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茶柱🍵🎴
3,935
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159
続き
初
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電車の扉が開いた瞬間、空気が一気に動いた。
ホームにいた人たちが同時に一歩踏み出す。
足音、スーツケースの転がる音、アナウンスの残響。
その流れの中で、彼は一歩も動かなかった。
改札側に半歩下がったまま、こちらを見ている。
⸻
「……乗らないんですか」
彼が言ったとき、口だけが動いていた。
肩も、足も、まったく揺れていない。
俺は電車のドアの前に立ったまま、彼を見返す。
「乗るかどうかは俺の勝手だろ」
言いながら、自分でも少し遅れているのが分かった。
⸻
ドアが閉まりかける。
ピピッ、と警告音が鳴る。
その瞬間、彼の指が一瞬だけ動いた。
まるで「止めたい」と思ったのに、やめたみたいな動きだった。
⸻
「……お前さ」
俺は電車に背を向けるようにして、ホーム側に一歩出た。
ドアが閉まり、電車がゆっくり動き出す。
風が横から抜けていく。
「一年間、ずっとそういうつもりだったのか」
彼はその間ずっと、俺の目を見ていた。
視線が一度も外れない。
「はい」
即答だった。
⸻
「妹は?」
俺がそう聞いたとき、初めて彼の目が一瞬だけ下に落ちた。
でもすぐ戻る。
「関係はありました」
そこで一歩、彼が近づく。
ホームの白線を越えないギリギリで止まる。
「でも、理由でした」
⸻
電車の音が遠ざかる。
その代わりに、駅のざわめきが戻ってくる。
俺は腕を組んだまま彼を見る。
「最低だな」
そう言ったとき、彼は肩をすくめた。
「よく言われます」
その動きは小さいのに、妙に自然だった。
⸻
沈黙が落ちる。
彼は右手をポケットに入れたまま、左手だけ少し握っている。
たぶん無意識だ。
⸻
「それで?」
俺が聞くと、彼は顔を上げる。
「まだ終わってないんだろ」
その言葉に、彼の足がほんの数センチだけ前に出る。
でも、すぐ止まる。
「……はい」
⸻
今度は俺の方が一歩動いた。
彼との距離が、さっきより明確に近くなる。
ホームの床の線をまたぐ感覚がある。
⸻
「終わらせ方がわからないだけです」
彼が言うとき、喉が一度だけ上下した。
「一年あっても?」
「一年あっても、増えるだけでした」
⸻
その言い方がやけに正直で、逆に逃げ場がない。
俺は息を吐く。
「じゃあ聞くけど」
一歩、さらに近づく。
彼の顔が少しだけ上を向く距離。
「俺が迷惑って言ったら?」
⸻
彼の返事はすぐ出なかった。
初めてだ。
今までずっと即答してきたのに。
視線がほんの一瞬だけ揺れて、それから固定される。
「諦めます」
言いながらも、手はポケットの中で強く握られているのが見えた。
⸻
「でもすぐには無理です」
「それはどういう意味だ」
「距離は取ります。でも、消えません」
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その言い方に、思わず笑いそうになる。
矛盾してるのに、本人はまっすぐだ。
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「勝手だな」
「すみません」
謝りながらも、彼は一歩も下がらない。
⸻
沈黙。
駅のホームに人が流れていくのに、ここだけ止まっているみたいだった。
⸻
「……一個だけ」
俺が言うと、彼の肩が少しだけ動く。
「お前のそれ、本気なのか」
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彼は今度は即答しない。
一拍、二拍。
それから、はっきり頷く。
頷くと同時に、一歩だけ前に出た。
「本気です」
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距離が、はっきり近くなる。
もう、会話の距離じゃない。
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「今すぐ答えは要りません」
彼はそう言いながらも、目を逸らさない。
「でも、また会ってもいいですか」
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そのとき初めて、彼が“待つ側”の姿勢になる。
一歩踏み出したまま、止まっている。
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駅のアナウンスが次の電車を告げる。
俺はその音を聞きながら、まだ答えを出していない。
ただ一つだけ確かなのは、
さっきより“逃げる選択肢”が減っているということだった。
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こうすると「誰がどこで動いたか」「距離がどう変わったか」が追いやすくなるはず。
コメント
5件
第4話、すごく良かったです。駅のホームでの距離感の描き方が秀逸で、一歩ごとに変わる間合いが心理の動きそのものになってるのが素敵でした。「終わらせ方がわからない」という言葉に、一年間の重みと迷いが凝縮されていて、そこからの「諦めます、でも消えません」の矛盾した真っ直ぐさに胸を打たれました。二人の呼吸が読んでるこっちにも伝わってくるような、静かな緊張感のあるエピソードでした。続きが気になります!