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性格タイプ:天然・鈍感・明るい・無防備
口ぐせ:「え?うちなんか変だった?」「絶対うちのこと好きじゃないよね~!」
特徴:
周囲の男子に毎日からかわれてるけど、本人はまったく気にしてない。
自分が“モテてる”とか“守られてる”ことに気づかない。
いつも笑顔で、誰にでも優しく接するため、逆に男子たちがざわつく。
友達からは「萌音って、無敵の鈍感だよね」と言われてる。
奏斗とは幼馴染で、毎日一緒に登校してるけど、恋愛対象としては見ていない(つもり)。
周囲からの印象:
「萌音って、男子に囲まれてるのに全然気づいてないよな」
「あれは天然というより、もはや才能」
性格タイプ:不器用・意地悪・照れ屋・支配力あり
口ぐせ:「バカか、お前は」「俺の言うこと聞いとけ」
特徴:
学年一の人気者で、男子にも女子にも一目置かれてる。
先生にも信頼されていて、何かと仕切り役になることが多い。
萌音にだけは、なぜか毎日意地悪を言ってしまう。
本当は萌音のことが好きだけど、素直になれず、からかうことでしか距離を詰められない。
他の男子が萌音に近づくと、無言で不機嫌になる。
周囲からの印象:
「神崎って、萌音にだけ態度違うよな」
「あれ、絶対好きなのに本人だけ気づいてないやつ」
性格タイプ:明るくてサバサバ、萌音の天然っぷりに毎日ツッコミを入れる係
特徴:
萌音とは小学校からの親友で、なんでも言い合える関係
恋バナが大好きで、萌音の周りの男子の動きにすぐ気づく
「奏斗くん、絶対あんたのこと好きだってば!」と何度も言ってるけど、萌音は「え~?絶対ないって!」と笑って流す
でも、萌音が誰かに告白されたり、落ち込んだりすると、誰よりも真剣に寄り添う
役割:
萌音の“鏡”のような存在。天然な萌音に現実を突きつけるけど、絶対に傷つけない
奏斗との関係を一番近くで見ていて、時々“背中を押す”役
性格タイプ:軽めのノリで場を回すタイプ、でも奏斗の本音を見抜いてる
特徴:
奏斗とは中1からの友達で、唯一“素の奏斗”を知っている存在
萌音に対しては「お前、神崎にだけ扱い違うの気づいてないの?」と笑いながら言う
奏斗が不機嫌になると「また藤崎のことか?」とすぐ察する
でも、からかうだけじゃなくて、奏斗が本気で悩んでるときは黙って隣にいるタイプ
役割:
奏斗の“ブレーキ”にも“アクセル”にもなる存在
萌音との距離が縮まるとき、さりげなく後押しする
学年:中学3年生(バドミントン部の先輩)
性格タイプ:爽やか・気配り上手・ちょっと天然・誰にでも優しいけど、萌音には特に柔らかい
特徴:
部活では副部長。技術も人望もあって、後輩からの信頼が厚い
萌音の天然さを「面白いな〜」と笑って受け止めてくれる
体育館で奏斗とすれ違うことも多く、時々軽く話す
奏斗が無言で不機嫌になるきっかけになる存在
学年:中学3年生(バドミントン部副部長)
性格:軽めのノリ、誰にでもフレンドリー、でも女子への距離感が近すぎるタイプ
特徴:
「藤崎ってさ、反応かわいすぎじゃない?」が口ぐせ
萌音の肩をぽんぽんしたり、頭をくしゃっと撫でたり、自然にボディータッチが多い
萌音は「えへへ~」と笑ってるけど、周りはざわついてる
奏斗は無言で不機嫌になるけど、何も言えない
「うち、今日のお弁当ちょっと豪華なんだよね~」
萌音がそう言って、机の上にお弁当を広げる。 卵焼き、ミートボール、ちょっと焦げたウインナー。彩りは微妙だけど、本人は満足げ。隣の席の奏斗は、ちらっとそれを見て、ため息をつく。
「……バカか、お前は。ミートボールにケチャップかけすぎ」
「え~?うち、味濃いの好きなんだもん」
「俺の言うこと聞いとけ。明日から弁当、俺がチェックする」
「え、なんで奏斗がチェックするの~?」
萌音は笑ってるけど、奏斗は真顔。 そのやりとりを、前の席のひなが振り返って見てくる。
「ねえ、それもう付き合ってるでしょ」 「は?してねぇし」 「うちもしてないし~!」
陽真は後ろから「神崎、今日も安定の“藤崎だけに厳しい”だな」とニヤニヤ。 奏斗は無言でペットボトルを開けて、窓の外を見た。
昼休みの教室。 ざわざわした空気の中で、隣の席だけ、少しだけ温度が違う。
奏斗は、萌音が誰かと笑って話してると、なぜかイライラする。 でも、口に出すのはいつも「バカか、お前は」だけ。
それが、神崎奏斗の“好き”のかたちだった。
午後の国語の授業。 教室には、昼休みの余韻が残っていて、みんなちょっと眠そう。 でも、前列の2組だけは、いつも通りにぎやか。
「藤崎さん、次読んでくれる?」
「はーいっ!」
萌音が立ち上がって教科書を開く。 ページが違う。
「……バカか、お前は。そこじゃねぇよ」
隣の奏斗が、ため息をつきながら教科書を指差す。
「え~?うち、間違えた~!」
「俺の言うこと聞いとけ。ページくらい確認しろ」
「奏斗って、ほんと厳しいよね~。うちのこと嫌いなんじゃない?」
そのやりとりに、ひながすかさずツッコミを入れる。
「それ、もう好きって言ってるようなもんだから!」
陽真は笑いながら、「神崎、今日も安定の“藤崎だけに厳しい”だな」とつぶやく。
ひなと陽真も隣同士で、授業中にちょこちょこ話してる。
「ねえ、陽真って漢字得意?」
「俺?まあまあ。でもひなの字、かわいいよな」
「は?急に何?気持ち悪~」
「いやいや、褒めただけだし!」
そんなやりとりが、前列で繰り広げられている。 先生は「静かにね~」と注意しながらも、どこか微笑ましそう。
「じゃあ、ペアごとにプリントまとめて、明日発表ね~」
先生の声と同時に、教室がざわつき始める。
「うち、まとめるの苦手なんだよね~」
萌音がプリントを見ながら、眉を下げる。 隣の奏斗は、無言でペンを取り、さっさと書き始める。
「え?奏斗がやってくれるの?」
「……お前がやったら、漢字間違いだらけになるだろ」
「ひど~い!うち、そんなにバカじゃないもん!」
