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結果は明瞭である、今レイブ達の前に立つバストロは全身を裂傷による流血で赤黒く変じ、息も絶え絶えながらも何とか命を持ち応えているのであった。
因みにここまで敢えて先制を許し続けたジャッカロープを八頭絶命させている、体術だけで、である。
『北の魔術師』、『次の魔王』、看板に偽り無い強さである、凄いっ!
とは言え、屈強で他に類を見ないほど鍛え上げられた肉体は兎も角、ヒトが二の足を踏んだり、チャレンジする事無く諦めてしまう原因、心の弱さは遠慮する事無くバストロに襲い掛かった様である。
時間軸を戻した瞬間、里人たちが尊崇(そんすう)を込めて呼んだ、『北の魔術師』は半泣きになりながら自分の弟子、僅(わず)か八歳の少年レイブに懇願するのであった。
「お、おいレイブゥ、全然発動しないぞその呪文ぅ! 俺そろそろ限界っぽいんだがっ! 発声する以外に、他に何か条件とか有ったんじゃないのかぁ? 至急検討を求むっ! 死んじゃうぞっ、おいぃっ!」
血まみれの師匠を放置したままで視線をやや上方に移したレイブは答える。
「うーん、そう言えばぁ、神様が話し掛けてくれたのってギレスラとペトラを両胸に強く抱きしめていた時だけだった様なぁ…… 若(も)しかしてぇ、それが、大切なのかなぁ?」
バストロが絶命寸前な感じで叫ぶ。
「来いっ! 来いってぇ! ギレスラとペトラァ! 俺の胸に飛んで来い、いいや飛んで来て下さいぃっ! ほら、おいでおいでぇっ! 良しっ『反射(リフレクション)』っ! グハァッ! だ、駄目かぁっ!」
自らが全幅の信頼を置いているレイブ、スリーマンセルのリーダーのお師匠様、バストロの言葉には逆らえる訳も無く、思い切って飛び込んだギレスラとペトラを守る為に、粗雑に投げ捨てた後、血だらけのバストロは考えたのである。
主に肉体の昇華作業に人生、いいや魔術師生の殆(ほとん)どを費やしてきたバストロがそれ以外の事柄に心を砕く事は甚(はなは)だ異例な事なのである。
兎に角、脳筋馬鹿は思ってしまったのである。
曰く、
――――呪文を唱えても無意味…… 他に縛りとなりそうだったギレスラとペトラを抱きしめても駄目だったぁー! と言う事は、残されている唯一の可能性、そう言うことかぁ! 自分のスリーマンセル、俺の場合はヴノとジグエラを、抱く? 抱ける訳が…… いやいや密着していれば良いのかな? んー、そもそもヴノの皮膚もジグエラの鱗も並みのモンスターの攻撃じゃあ傷一つ付かないしなぁ…… チクショウ、行き詰っちまったか、いや諦めるのはまだ早い、何とかぁ……
そんな風に思い始めたバストロの前でレイブは躊躇の欠片(かけら)も見せずに宣言したのである。
曰く、
「『反射(リフレクション)』! 師匠っ! なんだかこのスキルって、僕以外には使え無いんだってさ! 兎に角さ、コイツラを全部倒しちゃうから、その後で話そうよっ! 生き長らえる事が最優先! だよね? 少し休んでいてぇっ!」
バストロが転んだ瞬間、その手から逃れた薄赤いギレスラと、真っ黒な豚猪、ペトラを抱きしめたレイブは雄雄しく叫びをあげ呪文を口にした。
目を見開くバストロの前で、次々と現れては襲い掛かるウサギの魔物達、十数匹はたちまちその姿を血塗(まみ)れへと変えるのであった。