コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
~CHIAKI side 。:.゚。+。 ゚+.
千秋はひとつだけ紗那に後ろめたいことがある。
5年以上前に紗那と初めて会って気になったことは事実だが、知人のバーで奇跡の再会を果たしたのは嘘だ。
あれは計画的なものだからだ。
あのバーに紗那が頻繁に訪れることを千秋は知っていた。なので、バーの店長にそのことを伝えて、紗那が来たら連絡してくれるようにお願いしていた。
そうやって、千秋は紗那が来店時に店を訪れ、カウンターテーブルの隅っこでこっそり紗那を眺めて過ごした。
紗那は友だち同士で訪れることもあったし、会社の同僚と一緒のときもあった。そして、山内優斗と一緒に来たこともある。
あるときは優斗が酷く酔っぱらっており、他の友人たちに罵詈雑言を浴びせていた。困惑する友人たちに、紗那が代わりに謝っていた。
そんな紗那を見て思ったものだ。
(俺ならあんな恥ずかしい醜態を見せて彼女を困らせたりしないのに)
そんな思いを抱きながらも、彼は遠くから見ていることしかできなかった。
これは紗那と再会する少し前のことだ。
この日千秋は酔っていて、バーの店長に愚痴をこぼしていた。
すると店長は呆れ顔で千秋に訊ねた。
「お前いつまで彼女を追いかけるつもり?」
「うるさいな。見守っているだけだ」
「彼女を尾行してるだろ」
「たまたま、偶然、町で見かけただけだ」
「なんでたまたま見かけた場所が産婦人科なんだよ。おかしいだろ」
千秋はグラスの酒を飲み干してテーブルにダンッと置いた。
この日、千秋は見てしまったのだ。
紗那が産婦人科から出てくるところを( ※紗那が産婦人科に行った理由はピルを処方してもらったから)
それで彼は壮大に勘違いした。
紗那は婚約者の子を妊娠しているのだと。
そのことに大きなショックを受けて立ち直れなくなり、ひとりで飲み屋を梯子して酔い潰れたのだった。
「もう諦めるしかないのか」
「そうだな。諦めろ。お前ならすぐ他に相手が見つかるよ」
「紗那ちゃんでないとだめなんだ!」
「紗那ちゃんて……」
「海外にいるあいだ彼女のことを忘れられると思った。しかし、戻ってきて偶然彼女を見かけたら、恋心が再燃した!」
「いちいち中学生みたいな発言するなよ。イメージ総崩れするぞ」
紗那に恋人さえいなければ、さりげなく近づいて知り合いになって少しずつ距離を縮めることもできたかもしれない。
結婚前ならパートナーを奪っていいという考えの者もいるようだが、千秋は従姉の件もあってそんな気にはなれず、紗那を忘れる努力をした。
意外と真面目で一途だと店長は言ったが、彼はそれ以上に疑問があったようだ。
「どうして“紗那ちゃん”でないとだめなんだ?」
「彼女は大和撫子なんだよ」
「うーん、たぶん他にもいると思うよ? そういう子」
「彼女は心が優しく信念がある。責任感も強いし、何より笑顔が可愛い」
「ベタ惚れだな」
その後、千秋は酔った状態で紗那に惚れ込んでしまった経緯を語り出した。
パーティで出会った日からこっそり彼女のことを調べ、尾行し、あらゆる事実を知った。彼女は家庭環境が複雑だが、他人に対して優しく、通りがかりの老人が困っていても助けになる。そんな場面を幾度か見かけた。
仕事に真面目でストイックな分、出世も早く、同僚から嫉妬の目を向けられているようだが、それでも彼女は負けん気で勤めている。
誰もいなくなったオフィスで深夜まで働いている彼女の姿をドアの外から眺めていたこともある。
そしてプライベートでは買い物姿や外出先などで偶然出くわした(ように見せた)
「いや、お前それストーカーだぞ!」
「失礼だな。自宅までは行ったが郵便受けは覗いていない」
「当たり前だ! ていうか自宅に行ったのかよ」
千秋は店長の突っ込みを無視して虚ろな表情でため息をついた。
「俺の願いはただ、彼女に幸せになってほしいだけだ。たとえ別の男の子どもを身ごもっていたとしても」
「無理するなよ。言葉の端々に嘘っぽい感情が出ているぞ」
「はぁ……もっと早く出会いたかった」
千秋はその日、失恋記念として酔い潰れるまで飲んだ。そして店長は朝まで付き合わされたのだった。
ところが予想外のことが起こる。
千秋は山内優斗が別の女と一緒にホテルへ入るところを(本人いわく偶然)目撃したのだ。
それから千秋は何かに目覚めたように、知人の探偵に依頼して山内優斗について調べまくった。
優斗は1年以上前から不貞をおこなっていた。それもひとりではなかった。紗那が残業のある日にたまたま同僚に誘われてガールズバーに行ったことが発端となり、彼は金を使って遊ぶようになった。次第に知り合った女の子とホテルに行ったり、遊んだりと相当金を使っているようだった。
紗那に親との同居を推し進めているのも自由に使える金がほしいからだ。
「こんな奴に彼女の人生を狂わされてたまるか!」
千秋の怒りが爆発した瞬間だった。この日から彼は入念に計画を練って紗那に近づいていく。