「バカか、お前は。昨日“静寂”を“淋しさ”って書いてただろ」
「え~!でも意味似てるし、雰囲気は合ってたよね?」
そのやりとりに、ひなが笑いながら振り返る。
「ねえ、それもう夫婦の会話じゃん」
陽真も「神崎、今日も藤崎にだけ厳しいな」とニヤニヤ。
奏斗はため息をつきながら、プリントの余白に小さく「藤崎:読む係」って書き込む。
「お前は、明日ちゃんと読むだけでいい。俺の言うこと聞いとけ」
「は~いっ!奏斗って、なんだかんだ優しいよね~」
その言葉に、奏斗はペンを止めて、ほんの一瞬だけ目を逸らす。 窓の外では、夕焼けが差し込んでいて、教室の空気が少しだけ静かになる。
「……優しくねぇよ。お前がバカだから、仕方なくやってるだけだ」
「え~!それ、優しいってことじゃん!」
萌音は笑ってる。 でも、奏斗はその笑顔に、何か言いかけて、結局言わない。
ひなと陽真は、隣でプリントをまとめながら、こっそり目配せする。
「ねえ、あのふたり、いつ気づくと思う?」
「いや、神崎はもう気づいてるだろ。問題は藤崎だな」
「だよね~。天然すぎて、恋って言葉が届いてないもん」
教室の隅で、そんな会話が交わされている。 でも、萌音は気づかない。 奏斗は、気づかせたくて、でも言えない。
それが、桜川中・2年3組の、日常。
「藤崎~、今日も元気だねぇ」
杉原陸先輩が、軽いノリで萌音の肩をぽんっと叩く。
「えへへ~、うち、元気だけが取り柄なんで!」 「いやいや、反応かわいすぎ。マジで癒しだわ~」
萌音がシャトルを拾って戻ってくると、陸が頭をくしゃっと撫でる。
「ナイス拾い。ご褒美~」
「え~!うち、犬じゃないですよ~!」
「でも、しっぽついてそうじゃん?」
萌音は笑ってる。 でも、体育館の反対側――バスケ部の練習中の奏斗は、無言でボールを強めにドリブルしていた。
「神崎、パス!」 「……あ」 ボールが逸れて、陽真が拾う。
「また藤崎見てたろ」
「見てねぇ」
「で、あの先輩にイラついてんの?」
「……してねぇ」
でも、奏斗の目は、杉原が萌音の腰に手を添えてフォームを直している瞬間、明らかに止まっていた。 その手つきに、眉がほんの少しだけ動いた。
「藤崎、腕の角度こう。……ほら、こうやって、俺の手に合わせて」
「え、こうですか?」
「そうそう。……うん、かわいい」
その言葉に、萌音は「えへへ~」と笑ってる。 でも、奏斗はその笑顔に、何か言いたげな顔をして、結局何も言わずにボールを強く床に叩きつけた。
練習後、萌音がタオルで汗を拭いていると、陸が近づいてくる。
「藤崎、今日のスマッシュ、よかったよ。……ほら、汗拭いてあげる」
「え~!うち、自分で拭けますってば~!」
「いいっていいって。先輩の特権だから」
その瞬間、奏斗が通りかかる。 目は一度も陸を見ない。 でも、萌音の肩に置かれた陸の手を、じっと見ていた。
「……お前、他人に触られすぎ」
「え?奏斗、うちのこと見てた?」
「見てねぇし。……バカか、お前は」
萌音は笑って、陸は「神崎くん、藤崎のこと好きなの?」と軽く言う。 奏斗は無言で、ペットボトルを握りしめたまま、体育館を出ていく。
その背中を、萌音は「奏斗、なんか怒ってる?」と首をかしげて見送る。 ひなはその様子を見て、ため息をつく。
「……さすがに気づけ、萌音」 陽真は笑いながら、「神崎、今日の嫉妬、顔に出すぎだろ」とつぶやいた。
それは、ただの放課後。 でも、体育館の空気は、いつもより少しだけ重かった。
体育館を出ると、空はすっかり夕焼け色に染まっていた。萌音はジャージの袖をまくりながら、奏斗の隣を歩いている。部活終わりの空気は、少しだけ汗の匂いと、風の匂いが混ざっていた。
「今日、杉原先輩にいっぱい褒められちゃった~」
萌音がそう言って、笑う。
「スマッシュのフォーム、ちょっと直してもらったんだけど、うち、意外とセンスあるかもって!」
奏斗は無言で歩いていた。その歩幅は、いつもより少しだけ速い。
「……あいつ、触りすぎだろ」
「え?奏斗、見てたの?」
「見てねぇし」
「でも、うち、頭とか肩とか、いっぱい触られてたかも~。なんか、先輩って距離近いよね~」
萌音は笑ってる。でも、奏斗の顔は曇っていた。
「……お前、誰にでも笑いすぎ」
「え?うち、そんなに笑ってる?」
「……あいつにも、笑ってただろ」
「え~!だって、褒められたら嬉しいじゃん?」
風が吹いて、萌音の髪がふわっと揺れる。奏斗は無言で、萌音の髪に残っていた花びらを指で取る。
「……ついてんぞ」
「え、桜?うち、桜に好かれてる?」
「違ぇよ。……お前、バカか」
萌音は笑って、また歩き出す。でも、奏斗の足取りは重くなっていた。
「奏斗って、今日ずっと機嫌悪くない?」
「……別に」
「うち、なんかした?」
「……してねぇ。……してねぇけど」
その言葉のあと、沈黙が落ちた。ふたりの影が並んで、坂道に伸びていく。
「……俺がいなかったら、あいつに全部触られて終わりだろ」
「え?奏斗、うちのこと守ってくれてるの?」
「……違ぇよ。……ただ、見ててムカつくだけだ」
萌音は立ち止まって、奏斗の顔を見る。
「……奏斗って、うちのこと嫌いなの?」
「……俺の言うこと、ちゃんと聞いとけ」
「え?」
奏斗は、萌音の目を見ないまま、前を向いて歩き出す。その背中を見ながら、萌音は首をかしげる。
「なんか今日の奏斗、うちにだけ意地悪すぎ問題なんだけど~」
夕焼けの坂道。ふたりの影は、隣に並んでいるのに、どこか揺れていた。そして、萌音の胸の奥に、ほんの少しだけ“違和感”が残った。
それは、ただの帰り道。でも、今日の空気は、いつもより少しだけ重かった。
「お前んち、相変わらず広いな~」
陽真がソファにどかっと座りながら、ポテチを開ける。 奏斗は無言で冷蔵庫からジュースを取り出して、テーブルに置いた。
「で?呼び出しておいて、なんの話?」
「……別に」
「は?いやいや、絶対“藤崎のこと”だろ。今日の体育館、顔に出すぎだったぞ」
