テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
───無限城の、王のいない玉座の間に一人の悪魔が入って行った。
その悪魔を一言で表すなら鷹である。
人と同じ体つきをしており、その身に黒い燕尾服を着用したその姿でまず目がいくのが顔である。
人外の象徴と言える鷹の顔。
赤い眼帯で左目を覆ったその顔にまず視線がいく。
次に目がいくのは胸である。
燕尾服の上からでも分かる豊満な胸に男なら嫌でも視線を向けるだろう。
最も異種族だと気付きガッカリする羽目になるだろうが。
「おや、帰って来たのですねマモン」
玉座の間に入って来た鷹の悪魔、マモンを確認すると玉座の間にいたアスモデウスが声をかけてきた。
それに対して、舌打ちをし露骨に嫌そうな顔をするマモンを見てアスモデウスは微笑んだ
。
「誰かいるだろうとは思ってけど、君かいアスモデウス」
「ふふ、そんな嫌な顔をしなくてもいいじゃないですか」
「僕は君が嫌いなんだ、出来れば顔も見たくない」
「おやおや、随分と嫌われてしまったようだ。
余程あの時の事を恨まれていると見える」
「君はそんなに僕を怒らしたいのかい」
殺気立つマモンを見てニヤニヤと笑うアスモデウス。
2人の関係は上の会話で分かる通り険悪の一言に尽きる。
それこそ犬猿の仲の仲と言っていい。
過去にハーデスの前で犯したマモンの失態をアスモデウスがねちねちとしつこく掘り返すのが原因である。
その度に苛立つマモンをアスモデウスが笑いながら煽る。
2人が未だに殺し合うまでに至ってないのは奇跡に等しいだろう。
「ふふ、そんなつもりはありませんよ。
仲間同士で殺し合うような馬鹿な真似をする訳にはいきませんからね」
「君は本当に僕の神経を逆撫でするの得意みたいだね。
君に会うたび僕は殺意を覚えるよ」
「おや、それはまた随分と酷い事を仰る。
私は事実を述べているだけだと言うのに⋯⋯」
ニヤニヤと煽るような笑みを浮かべるアスモデウスにマモンが舌打ちする。
これ以上アスモデウスに関わればそれこそ本当に殺し合いに発展する事になるだろう。
そうなればまた⋯⋯。
そこまで考えたマモンはアスモデウスの話題を逸らす為と、本題に移る為に口を開く。
「君の言葉には付き合っていられないね。
それよりハーデス様は何処にいるんだい?
僕が持ってきた情報を伝えたいんだけど⋯⋯」
「ハーデス様は現在、城の外に出ていらっしゃるので居りませんよ」
「なっ!」
「残念でしたね、愛しのハーデス様が居られなくて」
「君は本当にッ!」
煽るような笑みを浮かべるアスモデウスにマモン怒気を含んだ声を出す。
顔つきは険しくなり、今にでも殺し合いになりそうな雰囲気であるにも関わらず相変わらずアスモデウスは笑みを浮かべている。
「図星ですか。
本当に困った方ですね、ハーデス様の僕でありながら主に恋慕の情を抱くなど⋯⋯」
───ハーデスに使える悪魔の中で唯一、畏怖を抱いていないのがマモンである。
ハーデスの強さにその天災に多くの悪魔が畏怖を抱く中、マモンだけが違った。
畏怖などではなく、恋慕をあろう事か主に抱いてしまった。
アスモデウスに指摘されるまでもなく、それが許されぬ事だというのをマモンは自覚していた。
それでも、他でもないアスモデウスに言われた事が今まで耐えてきたマモンの最後の一線を超えてしまった。
「アスモデウスッ!」
怒りや憎しみをごちゃ混ぜにしたようなドス黒い殺気を帯びたマモンにアスモデウスの顔つきが変わる。
互いに臨戦態勢に入り今にでも殺し合いに発展しそうな雰囲気を壊したのは、玉座の間に響く笛の音だった。
「そこまでにゃ」
「仲間同士の勝手な戦闘はハーデス様の怒りを買うッスよ」
―───玉座の間に新たに2人の悪魔が入って来た。
片方は語尾が特徴的な猫の悪魔レヴィアタン。
もう片方は先ほど響いた音の正体である竹笛を片手に持った人型の白狼。
レヴィアタン同様、その身を黒いメイド服で包んでいる
ちなみにメスである。
現れた2人の言葉にアスモデウスとマモンは互いに臨戦態勢を解いた。
それでも収まらないマモンのドス黒い殺気にアスモデウスは困ったように笑い助けを求めるように2人を見た。
しかし、返ってきたのは2人の冷ややかな視線である。
「さっきのはどう考えてもアスモデウスが悪いッス。
だからアスモデウスは深く反省すべきッスよ」
「サタンの言う通りにゃ。
アスモデウスは1回死んでコマ切れなったのを獣に食われるべきにゃ」
「あたし、そこまでは言ってないっスよ」
どうやらこの場にはアスモデウスの敵しかいないようである。
当然である。
自業自得な為、誰も助けようとは思わない。
散々煽ってきたアスモデウスが悪い。
「マモンも殺気を抑えるにゃ。
さっきサタンも言ったけど仲間同士の勝手な戦闘はハーデス様の怒りを買うにゃ。
敬愛するハーデス様の為に今回はその怒りを収めるにゃ」
「レヴィ⋯⋯」
レヴィアタンの言葉に渋々とその殺気を抑える。
『煉獄七魔将』と呼ばれる悪魔ほどになれば感情の抑え方も知っている。
ちなみにマモンの感情の抑え方はひたすらハーデスの事を考えるというものである。
声にこそ出しはしないが心中では蕩けた声でハーデスの名を呼んでいるだろう。
「これに懲りたらアスモデウスも少しは自重するにゃ。
今回みたいな事になったら次は止められるか分からないにゃ」
「えぇ、気を付けますよ。
今回の事は完全に私の失態です。
マモン、先ほどは失礼しました」
「⋯⋯⋯⋯」
申し訳なさそうにアスモデウスがマモンに頭を下げて謝るがそれに対する反応は一切ない。
怒りから無視している訳でなく、完全に自分の世界に入ってしまっているからだ。
今のマモンの頭の中はハーデスで一杯である。
「マモン⋯⋯」
何処か可哀想なものを見るようにマモンを見つめるレヴィアタン。
マモンが自分の世界から戻ってくるのに数分を費やした。
「さて、折角私達がこのように集ったのですから情報交換といきましょうか」
「⋯⋯チッ」
「そこ、舌打ちしないにゃ」
「情報交換するのは別にいいっスけど、ベルフェゴール達が戻って来るのを待った方がよくないっスか?」
「そうした方がいいのでしょうが、彼らは結構マイペースな所がありますからね。
いつ帰って来るか分からない以上待つのは得策ではないでしょう」
「そうっスね。
特にルシファーなんかは一番、行動が読めないッスから困りものッスね」
「そういう事で、今いる我々だけで情報交換をするとしましょう。
この世界にハーデス様の威光を示す為に」
「はいですにゃ」
「はいはい」
「はいっス!」
───残念ながらハーデスはそんな事を望んでいない。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!