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【いつだって現実は理不尽に訪れる】
<佐伯 翠>
〇〇年4月22日
両親が事故で死んだ。
俺の誕生日、即死の事故だった。
誕生の3日前、俺は誕生日当日を待てず誕生日プレゼントを1日でも早く欲しいと学校から帰った後の自宅で癇癪を起こした。
困り果てた母の小春は、父の晴の帰宅後既に準備してあったプレゼントを特別に渡してくれた。
俺が癇癪を起こしてる間、
母の小春は最初は『我儘言わないの!』などと怒りながらも生まれた時病気を患い、
保育園卒業まで定期的に通院の日々だった俺が晴れて小学校入学と共に病気も快癒した為、
俺の誕生日を毎年誰よりも喜んでくれていた人の1人だ。
父の晴に相談するまでもなく既に渡すつもりで居てくれたようだった。
父の晴の帰宅後すぐに誕生日プレゼントを貰った俺は、癇癪が嘘かのように大喜びで両親も癇癪に呆れつつも少し早い誕生日をとても喜んでくれた。
プレゼントは、父の晴の身につけている時計に憧れて小学6年生に見合わず時計を強請ったのだ。
少し小さめなプレゼントの箱の中からは、
俺の名前にある翠に合わせて基盤が緑色、
聡明な銀色の縁の秒針の針、
ベルトは父の晴を連想させるかのような藍色。
包装紙を急いで剥ぎ取り、
手首に時計を付けた。
付けた瞬間に不思議な感覚がした。
秒針の音がまるで心臓の音のように俺の腕に馴染んだ。
父と母の心臓の音も聞こえるようだった。
規則的な音。
俺と何ら変わりない音だった。
音と共に父と母を見ると身体全体に黄色とピンク色のようなモヤが見えた。
不思議な感覚とモヤが見えた俺は目を擦った。規則的な音とモヤは変わらずに2人の周りに見えた。
その様子を不思議に思った母は、
『プレゼント…気に食わなかった…?』と心配そうに声を掛けた。
その時母の周りのモヤはだんだんと青に近くなっていくのも見えた。
心配をかけるまいと、我に返りいつも通りに振舞った。
俺の様子をみた後の母の周りのモヤは青からだんだんとピンクへ変わっていった。
『気のせいだ』
と思うと同時に少し怖くなった。
大切にしたいからと直ぐに時計を外し、箱へ戻した。
その後、父の晴から誕生日ケーキがどうしても間に合わないから誕生日当日の3日後、母の小春と一緒に渡してくれると約束してくれた。
俺の腕に馴染んだ時計が、
あの不思議なモヤが、
両親の死を感じ取らせてくれると知ったのは
大学生になり、〈あいつ〉と出会ってからだった。
そう、いけ好かない、
真面目そうな眼鏡をかけてるくせに
耳はピアスの穴だらけの〈烏丸晴馬〉
容姿端麗、秀才、友達も沢山。
まるで漫画の主人公のようなやつ。
俺の人生の中で友達になるはずもないあいつ。
俺の、見えてはいけないものを、
その存在を、初めて疎まず受け入れてくれた、
深い宵闇の中から抜け出せない俺を、
すくい上げてくれたいけ好かないあいつとの出会い。
止まっていた秒針の針が動き出した瞬間だったのかもしれない。