奏斗はジュースの缶を開けて、黙って一口飲む。 陽真はニヤニヤしながら、ポテチを口に放り込む。
「杉原先輩が萌音に肩触った瞬間、お前のドリブル、音変わってたからな」
「……うるせぇ」
「で、どうすんの?あの先輩、チャラいけど、萌音には優しいし、距離近いし。萌音も笑ってるし」
奏斗は、ジュースの缶をテーブルに置いて、少しだけ眉を寄せる。
「……あいつ、誰にでも笑う」
「いや、それは萌音の仕様だろ。天然っていうか、無防備っていうか」
「……それがムカつく」
「お前、完全に嫉妬じゃん」
沈黙。 テレビの音だけが、部屋に流れている。
「……俺、あいつにだけ意地悪言っちまう」
「知ってる」
「隣の席だし、幼馴染だし、毎日一緒にいるのに……なんか、素直になれねぇ」
「それ、好きってやつだよ」
奏斗は、ソファに背を預けて、天井を見上げる。
「……あいつ、誰かに告られたら、俺……」
「うわ、やっと本音出た」
「……うるせぇ」
陽真は笑いながら、ポテチをもう一枚食べる。
「でもさ、萌音って、たぶんまだ気づいてないぞ。お前の気持ち」
「……だろうな」
「だから、言えよ。“俺の言うこと聞いとけ”じゃなくて、“好きだ”って」
奏斗は、ジュースの缶をもう一度手に取って、無言で飲み干す。 その横顔を見ながら、陽真は少しだけ真面目な声で言った。
「お前が言わないと、誰かが言うぞ。……杉原先輩とか、な」
その言葉に、奏斗の指が、缶を握る力を少しだけ強めた。
「……あいつ、今日、萌音の頭撫でてた」
「うん、見てた」
「肩も触ってた」
「うん、見てた」
「……腰にも手添えてた」
「それは……俺も見ててちょっと引いた」
奏斗は、ジュースの缶をテーブルに置いて、拳をぎゅっと握る。
「……あいつ、ふざけてんのか」
「いや、あれは本気じゃない?杉原先輩、萌音のこと気に入ってるっぽいし」
「……ふざけんな」
その声は、いつもより低くて、重かった。 陽真は少しだけ目を細めて、真剣な顔になる。
「奏斗、お前さ……萌音のこと、誰にも渡したくないんだろ」
「……当たり前だろ」
その言葉に、陽真は笑って、ポテチの袋をくしゃっと閉じた。
「じゃあ、意地悪してる場合じゃねぇな」
「……うるせぇ」
「……あいつ、今日、杉原に頭撫でられて笑ってた」
奏斗がぽつりとこぼす。陽真はポテチを口に運びながら、ちらっと奏斗の横顔を見る。
「うん、見てた。肩も触られてたし、腰もフォーム直すって言って手添えられてたな」
「……あいつ、ふざけてんのか」
「杉原先輩?それとも萌音?」
「……両方」
奏斗は、ジュースの缶を握ったまま、視線をテーブルに落とす。その指先に、力が入っているのがわかる。
「……俺、隣の席で毎日見てるのに、何も言えねぇ」
「言えばいいじゃん。“俺の言うこと聞いとけ”じゃなくて、“俺の隣にいてほしい”って」
「……そんなの、言えるかよ」
陽真は少しだけ真顔になって、ポテチの袋を置いた。
「奏斗、お前さ。杉原先輩が本気だったら、萌音、持ってかれるぞ」
「……あいつ、誰にでも優しい」
「でも、萌音は天然だから、誰にでも笑う。そこが怖いんだろ?」
沈黙。テレビの音が遠くに流れている。でも、奏斗の胸の中では、言葉にならない感情が渦巻いていた。
「……今日、萌音が“うち、杉原先輩に褒められちゃった~”って言っててさ」
「うん」
「なんか、心臓が、変な音した」
「それ、完全に恋だな」
奏斗は、ソファに背を預けて、天井を見上げる。
「……俺、あいつの笑顔、誰かに向けられるの、無理かもしんねぇ」
「じゃあ、守れよ。その笑顔、お前の隣でしか出ないように」
その言葉に、奏斗は少しだけ目を細める。
「……俺、意地悪ばっか言ってる」
「それ、萌音にしか言ってないだろ」
「……バカか、お前は」
「それ、萌音にしか言うなよ」
ふたりは笑って、少しだけ空気が柔らかくなる。でも、奏斗の目は、どこか遠くを見ていた。
「……明日、杉原がまた萌音に触ったら、俺……」
「止めればいい。言葉でも、行動でも」
「……俺の言うこと、聞いてくれるかな」
「聞くよ。だって、萌音はお前の隣にいる」
その言葉に、奏斗は少しだけ目を伏せて、静かに息を吐いた。
「ひな~、うち、今日泊まってもいい?」
「いいけど、どうせ奏斗の話でしょ」
「え~!なんでわかるの~!」
萌音はひなの部屋着を借りて、ソファに座り込む。 ひなは冷蔵庫からアイスを取り出して、ふたり分のスプーンを持ってくる。
「今日さ、奏斗がまた『触られすぎ』って言ってきてさ~」
「杉原先輩のこと?」
「そうそう。うち、フォーム直してもらってただけなのに、なんかすっごい不機嫌だった」
ひなはアイスをひと口食べて、ため息をつく。
「それ、嫉妬だよ。完全に」
「え~!奏斗がうちに嫉妬するわけないって~!だって、うち、奏斗のこと好きじゃないし」
「いや、奏斗は好きだよ。あんたにだけ、態度違いすぎるもん」
萌音はスプーンをくるくる回しながら、少しだけ真顔になる。
「でもさ、うち、奏斗のこと“好き”って感じじゃないんだよね。隣にいるのが当たり前っていうか、いないと変な感じするけど、ドキドキはしないっていうか」
「それ、恋の入り口だよ。気づいてないだけ」
「うち、杉原先輩みたいな人の方が、わかりやすくていいなって思うときもある」
「でも杉原先輩は、誰にでも優しい。奏斗は、あんたにしか不器用なんだよ」
萌音は、ひなの言葉を聞きながら、アイスをひと口食べる。 冷たさが口の中に広がって、少しだけ胸の奥がざわついた。
「……今日、奏斗がうちの髪に桜の花びらついてるの取ってくれたんだけど、なんか、目を逸らしてた」
「それ、完全に“好きな子に触れて照れてる男子”の動きじゃん」
「え~!でも奏斗って、うちに『バカか、お前は』ってしか言わないよ?」
「それ、愛の言葉だよ。あんたにしか言わないじゃん」
萌音は、ソファに背を預けて、天井を見上げる。
「……うち、奏斗のこと、好きじゃないって思ってたけど、最近ちょっとだけ、変な感じする」
「それが“揺れ”ってやつ。恋って、最初は違和感から始まるんだよ」
