかわからない授業はすべて終わった。
「うっしゃー!アイビル!この後飲みな!」
「飲み会みたいに言うな」
葉道の頭を蘭の軽チョップが襲う。
「終わった終わったー」
「お疲れ様です」
「天美(あみ)ちゃんもお疲れー」
「あざっす」
「ま、とはいっても教師はこれからもあるんだけどねぇ〜」
「それは言わんでください…」
クラス名簿を持って自身の教室に行く鳥愛(とあ)。
「お。鳥愛ちゃん来た。終わり終わりぃ〜」
と嬉しそうな葉道。クラス名簿を教卓の上に置き
「では。ホームルームを始めます」
と声を出す鳥愛。生徒が自分の席へと戻り始める。
チラッっとアイビルのほうを見る。目が合う。ドキッっとしてしまう鳥愛。
涼しげな綺麗な水色のサラサラの髪、まつ毛、眉毛、瞳。
涼しげで軽く微笑んでいる表情があまりにもイケメンすぎる。
「えぇ〜まあ今週はどぼ授業も説明くらいだったと思いますが
来週からちゃんと授業が始まりますので、寝たりとかしないように」
蘭「お前のことだぞ」
というメッセージを葉道に送る蘭。
「はぁ〜?」
クラス中の視線が葉道に集まる。鳥愛は微笑みながら
「どうしたのかな?狩野本くん」
「あ、いや。なんでもないよ、鳥愛ちゃん」
「奥樽家(オタルゲ)先生ね?」
「はぁ〜い」
「じゃ、問題ないと。私の授業も来週からしっかりやっていって
今計画しているのが、朝、小テスト的なものをやろうかと」
と言うとクラス中がざわざわする。中には
「えー。嫌だー」
ともろに口に出す葉道みたいなやつもいる。
「前日の授業の復習みたいな感じで、軽く、軽い問題にします。
そこからもテストを出そうと考えているので
朝のテストやればテスト勉強そんなにしなくてもいいかもしれませんよ?」
「「おぉ〜」」
という歓声が少しだけ上がる。
「という感じで今日はこれぐらいかな。…」
少し考えて
「うん。このくらい。ということで終わりにします」
「起立」
という掛け声でイスと床が擦れる音を教室中に響かせ、生徒たちが立ち上がり
「礼」
という掛け声で頭を下げる。
「「ありがとうございましたー」」
「ありがとうございました。さようなら」
「うっしゃー!」
とアイビルの肩を組む葉道。
「ワック行くよーワック」
「うん」
「士ー蘭姉」
「兄ちゃん」
と蘭もスクールバッグを持つ。
「蘭姉」
「兄ちゃん。なに?」
円もお決まりの呼び方で蘭を呼んだ。
「葉道とどっか行くんだ?」
「そ。ま、葉道とっていうかアイビルの歓迎会?」
「あ、そうなんだ?どこでやんの?」
「ワック。ま、近場のワックだからあの通り沿いのとこだろうな」
「なるほどね」
「んじゃ。またな」
「うい」
ということでアイビル、士、葉道、蘭で教室を出て下駄箱へ。
「お。わっきー!」
我希(わき)が下駄箱近くにいたので葉道が手を振る。士も蘭も
「わっきー」
「わっきー」
と愛称で呼ぶ。
「須藤先生でしょー。教育実習生じゃないんだから」
我希がアイビルに気づく。
「あぁ。君が奥樽家(オタルゲ)先生んとこの転校生くんか」
「あ、どうも」
「イ…いい先生のとこに入ったね」
イケメンだねというのを飲み込んだ我希。
「お?なんだ?わっきー鳥愛(とあ)ちゃんのこと好きなのかぁ〜?」
葉道が茶化す。
「そうなんですか?」
キリッっとした表情で我希を見つめるアイビル。
「は?いやいやいや。ま、奥樽家先生はたしかにいい人だけど
優しい先輩ってだけで他意はないよ。あと奥樽家先生ね?」
「ほんとですか?」
我希に詰め寄るアイビル。アイビルの後ろのほうでは
「タイはないってなに?あの外国のタイ?」
