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なぜかその日は、ツクヨミと二人で買い出しに行くことになった。
(この人……何考えてるのか全然わかんなくて、正直ちょっと怖いんだよね……)
隣を歩くツクヨミは、相変わらず飄々としている。
杖を軽く突きながら、道を進んでいたかと思えば――
「ユズリハくん」
「っ、はい!? ……って、何してるんですか」
振り返ると、ツクヨミはしゃがみこんで地面を指さしていた。
「タンポポが咲いてたんだよ」
手のひらに乗せられたのは、少し枯れかけた、小さなタンポポ。
どうということもない雑草を、まるで宝物のように自慢げに掲げている。
「は……はぁ……」
「……あっ、あっちにも」
「ちょ、ちょっと! どこ行くんですか!!」
ツクヨミの道草は止まらなかった。
花、石、看板、雲――気になるものを見つけるたびに足を止める。
気づけば買い出しを終える頃には、すっかり日が暮れていた。
(この人と一緒にいると……疲れる……)
ユズリハが小さくため息をついた、その瞬間だった。
――ごうっ。
横から、ありえない速度で看板が飛んできた。
反射的に目を閉じる暇すらなかった。
次の瞬間、身体が強く引き寄せられる。
「――セーフ」
気づけばユズリハは、ツクヨミに抱えられたまま地面を転がっていた。
さっきまで立っていた場所には、粉々になった看板の破片。
「び、びっくりした……! というかツクヨミさん、杖は……!」
「あー」
ツクヨミは間の抜けた声を出すと、そのままごろんと地面に寝転がった。
「立てないや。あはは、たすけてー」
(……思ったより、呑気だなこの人)
ユズリハは呆れつつも手を伸ばし、近くに転がっていた杖を拾って差し出す。
「どうぞ……」
「ありがとう」
そのとき。
「呑気だな、月光」
低く、鋭い声が路地に響いた。
「ツクヨミさん、この人は……?」
「うーん……覚えてないや」
「忘れたとは言わせねぇぞ!!」
姿を現したのは、険しい表情の女性だった。
「あたしはフラクタル! お前ら月光に弟を殺された被害者だ!!」
「……どういう、ことですか……?」
「あたしの弟はな、お前ら月光に依頼をしたんだ!
リンクスに殺される、助けてくれってな!
でもあんたらは依頼を引き受けなかった!
そのせいで弟は殺されたんだ!!」
怒りに歪む声が、胸を締めつける。
「弟の敵を打たせてもらう!!!」
「冷静になりな」
ツクヨミは静かに言った。
「君の復讐の相手は、僕じゃない。
その弟を殺したリンクスだろうに」
「そいつもあとで殺す!!
まずはお前らだ!!!」
フラクタルが足元の鉄パイプを掴み上げると、それはふわりと宙に浮いた。
「あたしのリンク!!
――重力操作を食らいな!!」
鉄パイプが、弾丸のような速度でツクヨミへ飛ぶ。
だが――
ツクヨミの目の前で、鉄パイプはぴたりと停止した。
「……どういうことだ……!?」
「まぁまぁ、落ち着いて」
ツクヨミは穏やかに微笑む。
「条件交換だ。
君の弟を殺したリンクスを教える。
その代わり、僕たちのことは見逃してもらえないかな?」
「ツクヨミさん……?」
「……わかった」
フラクタルは歯を噛みしめて言った。
「その条件、飲んでやるよ」
「どうもありがとう」
ツクヨミは紙に何かを書き、それを紙飛行機の形に折る。
「じゃあ、これどうぞ」
紙飛行機は、ふわりと夜の空気に乗ってフラクタルの元へ飛んでいった。
「帰ろうか、ユズリハくん」
何事もなかったかのように言うツクヨミに、ユズリハはただ頷くしかなかった。
少し――いや、かなり奇妙な帰り道。
一刻も早く、この危険な世界から逃げ出したい。
そう思いながらも、ユズリハは知っていた。
もう――逃げることは、できないのだと。