「うち、恋とか無理なんだけど~!」
ふたりは笑って、アイスを食べながら、夜の空気に包まれていた。 でも、萌音の胸の奥には、今日の奏斗の表情が、静かに残っていた。
「おはよ~奏斗!」 萌音が家の前で手を振る。 制服のリボンが少し曲がっていて、髪も寝ぐせが残ってる。
奏斗はため息をつきながら、無言で手を伸ばしてリボンを直す。 指先が、萌音の胸元にふれる。
萌音は「えへへ~」と笑って、少しだけ顔を赤くする。
「……バカか、お前は。鏡くらい見ろ」
「うち、朝は時間との戦いなんだよ~」
「俺の言うこと聞いとけ。リボンくらいちゃんとしろ」
ふたりは並んで歩き出す。 朝の風が少し冷たくて、萌音の髪がふわっと揺れる。
「昨日さ、ひなの家で話してたんだけど~」
「……俺の話か?」
「え、なんでわかったの?」
「だいたい、お前が“相談ある”って言うときは、俺の話だろ」
萌音は笑って、ランドセルの肩紐を直す。 その笑顔に、奏斗は目を逸らす。
「うち、奏斗のこと“好き”って感じじゃないんだけど、最近ちょっとだけ変な感じするんだよね~」
「……は?」
「隣にいるのが当たり前すぎて、逆に変な感じっていうか。昨日、杉原先輩に頭撫でられたとき、奏斗がすっごい不機嫌だったじゃん?」
「……別に」
「ひなに言われたんだよ。“それ、嫉妬じゃん”って」
奏斗は無言で歩いていた。 でも、靴のつま先が、少しだけ強く地面を蹴っていた。
「奏斗って、うちのこと好きなの?」
「……バカか、お前は」
「それ、答えになってないよ~!」
萌音は笑ってる。 でも、奏斗の顔は、少しだけ赤くなっていた。
「……俺の言うこと、ちゃんと聞いとけ」
「それ、便利な言葉だよね~。なんでも隠せるじゃん」
ふたりは、校門が見えてきたところで立ち止まる。 萌音は、制服の袖を引っ張って、少しだけ奏斗の顔を覗き込む。
「うち、まだ奏斗のこと“好き”って思ってないけど、隣にいないと変な感じするのは、たぶん本当」
「……それでいい。隣にいろ」
その言葉に、萌音は「えへへ~」と笑って、校門をくぐる。 奏斗は、無言でその背中を追いかける。
萌音の髪に、朝の光が差し込んで、少しだけきらめいた。 その背中を見ながら、奏斗は心の中でつぶやく。
「……バカか、お前は。俺の隣にいるのが、いちばん似合ってるんだよ」
それは、ただの登校。 でも、ふたりの距離は、昨日より確かに近づいていた。 甘くて、まだ気づかれていない恋の匂いが、朝の風に混ざっていた。
「うち、今日のノート、ちょっとだけ頑張ったんだよね~」
萌音がそう言って、机の上にノートを広げる。字は丸くて、ところどころ間違ってるけど、色ペンでかわいくまとめられている。
奏斗はちらっとそれを見て、ため息をつく。
「……バカか、お前は。“静寂”の“寂”がまた“淋”になってる」
「え~!うち、雰囲気で書いてるから!」
「俺の言うこと聞いとけ。漢字くらいちゃんと覚えろ」
そう言いながら、奏斗は自分のペンで、萌音のノートに正しい字を書き込む。その手元が、萌音の指先にふれる。萌音は「えへへ~」と笑って、少しだけ顔を赤くする。
「奏斗って、字きれいだよね~。なんか、先生より読みやすいかも」
「……当然だろ。俺のノート、見たいなら貸してやる」
「え~!うち、奏斗のノート借りたら、成績上がっちゃうかも~」
奏斗は目を逸らしながら、ノートを閉じる。
「……お前が俺の隣にいる限り、バカでもなんとかなる」
その言葉に、萌音は「えへへ~」と笑って、机に頬を乗せる。
「うち、奏斗の隣、けっこう好きかも~」
「……バカか、お前は」
でも、その言葉のあと、奏斗はほんの少しだけ笑った。誰にも見られないように、ほんの一瞬だけ。
前の席のひなが振り返って、「ねえ、それもう付き合ってるでしょ」と言う。後ろの陽真が「神崎、今日も藤崎にだけ甘いな」とニヤニヤする。
萌音は「付き合ってないし~!」と笑いながら、机の上で手をぱたぱたさせる。奏斗は何も言わず、ただ萌音のノートをもう一度開いて、「……このページ、色使いはまあまあだな」とつぶやく。
「え~!褒められた~!」萌音は嬉しそうに笑って、ペンをくるくる回す。
その笑顔に、奏斗は目を逸らしながら、心の中でつぶやく。
「……バカか、お前は。俺の隣で、そんな顔すんな」
チャイムが鳴って、授業が始まる。先生が教科書を開いて、
「じゃあ、隣同士でペアになって、本文をまとめてみよう」と言う。
「奏斗とペアか~!うち、ちゃんとできるかな?」
「……俺の言う通りにしてればいい」
「それ、便利すぎる~!」
ふたりはノートを開いて、肩を並べる。
萌音が「この文章、なんか切ないね~」とつぶやくと、奏斗は「……お前が読むと、全部明るくなる」と返す。
「え?それって褒めてる?」
「……知らねぇよ」
でも、萌音は「えへへ~」と笑って、ペンを走らせる。その横顔を見ながら、奏斗は静かに思う。
“隣にいるだけで、こんなにうるさいのに。……なんで、いないと落ち着かないんだろ”
それは、ただの朝の教室。でも、隣の席のふたりだけ、少しだけ甘い風が吹いていた。まだ気づかれていない恋の匂いが、ノートの余白にそっと滲んでいた。
「ねえ萌音、次の授業って理科室だよね?」
「うん!うち、理科ちょっと苦手だけど~」
「また“雰囲気で覚える”とか言うつもりでしょ」
「えへへ~、バレた~!」
萌音とひなが笑いながら廊下を歩いていると、角を曲がった先で、 バドミントン部の杉原陸先輩が、プリントを持って歩いてきた。
「お、藤崎~!ナイスタイミング」
「え、杉原先輩!こんにちは~」
「理科室?俺も今そっち向かってるとこ。案内してあげよっか?」
萌音が「えへへ~ありがとうございます~」と笑って、先輩と並んで歩き始める。 その瞬間、杉原先輩は萌音の肩に軽く手を置いて、 「今日も元気そうだね~。なんか、藤崎ってさ、見てると癒されるんだよね」と言う。
「え~!うち、そんな癒し系じゃないですよ~」
「いやいや、反応かわいすぎ。……ほら、髪、ちょっと跳ねてる」
