【前回から数週間後】
大森side
医師「大森さん……」
大森「……」
俺は無言で先生に目で訴えた
医師「はぁ……気持ちは分かりますが」
大森「分かって……ます……でも先生、薬を……もっと強いのに変更すれば……」
医師「お忙しいのは分かりますが、薬でどうこう出来るのも限りがあるんです。今のも十分強いのを出してます。これ以上は医者として黙認も許可も出来ません」
大森「……」
医師「とりあえず今の大森さんの状態は良くありません。ですので体調を何とかする為にコマンドプレイをやっていただきます。あ、僕も鬼ではありませんので、大森さんに選択肢はあげますよ。こちらのスタッフとコマンドプレイされるか自分で選んだ相手とされるか」
有無を言わさずのコマンドプレイをしろと言う先生の指示は俺にとっては十分鬼な選択だった。
「ちなみに今日の付き添いはどなたですか?」
大森「りょ……藤澤です」
「どうします?こちらのスタッフでも藤澤さんでも良いですし、若井さんやマネージャーさんでも誰でもいいんですよ?その辺で捕まえた人以外なら」
先生……さらっと最後に爆弾発言
大森「ふ、藤澤に……頼みます」
医師「では、……君、待合に居る藤澤さん呼んできて」
看護師「はい」
大森「ちょ、先生っ!」
医師「大森さんの事ですから、周りを固めとかないと…………あ、藤澤さん、どうぞこちらに座ってください」
藤澤「あ、はい……あ、あの、何かありました?」
「はい。今日この後、大森さんとコマンドプレイしていただきたくて。見ての通り今の大森さんは限界ギリギリ……若しくは突破してる状態です。医師としてこのまま抑制剤だけでは限界だと判断しました。そして大森さんが藤澤さんとならプレイするとの事ですのでお呼びしました」
藤澤「……わかりました」
先生の話を真剣に聞いていた涼ちゃんは、くるりと俺の方へ向き、
藤澤「もぉ〜!やっぱり無理してた!」
大森「いや、俺的にはまだいけるって思ってて……」
藤澤「僕何度も聞いたよね?!なのに大丈夫の一点張り!元貴は我慢しすぎ!!」
ええ、何度も何度もしつこいオカンのように涼ちゃんには大丈夫かと聞かれた……
でも俺的にはあと少しで忙しいのにも目処が立たからいけると本当に思っていた。
大森「……ごめん……」
医師「まあ、皆さん大森さんの性格は分かっているはずなので基本何も言わずに見守ってくれてはいるはずです」
先生の言葉に涼ちゃん以外はね、と心で思う
医師「でもそれに甘えすぎて体調を壊されては本末転倒です。甘えるの意味、きちんと考えてください」
大森「……はい」
医師「藤澤さん、少しは大森さんも分かっていただけたと思うので今日この後はよろしくお願いいたします」
藤澤「いえ、僕たちが言えない事を言っていただきありがとうございます」
医師「それでは大森さん、また来週です」
大森「はい……ありがとうございました」
診察室を出て、会計を待つ間、俺と涼ちゃんは無言だった。
「ごめん」も「ありがとう」と言うのもなんか違う気がしてなんて言っていいか分からず、会計処理が終わるまで涼ちゃんの隣で黙って大人しくしていた。
涼ちゃんも黙っているものの、携帯をポチポチと弄っていた。
多分、マネージャー……若井に報告の連絡だろう
「大森さーん」
藤澤「僕が行くから元貴は待ってて」
大森「ん、」
俺の返事ににこりと笑い、呼ばれた会計窓口へと向かう涼ちゃん。
何か説明らしきものをされていて涼ちゃんの首が赤べこの様に上下している。
説明が終わったのか会釈をしてこちらへと戻ってくる涼ちゃんの手には袋が握られていて、俺の方へと差し出してきた。
藤澤「はい、とんぷくだって」
大森「とんぷく?」
藤澤「先生がどーしてもヤバそうな時だけ一日2回まで飲んでいい薬だって」
多分、この後のコマンドプレイも気休め程度にしかならない事を先生は分かってるんだ。
俺が普段の薬を飲みすぎないようにと処方してくれたんだろう。
大森「ん、ありがとう涼ちゃん」
藤澤「じゃあ、帰ろっか」
伸ばされた手を取り、涼ちゃんが呼んでくれていたタクシーに乗り込み俺の家へと向かった。
───
──
自宅に着いてからは、座る前にさっさと風呂に入れと涼ちゃんに背中を押され、息付く間もなく風呂に入り、俺が風呂から上がれば、じゃあ借りるねと涼ちゃんが交代でお風呂へと消えた。
タクシーの道中、この前みたいな事が起きた時のためにと涼ちゃんは簡易のお泊まりセットを持参していると教えてくれた。
荷物の少ない涼ちゃんが最近ちゃんとしたカバンでスタジオに来てたのはそのお泊まりセットを入れるためだったらしい。
元々はビニール袋で来ていて、マネージャーに怒られてから、よく分からない絵柄のくしゃくしゃの布のトートバッグで来ていた涼ちゃん。
それからちゃんとしたショルダーバッグへと進化したのはある意味俺のおかげじゃん、って善意の押し付けなことを思考し、涼ちゃんが上がってくるのを待つ。
ふと、「今日の付き添いが涼ちゃんで良かった」と思った
もしも今日の付き添いがもしも若井だったら……俺はどうしてたのか……
なんてタラレバな事を考える。
若井が近くに居るのが辛いのが収まってはないけど、薬の効果なのか前よりは楽だ。
それこそ中学の……あの事が起きる前みたいにdomとかsubとか考えずに接している。
あの時、あんな事が起きなければ
俺があんな態度を取らなければ
俺は若井にもっと違う接し方が出来たんだろうか
藤澤「元貴、大丈夫?」
呼ばれて目を開ければ、風呂上がりのほかほかした涼ちゃんが俺を覗き込んでいた
大森「ん、大丈夫……ちょっと考え事してただけ」
藤澤「話聞こうか?」
大森「……」
藤澤「自分からはいいにくい感じ?」
こくんと頷けば
藤澤「……そっか、じゃあ後で聞くようにするね。時間が勿体ないし、準備しようか」
涼ちゃんの
「後で」
それはコマンドで聞き出すよ、って意味だ。
でも涼ちゃんは俺が言いたくないじゃなく言い出しにくいを読み取ってくれたからだ。
以前のように、俺が座りやすい様に場所を確保する為にリビングのテーブルを少し動かし、ソファに座った涼ちゃんは目を瞑った。
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ふふ、……ありがとうございます。

