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※大森さんのほくろの話です。
ライブハウスの裏手。
その奥まった廊下に並ぶ、小さな楽屋。
隣室ではスタッフたちが真剣な声で打ち合わせをしているのが、薄い壁越しに聞こえてくる。
「ちょっとだけ、こっち来て」
涼架がそう言って、元貴の手首を取ったのは、
ちょうど本番前の衣装チェックが終わった直後だった。
「え、ここ…? 楽屋……」
「平気。声、出さなきゃいいんだよ?」
そう言って扉をそっと閉めると、涼架は静かに鍵をかけた。
「鍵……涼ちゃん、なに考えて……」
「今の元貴、すごく無防備で、やばいくらい色っぽい。
さっきステージ袖で見えた瞬間から、もう我慢できなかった」
照明の落ちた楽屋で、涼架が囁くようにそう言って、
指先でそっと元貴の右まぶたを撫でた。
「目、閉じて。俺のことだけ考えて」
「ばか、誰かに聞こえたら……!」
「だから声、出すなって言ってるじゃん。
出したらバレるよ? 今、すぐ隣でスタッフたち喋ってる。
“あれ? 今の声、誰かの喘ぎ声じゃない?”って、気づかれるかもね」
ゾクッとした。
耳元に落ちる低音の声、すぐ横の壁の向こうから聞こえる現実の打ち合わせの声。
その狭間で、右目の上に――唇の感触。
「や……っ、ダメ……!」
「ねえ、なんでそんな顔になるの?
俺のキス、そんなに気持ちいい?」
恥ずかしくて堪らない。
だけど、まぶたに、黒い点に落とされるキスが、火を灯すみたいに身体の奥まで届いていく。
「…ねぇ、元貴。首、もっと見せて」
涼架の唇が離れ、今度はシャツの襟元を掴んで引き下げる。
首筋が露わになり、汗ばんだ肌のすぐ横に――あの“印”。
「ここ、ほんとに好き。
誰にも見せちゃダメ。ここは、俺だけの場所だよね?」
囁くと同時に、舌が這う。
ぬるりと、濡れた熱が、首元の黒点をなぞる。
そして、そこに何度も円を描くように、ねっとりと舐め続ける。
「っ……あっ、ん…や、ば……」
「ほら、声出てる。
隣、聞こえるかもよ? もう少し抑えてよ、元貴」
言いながら、腰を引き寄せられる。
唇は首に、手は太腿に、そして言葉は耳の奥へ直接突き刺さるように。
「ねえ、限界なんでしょ?
ほら、首のとこ舐められるだけで、こんなに……」
「っっ……は、ぁ……っ……やだ……俺……」
首筋を這う、ぬるく濡れた舌。
耳元にかかる、低く熱のこもった吐息。
膝の上で手をきつく握って、なんとか自分を保とうとしていた元貴だったが――
そのとき、隣の部屋のドアが開く音が、ピシッと聞こえた。
「……あ、じゃあこの資料、楽屋に置いてくるわ」
「っ……!」
スタッフの声。
足音が、近づいてくる。
ここは、鍵をかけている楽屋。
だけど、そのすぐ外を――誰かが歩いている。
「……っ、や、ば……く、る……来る……っ!」
そのとき、涼架はすっと指を元貴の口元に滑らせた。
小さく、細く、長いその指が、元貴の唇を押し当てる。
「声、出すなよ。今、出したら本当にバレるよ」
「ん……っ!」
舌は首筋から鎖骨に移動し、愛撫をやめない。
だけど、声を出すことは許されない。
そのときだった。
――ガチャッ、ガチャガチャッ。
突然、ドアノブが回された音がした。
「……っ!」
「鍵、かかってるなー……あれ、大森さん?」
「大森さん、大丈夫ですかー?」
スタッフの男性の声。
扉越しに、はっきり聞こえる。
その直後、涼架の唇がまた“痕”に落ちてくる。
「……っんっ…く、くるな……バカ……っ…!」
だが、元貴の震える声は押し殺されていた。
返事を、しなきゃいけない。
でも、舌は首に触れたまま、舐め続けている。
「……っ、ご、ごめんっ…! 今、き、着替え中で……!」
かろうじて搾り出した声。
平然を装うには、あまりにぎこちない。
けれど、スタッフは気づかずに返した。
「あっ、すみません!今日の資料、持ってきたのでまた後で渡しますねー!」
「……う、うんっ! おねが、いしま……すっ」
なんとか耐えた。
けれど――舌の愛撫は止まらない。
むしろ、より深く、執拗に“印”を舐められる。
「今の……めっちゃ頑張って我慢してたね、元貴。 じゃあ、そのご褒美……あげるね?」
「っ……だめ……もうほんとに、無理……っ」
涼架の手が、腰にまわり、背を引き寄せる。
舌がもう一度、首の印の中心を強く押し当ててきた。
「んんっ……! ん……っ、んぁっ……!」
出そうになる声。
慌てて涼架が指を口元に滑り込ませる。
「……元貴、出そうなの?
じゃあ、もっと――」
涼架は首筋に、もう一度舌を深く押し当てた。
その瞬間、元貴の口にあった指を、彼自身の歯が噛んだ。
「……っん…んんっ……!」
限界だった。
押し込まれた指を、無意識に噛む。
(もう……やばい……っ)
次の瞬間――
元貴の身体がびくんと震え、
中から溢れ出すように、果てた。
声にならない吐息。
押し当てられた指。
“標”に塗られた涼架の唾液と熱。
「……頑張ったね、元貴。
誰にも、聞かれなかったよ」
涼架の声だけが、やさしく響いた。
元貴はその腕の中で、震えたまま――
羞恥と快感の余韻に、ただ静かに堕ちていった。
END