そう言って、杉原先輩は萌音の髪に手を伸ばして、指先で寝ぐせを直す。
萌音は「えへへ~すみません~」と笑って、少しだけ顔を赤くする。
ひなはその後ろで、声をひそめて言う。
「ねえ、杉原先輩、絶対萌音のこと好きじゃん」
「それはないって~笑」
その言葉が、杉原先輩の耳に届いていた。 彼は少しだけ眉を上げて、笑いながらつぶやく。
「はぁ~……それはない、か」
萌音は「え、聞こえてました?すみません~!」と笑ってごまかす。
杉原先輩は「いやいや、俺、けっこう傷ついたかも」と言いながら、 萌音の背中をぽんっと軽く叩く。
「でもさ、藤崎って、誰にでも笑うけど、俺にだけちょっと反応違う気がするんだよね」
「え~!そんなことないですよ~」
「ほんと?……じゃあ、俺だけに笑ってくれるように、頑張ろっかな」
その言葉に、萌音は「えへへ~」と笑って、ひなの袖をぎゅっと引っ張る。
ひなは「それ、完全に口説いてるじゃん」と小声で言う。
その様子を、少し後ろから歩いてきた奏斗が見ていた。 教科書を持ちながら、無言でその光景を見つめる。
杉原先輩と笑いながら話す萌音。 髪に触れられて、背中を叩かれて、照れ笑いしてる萌音。 その全部に、奏斗の目が止まっていた。
「……なんで、陸先輩なんだよ」
その声は誰にも聞こえないくらい小さくて、 でも、心の中では叫ぶくらい大きかった。
陽真が隣で「また藤崎見てたろ」と言うと、 奏斗は「見てねぇし」と返しながら、歩くスピードを少しだけ速める。
萌音は、杉原先輩と話しながら、ふと後ろを振り返る。 奏斗が、少しだけ不機嫌そうな顔で歩いているのが見えた。
「……奏斗、なんか今日も機嫌悪いかも~」
「それ、萌音のせいじゃない?」
「え~!うち、何もしてないのに~!」
でも、萌音の胸の奥には、 杉原先輩の「それはない、か」という言葉と、 奏斗の目が止まっていた瞬間が、静かに残っていた。
それは、ただの移動教室。 でも、廊下の空気は、甘くて、ちょっとだけざわついていた。 そして、誰も気づいていないふたりの気持ちが、すれ違いながら、少しずつほどけ始めていた。
「じゃあ、今日は酸とアルカリについて、隣同士でまとめてみよう」
先生の声が響いて、教室がざわつき始める。
理科室の席はいつもと違って、奏斗と萌音は離れていた。 萌音はひなとペアになって、楽しそうにノートを開いている。
「リトマス紙って、赤になるんだっけ青になるんだっけ~?」
「それ、昨日も言ってたよ」
奏斗は、隣の陽真が「神崎、まとめるぞ~」と声をかけてくるのを聞きながら、 手元のノートを開いたまま、ペンを持つ手が止まっていた。
“なんで、陸先輩なんだよ”
昨日の廊下での光景が、頭の中に焼きついている。 杉原先輩が萌音の髪に触れて、肩に手を置いて、背中をぽんっと叩いて。 萌音が「えへへ~」と笑っていた、その顔。
“俺の隣で笑ってるときと、同じ顔だった”
それが、なんだか悔しくて、苦しくて。 ペン先がノートの端を押しつけるように、じわっとインクをにじませる。
「……俺の言うこと、聞いとけって言ったのに」
奏斗は、誰にも聞こえないように、唇の内側でつぶやく。 萌音の声が、少し離れた席から聞こえてくる。
「うち、酸性って聞くとレモンしか思い浮かばない~」
「それ、理科じゃなくて料理だよ」
その笑い声に、奏斗の胸が少しだけざわつく。 隣にいないだけで、こんなに落ち着かないなんて。
“俺、いつからこんなに気にしてんだよ”
そしてそのとき―― 萌音の隣に、佐野悠真(モブ男)がひょいっと現れる。
「藤崎~、また“雰囲気で覚える”とか言ってんの?」
「うるさいな~佐野。うちは感覚派なの!」
「感覚派って、ただのバカじゃん」
「は?佐野こそ、ノート汚すぎなんだけど~」
ふたりは笑いながら、ノートを見比べている。
佐野が萌音のノートに指をさして、「ここ、色ペン使いすぎじゃね?」とからかう。
萌音は「うちのノートはアートなんだよ!」と胸を張る。
そのやりとりに、ひなが「また佐野、萌音にちょっかい出してる」とつぶやく。
佐野は「だって藤崎、反応おもしろいし」と笑って、 萌音の肩を軽くつついて、「ほら、集中しろよ」と言う。
奏斗は、その光景を遠くから見ていた。 ペンを持つ手が、ノートの端をぎゅっと押しつける。
「……なんで、佐野なんだよ」
陽真が「神崎、まとめ終わったぞ」と言うけど、 奏斗は「……ああ」とだけ返して、視線を逸らさない。
萌音が誰かと笑ってるだけで、 その笑顔が、自分以外に向いてるだけで、 胸の奥が、じわじわと熱くなる。
“俺の隣じゃないと、ダメだろ”
佐野が「藤崎って、ほんと男子にモテるよな~」と冗談っぽく言うと、 萌音は「は?うち、モテないし~」と笑って返す。
でも、その笑顔が、奏斗の胸を刺す。
チャイムが鳴って、授業が終わる。 席を立つ萌音が、ふと奏斗の方を見て、首をかしげる。
「……奏斗、なんか今日も機嫌悪いかも~」
「それ、萌音のせいじゃない?」
「え~!うち、何もしてないのに~!」
でも、萌音の胸の奥には、 佐野の「モテるよな~」という言葉と、 奏斗の目が止まっていた瞬間が、静かに残っていた。
それは、ただの理科の授業。 でも、教室の空気は、甘くて、ちょっとだけざわついていた。 そして、誰も気づいていないふたりの気持ちが、すれ違いながら、少しずつほどけ始めていた。
「じゃあ、今日は連立方程式の応用問題をやってみよう」
先生の声が響いて、教室がざわつき始める。 ペアワークの時間。隣同士で問題を解く。
奏斗と萌音は、いつもの席で肩を並べている。 萌音はノートを開いて、ペンをくるくる回しながら言う。
「うち、連立方程式って、なんか苦手なんだよね~」
「……バカか、お前は。昨日も“xとyが仲良くなれない”とか言ってただろ」
「だって、うちの中ではxはツンデレで、yは天然なんだもん」
「……お前の脳内設定、数学に持ち込むな。xもyも泣いてるぞ」
奏斗はため息をつきながら、問題を指差す。