「他の意図って意味。だから他の意図はないですっってこと」
「なえうほどねぇ〜。…イトってなに?イトって服作りの糸?」
「バカすぎる…」
頭を抱える蘭。静かにスマホで検索エンジンHoogleで「いと」と入れ、予測変換に出てきた「意図」を見て
「あぁ、これか」
と小さく呟く士。そんなやり取りが繰り広げられていた。
「ん?うん。本当だよ?」
「そうですか」
安心した表情で引き下がるアイビル。
「んじゃ、オレらこれからアイビルの歓迎会行くから。あ、わっきーも来る?」
「行きたいけどね。仕事。ま、気をつけて楽しんで」
「ういーす」
「うっす」
「はーい」
下駄箱で普段履きに履き替えてワク・デイジーへ向かった。我希は職員室に戻る。
「あ、奥樽家先生。見ましたよ。転校生くん」
「お。会った?」
「会いました会いました。イケメンですね」
と言うと天美(あみ)がニヤァ〜っとして
「あぁ〜。ビジュ(ビジュアル)について言及しちゃーダメだよー?」
となぜか嬉しそうに言った。
「大丈夫ですよ。本人に言うのは堪えましたんで。ま、出かかりましたけどね」
「めんどくさいよねぇ〜容姿についての問題は」
「ですねぇ〜。女子生徒に「可愛い」とはさすがに言わないですけど
イケメンの生徒にはイケメンだねぇって言いそうになりますよ。同性なんで悪気なしに。
あと女子生徒に「髪型変えたんだけどどお?可愛い?」って聞かれたときの回答にも困ります。
お2人みたいに同性ならいいんでしょうけど」
「ま、同性でもビミョーなラインだけどね?」
「まあ、そっすよねぇ〜。大概似合ってるねで逃げますけど。…アイビルくんって海外の?」
「あ、そうそう。イギリスだって」
「イギリス!紳士の国だ」
「私はのどかな国ってイメージのほうが強いかなぁ〜」
「お。さすが地理教師。違った視てぇ〜ん」
と鳥愛(とあ)のイスの背もたれに背もたれをぶつける天美。
アイビル、葉道、士、蘭はそれぞれ注文をし、注文を受け取り席についた。
「ということで。遅くなりましたが、アイビルの歓迎会ということで」
士も蘭も頷く。
「かんぱーい!」
「「「かんぱーい」」」
ストローの刺さった紙コップをテーブルの中央でぶつけ合う。
「いやぁ〜こんなイケメンが転校してくるとは」
生徒同士(仲が良ければ大抵)では容姿についての言及も気にしない。
「わかる。あぁ〜イケメンだぁ〜って」
「蘭姉」
「兄ちゃん」
「意外と自分の容姿に自信持ってるタイプだから」
「あ、そうなんだ?」
と静かに驚く士。
「意外でしょ?表に出さないだけなんよ」
何食わぬ顔でフライドポテトを食べる蘭。
「へぇ〜」
と言っていると
「どぉーん!」
と葉道の頭の上にトレイが落ちてきた。
「いたっ。びっくりしたぁ〜…なに?」
葉道の正面の蘭が
「おぉ」
と手を挙げる。葉道の頭の上のトレイがどき、葉道が後ろを振り返る。
そこには円、万尋(まひろ)、虹言(ニコ)がいた。
「おぉ!なんだ、なんで?」
「え?蘭姉」
「兄ちゃん」
「からここ来るって聞いてさ?楽しそうだったから合流した」
と言いながら横の席に座る女子3人。
「雨上風(はれかぜ)さんと遠空田(とおくだ)さんも!お疲れ様です」
「お疲れーす」
「お疲れ様です」
「ということなので、改めまして」
と今一度ストローの刺さった紙コップを持つ葉道。
「転校してきたアイビルの歓迎会をこの7人でやりたいと思います!」
全員ストローの刺さった紙コップを持つ。
「ようこそ達磨へ!かんぱーい!」
「「かんぱーい」」
と全員で中央で紙コップをぶつけ合った。