祝日のシフトが入っていない月曜日。
ユズリハは「客」として月光を訪れることにした。
「おじゃましまーす」
扉を開けた瞬間、違和感が胸を刺した。
いつもなら柔らかく流れている空気が、今日は重く沈んでいる。
さらに驚いたのは、普段この時間帯にはいない面々――アビス、ギア、モミジまでが揃っていたことだった。
「……みなさん、どうしたんですか?」
「ユズリハくん?」
サグメがこちらを見て首を傾げる。
「今日はシフトじゃないよね?」
「はい。でも……たまにはお客さんとして来てみようかなって……」
「……それなら、丁度よかった」
サグメは少し表情を引き締め、リモコンを手に取る。
「重大事態だよ。これ、見て」
テレビがつき、ニュース映像が流れ出した。
『リンクスによる連続殺人事件が立て続けに起こっています。
犯人は同一人物と見られ、シアターも調査を進めています』
被害者の一覧が画面に映し出され――
ユズリハの呼吸が止まった。
「……フラクタル……!」
「知ってるでしょ」
モミジが静かに言う。
「ツクヨミさんと一緒にいた。
あの人は犯人の情報を知っていた上で、その人物を送り出した。
――それは“間接的な殺人”と同じ」
「そんな……!」
ユズリハは思わず声を荒げた。
「ツクヨミさんは、ただ……敵討ちをさせてあげたかっただけで……!」
「それが、シアターの見解なんだよ」
モミジは淡々と告げる。
「月光は、ユズリハと同じ意見だけどね」
「というわけで~」
サグメが妙に明るい声を出す。
「すでにツクヨミさん、連れてかれちゃいました~!」
「ええええ!?」
「俺が来たときには、もういなかった」
ミケが腕を組んで言う。
「シアターの置き手紙だけ残してな」
「……戻って、きますよね……?」
ユズリハの問いに、アビスが静かに口を挟む。
「その可能性は、低いですわ」
「……え……」
「シアターが“フリーの神”を見逃すとは思えません。
管理下の神として扱われ……戻ってこないかもしれませんわ。
――あくまで、妄想ですけれど」
「力の詳細も不明だしね~」
サグメが続ける。
「シアターが欲しがらない理由がない」
「そんな……! じゃあ、月光は……!!」
「営業続行不可。つまり――潰れるかもね!」
「えー!? 月光なくなっちゃうのー!?」
空白が大げさに騒ぐ。
その喧騒の中で、ユズリハは一歩前に出た。
「……僕、ツクヨミさんを連れ戻します」
「でもさぁ」
ギアが困ったように笑う。
「シアターって国家機関だよ?
一般人が簡単に入れる場所じゃない」
「あ、いいこと考えた」
サグメが突然スマホを取り出す。
「……え、どこに電話を……?」
「シアター」
「え?」
「あ、すみませーん。ここに暴走魔具がいるんですけど~」
「通報!?!?!?」
「別の罪で連れていかれるのでは?」
ヒカリが真顔で言った、その瞬間。
――バンッ!
扉が勢いよく開いた。
「シアターです。通報はこちらですか」
現れた男の顔に、ユズリハは目を見開く。
「……ショウさん!?」
「まさかこっちの姿で来るとはな」
ショウは店内を見渡す。
「で、暴走魔具は?」
「もう倒しちゃった~」
「……じゃあ通報すんなバカ」
「ところで」
サグメがにこやかに言う。
「うちの店長、連れてったの君たちでしょ?」
「俺の班じゃない。詳しくは知らない」
そのやりとりを遮るように、ユズリハが一歩踏み出した。
「あの……!
シアターに、連れていってくれませんか……!!」
「は?」
「ツクヨミさんは悪くないって、証明したいんです!
それに……大切な居場所を……失いたくない……!」
ショウは言葉に詰まる。
「……でも……」
「いい。連れてけ」
低い声が背後から響いた。
振り返ると、長身の男。
頭には――猫の着ぐるみ。
「ユズリハ。久しぶりだな」
ハナビは淡々と言い放つ。
「ユズリハをシアターに連れて行くことを許可する」
「……了解っす」
「なんかよくわかんないけど~」
サグメが手を振る。
「ユズリハくん、がんばってね~!」
「がんばって~!」
月光の面々の声に背中を押されながら、ユズリハは扉へ向かった。
こうしてユズリハは、
“世界の裏側”――シアターへと足を踏み入れることになる。
果たして、ツクヨミを連れ戻すことはできるのか。
そして月光の運命は――。