「ほら、ここ。まずxを消す。お前の得意な“消す”作業だろ」
「え~!うち、消しゴム係じゃないし~」
「俺の言うこと聞いとけ。お前は“係”じゃなくて“俺の隣”だ」
その言葉に、萌音は「えへへ~」と笑って、ペンを持ち直す。 でも、顔は少しだけ赤くなっていた。
「奏斗って、うちにだけ厳しくない?」
「当然だろ。お前が一番バカだから」
「ひど~い!うち、平均点は超えてるもん!」
「……平均点でドヤるな。俺の隣にいるなら、目指すのは満点だろ」
「それ、奏斗の隣にいるとハードル高すぎなんだけど~」
「お前は俺の言う通りにしてればいい。……それだけで、だいたいなんとかなる」
その言葉に、前の席のひなが振り返る。
「ねえ、それもう付き合ってるでしょ」
陽真も「神崎、今日も藤崎にだけスパルタだな」と笑う。
奏斗は何も言わず、ただ萌音のノートにペンを走らせる。
「……この式、こうやって整理しろ。お前の字、丸すぎて読めねぇ」
「うちの字は“癒し”なんだよ~」
「癒されねぇ。むしろイラつく」
「それ、褒めてる?」
奏斗は目を逸らしながら、ノートの余白に小さく「藤崎:解く係」と書き込む。
「お前は、俺の言う通りにしてればいい」
「それ、便利すぎる~!」
萌音は笑って、机に頬を乗せる。 その笑顔に、奏斗は目を逸らしながら、心の中でつぶやく。
“バカか、お前は。俺の隣で、そんな顔すんな”
授業の終わり、先生が「この問題、藤崎さんと神崎くん、前で解いてみて」と言う。 教室がざわつく中、奏斗は無言で立ち上がる。
「え~!うち、前に出るの苦手なんだけど~」
「俺がいる。お前は俺の言う通りにしてればいい」
その言葉に、萌音は「はいはい、奏斗様~」と笑って、隣に立つ。
黒板の前。 ふたりの距離は、隣の席より少しだけ近い。 でも、空気は、いつもより甘くて、静かに揺れていた。
萌音が式を書き間違えると、奏斗がすかさず訂正する。
「……バカか、お前は。符号逆だろ」
「え~!うち、マイナスって苦手なんだよね~」
「俺の隣にいるなら、苦手は許されねぇ」
その言葉に、教室がざわつく。
「神崎、藤崎にだけ厳しすぎ~!」
「いや、あれは甘さの裏返しだろ」
萌音は「うち、奏斗にだけ怒られてる気がする~」と笑って、 奏斗は「……お前にしか言わねぇよ」と、誰にも聞こえない声でつぶやいた。
それは、ただの数学の授業。 でも、黒板の前のふたりだけ、甘くて、少しだけ特別な空気が流れていた。
萌音目線
チャイムが鳴って、数学の授業が終わる。 みんながざわざわと席を立つ中、うちは日直だから、前に出て黒板を消す。 雑巾を持って、背伸びして、上の方を拭こうとするけど――
「うち、背が足りないんだよね~。上の方、届かない~」
誰かが手伝ってくれたらいいのにな、って思いながら、 ちらっと後ろを見る。 奏斗は、席に座ったまま、教科書を閉じてる。
……見てる?見てない? なんか、目が合った気がするけど、すぐ逸らされた。
「うち、ひとりでやるの、けっこう大変なんだけどな~」 って、ちょっとだけ声に出してみる。 でも、誰も来ない。
と思ったら――
「……バカか、お前は。そんな背で黒板係とか、無理だろ」
奏斗が、立ち上がって、無言で雑巾を取って、隣に立った。 え、うちのこと見てたの? なんか、ちょっと照れる。
「奏斗って、なんだかんだ優しいよね~」
「優しくねぇよ。お前がバカだから、仕方なくやってるだけだ」
それ、絶対優しいやつじゃん。 うちは笑って、奏斗の隣で黒板を拭く。
なんか、隣にいるだけで安心する。 うち、奏斗のこと“好き”って感じじゃないけど、 こういうとき、ちょっとだけ特別な気持ちになる。
奏斗目線
授業が終わって、みんなが席を立つ。 俺は教科書を閉じて、ふと前を見る。
萌音が、黒板を消してる。 背伸びして、届かないところを必死に拭いてる。
“……手伝うか?”
でも、声をかけるのは無理だ。
「手伝おうか」なんて、俺のキャラじゃない。 俺は、学年一の人気者で、仕切り役で、誰にでも冷静に対応できる。 でも、萌音にだけは、なぜか毎日意地悪を言ってしまう。
好きだから。 でも、素直になれない。 からかうことでしか、距離を詰められない。
昨日、杉原先輩が萌音に触れてた。 今日、佐野が萌音にちょっかい出してた。 その全部が、俺の中で、静かに積もってる。
“俺の隣にいるくせに、他のやつに笑うなよ”
その気持ちが、足を動かす。 でも、言葉はいつも通り。
「……バカか、お前は。そんな背で黒板係とか、無理だろ」
それだけ言って、雑巾を取る。 萌音の隣に立って、黙って上の方を拭く。
「奏斗って、なんだかんだ優しいよね~」
「優しくねぇよ。お前がバカだから、仕方なくやってるだけだ」
それが、俺の限界。 でも、萌音が笑ってくれるなら、それでいい。
隣にいるだけで、心臓がうるさい。 でも、誰にも渡したくない。 この“隣”だけは、俺のものだ。
それは、ただの授業後。 でも、黒板の前のふたりだけ、甘くて、静かに揺れる空気が流れていた。 言葉にできない気持ちが、雑巾の動きに、そっと滲んでいた。
体育館に響く笛の音。
「じゃあ今日は、ペアでパス練から始めるぞ~」
先生の声に、クラスがざわつく。
萌音はジャージの袖をまくりながら、ボールを抱えて振り返る。
「奏斗~、うちとペアね~」
「……バカか、お前は。俺が選ぶ前に勝手に決めんな」
「うち、奏斗の隣が定位置だから~」
奏斗はため息をつきながら、無言でボールを受け取る。 体育館の光が、ふたりの足元に長く影を落とす。
「じゃあ、パスいくよ~!」
萌音が勢いよくボールを投げる。 でも、軌道がずれて、奏斗の足元に転がる。
「……バカか、お前は。どこ見て投げてんだよ」
「うち、ボールに嫌われてるのかも~」
「違ぇよ。お前がバカだからだ」
そう言いながら、奏斗はボールを拾って、 萌音の胸元に、ちょうどいい強さでパスを返す。
「うわ~!奏斗のパス、やさしい~」
「優しくねぇよ。お前が受け損ねるから、仕方なくだ」
萌音は笑って、ボールを抱えながら言う。
