テラーノベル
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硝煙の向こうから現れたのは、いつも通りの黒外套を羽織った太宰治だった。
だが、その表情からはいつもの軽薄な笑みが完全に消え失せていた。
部屋に充満する中也の甘い匂いと、それに群がる群犬の姿を見た瞬間、太宰の瞳の奥に、凍りつくような「αの暴虐」が灯る。
「僕の犬に、誰の許可を得て触れているんだい?」
低く冷徹な声。
次の瞬間、太宰の放った圧倒的なαの威圧が室内を圧殺した。
敵のαたちは、そのあまりの格の違いと恐怖に、悲鳴を上げることすらできずにその場に頽れ落ちていく。
太宰は一瞬で敵を無力化すると、一歩一歩、中也の元へと歩み寄った。
ナイフで中也の拘束を切り裂く。
「はぁ、はぁ……っ、太宰、お前……」
「作戦は大失敗だね、中也。君がこんなに抜けた犬だとは思わなかったよ」
口調は冷たいが、太宰の指先はわずかに震えていた。
中也の濃厚なフェロモンを浴びて、太宰の中のαの本能もまた、狂いそうなほどに中也を「今すぐ自分のものにしろ」と叫んでいたからだ。
「あ、つい……っ、クソ、頭が、おかしくなる……ッ!」
中也は理性を失いかけ、涙を流しながら太宰の服を掴んで縋りついた。
他の一切のαの匂いを拒絶した中也の身体は、今や目の前の太宰という絶対的なαだけを求めて泣いている。
太宰は中也の細い身体を組み敷くようにして、床に押し倒した。
「……ここで君を本当に『番』にしてしまったら、首領の思う壺だ。だけど」
太宰の手が、中也の首元の黒いチョーカーを乱暴に引きちぎる。
露わになった汗ばんだ真っ白なうなじ。
「君を他の誰の匂いにも染めさせない。君を支配するのは僕だけだ」
「あ、っ……はやく、しろ……っ!」
「これは『仮噛み』だよ。君を繋ぎ止める、僕だけの鎖だ」
──グサリ、と太宰の鋭い牙が、中也のうなじの皮膚を浅く割り、肉に突き刺さった。
「──ッあぁぁァァ!!」
中也の身体が大きく跳ね上がる。
本当の番にするための深い一撃ではない。
だが、傷口から直接流れ込んできた太宰の濃厚なαフェロモンが、中也の全身の血を支配していく。
暴走していたΩの熱が、太宰の圧倒的な力によって「仮初めの服従」を受け入れ、急速に引いていく。
「ハ、あ……、クソ、太宰……」
中也は安堵と、太宰に刻まれたという屈辱のなかで、ぐったりと意識を失った。
首の後ろに残された、くっきりと赤い太宰の歯型。
これが、数年後まで中也を縛り続ける、二人の「未完成の首輪」となった瞬間だった。
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#文スト中原中也夢
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