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二人の背後にある雄大の部屋のドアが、ゆっくりと、音もなく開き始めた。
夢「……!」
夢は息をのんだ。振り返る勇気がない。
雄大「……隣人さんの部屋に、まだ塩があったはずだ!」
雄大は夢の手を引いて、隣人の部屋のドアへ向かおうとした。その瞬間、背後のドアの隙間から、昨日と同じ、異常に白い指が這い出てきた。
雄大「くそっ、もう来たのか!」
隣人の部屋のドアは、鍵がかかっておらず、雄大は勢いよく押し開けた。
雄大「隣人さん! 助けてくれ!」
部屋の中は、先ほどまでとは雰囲気が違っていた。塩の山は崩れ、壁に貼られたお札は焼け焦げたように黒ずんでいる。そして、隣人の姿はどこにもない。
夢「いない……!」
雄大「どういうことだ!? 隣人さんは自分の身は護れるって言ってたのに!」
その時、隣人の部屋の窓の遮光カーテンが、風もないのに大きく揺れた。カーテンの隙間から、無数の白い手がニョキニョキと這い出てくる。窓枠の向こう側は、もう安全な『境界線』ではなかった。
隣人(偽物)「あはは……もう、お終いですよぉ……」
隣人の声で笑いながら、白い手は夢と雄大に向かって伸びてくる。
雄大「逃げるぞ、夢!」
二人は隣人の部屋を飛び出し、マンションの非常階段を駆け下りた。頭上からは、白い手が伸びきって追いかけてくる。まるで、マンション全体が彼らの巣食う『間』になってしまったかのようだった。
夢「契約書は!? サインした契約書は!?」
雄大「隣人さんの机の上に置きっぱなしだ! 取りに戻る時間はない!」
二人はマンションのエントランスを飛び出した。外は深夜の静寂に包まれていた。街灯の光が頼りない。
雄大「俺の車まで走るぞ! 街の外まで逃げるんだ!」
夢「うん!」
二人は必死で走った。後ろを振り返ることはできない。ただ、足元のアスファルトの『公道』という明確な境界線を信じて走る。
雄大「夢、大丈夫か!? もう少しで車だ!」
その時、二人の目の前に、一台のトラックが急停車した。運転席から降りてきたのは、昨日夢の部屋に来たはずの、ドロドロに汚れた偽物の雄大だった。
雄大(偽物)「待てよ、夢〜。置いてかないでよぉ〜」
偽物はニヤリと笑い、ゆっくりと公道に足を踏み出した。
夢「公道は境界線なのよ! 跨げないはず!」
しかし、偽物は黒い煙を上げながらも、平然と公道へ足を踏み入れた。
雄大(偽物)「ふふ……昨日の話はもう古いよ、夢。俺たちはもう、学習したんだ……」
「間の住人」は、進化していた。
つづく