「うち、奏斗にだけ怒られてる気がする~」
「当然だろ。お前にしか言わねぇよ」
その言葉に、ひなが「ねえ、それもう告白じゃん」とつぶやき、 陽真が「神崎、今日も藤崎にだけ甘いな」とニヤニヤする。
でも奏斗は何も言わず、ただボールを受けて、 萌音の手元に、ぴったりのパスを返す。
「……俺の言う通りにしてればいい。お前は、俺の隣にいろ」
萌音は「はいはい、奏斗様~」と笑って、 ボールを抱えたまま、少しだけ顔を赤くする。
その笑顔に、奏斗は目を逸らしながら、心の中でつぶやく。
“バカか、お前は。俺の隣で、そんな顔すんな”
「じゃあ次は、ドリブルからシュートまでの流れをペアでやってみよう!」
先生の声に、萌音は「うち、ドリブル苦手なんだよね~」と笑いながらボールを持つ。
「……俺の言う通りにやれ。ゆっくりでいい」
奏斗がそう言って、少し離れた位置に立つ。 萌音は「はいはい~」と笑って、ドリブルを始める。
萌音がドリブルで足をもつれさせて、前につんのめった瞬間―― 奏斗は反射的に走り出して、腕を引いて支えた。
「わっ……!」
萌音の手が、奏斗の胸元にふれる。 奏斗の手は、萌音の腰にしっかりと添えられていた。
「奏斗……うちのこと見てた?」
「……見てねぇよ。お前がバカだから、仕方なく助けただけだ」
でも、奏斗の手は、萌音の腰からすぐには離れなかった。
萌音が「奏斗、ナイス反射神経!」と笑うと、 奏斗は目を逸らしながら、そっと手を離す。
その空気が、甘くて、静かに揺れていた――そのとき。
体育館の扉が、ガラッと開いた。
「おーい、誰か水筒見なかった?」
杉原陸先輩が、軽いノリで顔を出す。 前の時間に体育だった彼のクラスが、水筒を忘れていたらしい。
「藤崎~!いたいた。ちょっと聞いてもいい?」
萌音は「えへへ~杉原先輩、こんにちは~」と笑って、 ボールを抱えたまま、先輩の方へ歩いていく。
「うちのクラス、誰か水筒忘れててさ~。藤崎、見てない?」
「え~!うち、さっきからバスケしかしてないですよ~」
「そっか~。てか、藤崎ってさ、ジャージ姿も似合うよね。なんか、元気って感じ」
萌音は「えへへ~ありがとうございます~」と笑って、 杉原先輩は、萌音の肩にぽんっと軽く手を置く。
「……あ、髪、ちょっと跳ねてる。ほら、こうやって……」
先輩の指先が、萌音の前髪にふれる。
萌音は「え~!うち、寝ぐせ残ってた?」と笑って、 杉原先輩は「いや、かわいいから許される」と言って、 萌音の頭をくしゃっと撫でる。
その瞬間―― 奏斗の目が、止まった。
無言で、ボールを強く床に叩きつける。 「ドンッ」という音が、体育館に響く。
陽真が「……神崎、また始まった」とつぶやき、 ひなが「杉原先輩、タイミング悪すぎ」と苦笑する。
でも、奏斗は何も言わず、ただ黙ってボールを拾い上げる。 その手には、いつもより強く力が入っていた。
萌音は、杉原先輩と笑いながら話している。 肩に手を置かれて、髪に触れられて、頭を撫でられて―― その全部が、奏斗の胸をざわつかせる。
“俺の隣にいるくせに、他のやつに触れられて笑うなよ”
奏斗は、ボールを持ったまま、じっと萌音の方を見ていた。 その目は、無言で不機嫌MAX。
萌音は、ふとその視線に気づいて、首をかしげる。
「……奏斗、なんかまた機嫌悪いかも~」
「それ、萌音のせいじゃない?」
「え~!うち、何もしてないのに~!」
でも、萌音の胸の奥には、 杉原先輩の「かわいいから許される」という言葉と、 奏斗の目が止まっていた瞬間が、静かに残っていた。
そのあと、先生が「じゃあ、次はシュート練習だぞ~」と声をかける。
萌音がボールを持って戻ってくると、奏斗は無言でボールを受け取って、 「……お前、さっきのフォーム、直せ。肩、こう。……ほら、俺の手に合わせて」
奏斗の手が、萌音の肩にふれる。
萌音は「え、こう?」と言いながら、奏斗の手の位置に合わせる。
「そう。……それでいい。……俺の言う通りにしてれば、ちゃんとできる」
その言葉に、萌音は「奏斗って、なんだかんだ優しいよね~」と笑って、 奏斗は「優しくねぇよ。お前がバカだから、仕方なくやってるだけだ」と返す。
でも、手はまだ、萌音の肩に添えられたままだった。
それは、ただの体育の授業。 でも、体育館の空気は、甘くて、ざわついて、少しだけ熱を帯びていた。 そして、誰にも言えない気持ちが、沈黙の中で、じわじわとほどけ始めていた。
「ねえひな~、うち、ちょっとだけ変な気持ちになってるかも~」
萌音がそう言って、制服の袖をくるくる巻きながら、教室の隅に座り込む。
ひなは窓際で髪を結び直しながら、「また奏斗の話でしょ」と先回りする。
「え~!なんでわかるの~」
「わかるよ。今日の体育、神崎の顔、ずっと藤崎専用だったじゃん」
萌音は、体育館で転びそうになった瞬間のことを思い出す。 奏斗の手が、腰に添えられてた。 胸元にふれた自分の手。 あの距離。あの沈黙。
「うち、転びそうになったとき、奏斗がめっちゃ速く来てくれてさ~」
「うん、見てた。あれ、完全に反射じゃなくて“本能”だったよ」
「え~!でも奏斗って、いつも『バカか、お前は』しか言わないじゃん」
「それ、藤崎にしか言ってないよ。……それ、愛の言葉だよ」
萌音は、机に頬を乗せて、少しだけ真顔になる。
「でもさ、杉原先輩が来たとき、奏斗がボールめっちゃ強く床に叩きつけてたの、うち、見ちゃった」
「うん。あれ、嫉妬の音だった」
「え~!うち、別に杉原先輩と何もないし~」
「でも、神崎からしたら“誰かに触れられて笑ってる藤崎”が、もうアウトなんだよ」
萌音は、体育館で杉原先輩に髪を触られた瞬間を思い出す。
「うち、髪跳ねてたらしくて、先輩が直してくれて……」
「それ、神崎が見てたら、心臓潰れてる」
「え~!奏斗って、そんなにうちのこと見てるの?」
ひなは、少しだけ優しい声になる。
「藤崎は気づいてないだけ。神崎は、ずっと見てる。……隣にいるのに、見られてるって、すごくない?」
「うち、奏斗のこと“好き”って感じじゃないけど、なんか最近、ちょっとだけ変な感じする」
「それが“揺れ”ってやつ。恋って、最初は違和感から始まるんだよ」
萌音は、窓の外を見ながら、夕焼けに染まる空に目を細める。
「うち、誰かに触れられるより、隣にいてくれる方が安心するかも」
「それ、もう答え出てるじゃん」
「え~!うち、恋とか無理なんだけど~!」
ふたりは笑って、机に頬を乗せたまま、夕方の教室に沈んでいく。 でも、萌音の胸の奥には、奏斗の手の感触と、杉原先輩の言葉と、 そして、ひなの“全部見てる”視線が、静かに残っていた。
それは、ただの放課後。 でも、ふたりの恋バナは、甘くて、ちょっとだけ切なくて、 誰にも言えない気持ちを、そっとほどいていく時間だった。
「うち、今日の体育で筋肉痛なんだけど~」
萌音がそう言って、制服の袖をくるくる巻きながら歩く。 夕焼けが、坂道のアスファルトをオレンジに染めていた。
「……俺の言う通りに動いてれば、そんなことにならねぇ」
奏斗は、ランドセルを背負ったまま、無言で隣を歩く。
「奏斗って、なんかんだでうちのこと見てるよね~」
「見てねぇよ」
「でも、今日の体育で転びそうになったとき、めっちゃ速かったじゃん」
「……お前がバカだから、仕方なく助けただけだ」
萌音は笑って、少しだけ顔を赤くする。
「うち、奏斗にだけ怒られてる気がする~」
「当然だろ。お前にしか言わねぇよ」
ふたりの影が、並んで坂道に伸びていく。 その距離は、隣なのに、少しだけ揺れていた。
「杉原先輩、今日体育館に来てたね~」
「……ああ」
「うち、髪跳ねてたらしくて、直してもらっちゃった」
「……ふーん」
「奏斗、なんかそのとき、ボール強く叩いてたよね~」
「……別に」
萌音は、制服の裾を指でつまみながら、少しだけ真顔になる。
「うち、奏斗のこと“好き”って感じじゃないけど、最近ちょっとだけ変な感じする」
「……は?」
「隣にいるのが当たり前すぎて、逆に変な感じっていうか。いないと変な感じするっていうか」
「……お前は、俺の隣にいればいい」
その言葉に、萌音は「えへへ~」と笑って、 奏斗は目を逸らしながら、ランドセルの肩紐を直す。
風が吹いて、萌音の髪がふわっと揺れる。 奏斗は無言で、萌音の髪に残っていた花びらを指で取る。
「……ついてんぞ」
「え、桜?うち、桜に好かれてる?」
「違ぇよ。……お前、誰にでも笑いすぎ」
萌音は立ち止まって、奏斗の顔を見る。
「……奏斗って、うちのこと嫌いなの?」
「……俺の言うこと、ちゃんと聞いとけ」
「それ、便利すぎる~!」
ふたりは笑って、また歩き出す。 でも、奏斗の顔は、少しだけ曇っていた。
「……お前さ」
「ん?」
「杉原先輩に髪触られて、笑ってただろ」
「え~!だって、跳ねてたんだもん~」
「……俺が直しても、笑わねぇくせに」
萌音は、少しだけ立ち止まる。
「え、奏斗って、うちに髪触ったことあったっけ?」
「……今日、花びら取っただろ」
「それは、うちが桜に好かれてるから~」
「……バカか、お前は」
奏斗は、少しだけ顔を赤くして、前を向いたまま言う。
「……俺の隣にいるくせに、他のやつに触れられて笑うなよ」
「……奏斗、それって嫉妬?」
「違ぇよ。……ただ、気分悪いだけだ」
萌音は、制服の袖をぎゅっと握って、少しだけ顔を伏せる。
「うち、誰かに触れられるより、隣にいてくれる方が安心するかも」
「……それでいい。お前は、俺の隣にいろ」
その言葉に、萌音は「えへへ~」と笑って、 奏斗は目を逸らしながら、手をポケットに突っ込む。
ふたりの影が、夕焼けの坂道に並んで伸びていく。 その距離は、昨日より確かに近づいていた。
それは、ただの帰り道。 でも、今日の空気は、甘くて、少しだけ熱を帯びていた。 そして、誰にも言えない気持ちが、沈黙の中で、そっとほどけ始めていた。
部屋の電気を少しだけ暗くして、ベッドに座る。 制服は脱いで、部屋着に着替えたばかり。 窓の外では、虫の声が静かに響いてる。
萌音は、スマホを手に持ったまま、画面を見つめていた。 ひなとのLINEは、さっきまで続いてた。
「それ、もう好きじゃん」って言われて、 「え~!うちはそんなつもりないのに~」って返したけど――
今、ひとりになると、なんかその言葉が残ってる。
「うち、奏斗のこと、ほんとに好きなのかな……」
声には出さず、心の中でつぶやく。 隣にいるのが当たり前だった。 怒られるのも、からかわれるのも、全部“日常”だった。
でも、今日の体育。 転びそうになったとき、奏斗がすぐに来てくれた。 腰に手を添えて、胸元にふれた自分の手。 あの距離。あの沈黙。
そして、杉原先輩が髪を直してくれたとき。 奏斗がボールを強く床に叩きつけた音。 あれは、たぶん――嫉妬だった。
「でも、うちは奏斗のこと、そういう目で見てないし……」
萌音は、枕に顔をうずめて、もぞもぞと体を丸める。
「うち、奏斗のことは“幼馴染”ってだけで……隣にいるのが普通で……」
でも、今日の帰り道。
「俺の隣にいればいい」って言われたとき、 なんか、心臓がうるさかった。
「それって、ただの安心感じゃないのかな……」
萌音は、スマホの画面を伏せて、ベッドにごろんと横になる。 天井を見ながら、今日の空気を思い出す。
奏斗が、花びらを取ってくれた。
「……ついてんぞ」って言いながら、髪にふれてくれた。
杉原先輩に髪を触られたときより、 なんか、心臓がうるさかった。
「でも、それって……うちが奏斗に慣れてるだけじゃない?」
“好き”っていうより、“慣れ”とか“安心”とか。 そう思い込もうとしてる。 でも、心の奥では、何かが違うってわかってる。
「うち、奏斗のこと、何とも思ってない……はず」
その“はず”が、今日だけ、ちょっとだけ揺れてる。
萌音は、目を閉じて、静かに息を吐いた。 部屋の空気は、甘くて、少しだけ切なかった。
それは、ただの夜。 でも、萌音の心の中では、誰にも言えない気持ちが、 そっと形になり始めていた――気づかないまま。