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「『解除(リリース)』、お待たせ師匠、師匠? ああ、目を見開いたまま痙攣して気を失ってるみたいだぁ! ペトラ、大急ぎで『微回復(プチヒール)』をぉ!」
『う、うん、『微回復(プチヒール)』『微回復(プチヒール)』『微回復(プチヒール)』』
「…………ま、待って、父上ぇ、グフトマ師匠ぉ、って、あれここは? うん? レイブか…… 俺は一体……?」
どうやら死の淵の入り口まで行って来たらしいバストロであった。
レイブは大きく安堵の息を吐くとギレスラに向かって言う。
「じゃあジグエラとヴノを呼んでくれる? 一旦帰って師匠に休んで貰わなくっちゃ! でも良かったよね、これだけ干し肉にしておけば安心して冬を迎えられるぞ! 後は糖分、楽しい蜂の巣探しと、果物集めだけになったねぇ、良かった良かったぁ!」
言葉の終りを待たずに、ほんの数メートルだけ、小さな翼をはためかせて宙に浮かび上がったギレスラは甲高く良く通る声で鳴く。
『グラアァーアァー! グログラアァァー! グウゥララアァァー!』
これは純粋な竜語での叫びである。
グラは仲間の竜に請願(せいがん)、頼むための二人称であり、グロは一人称、若(も)しくは自分を含む仲間達を表す竜種、三人称も含む主語である。
ラァは救助、ララァは事態が切迫している事を表す、らしい。
この場面でギレスラが竜語で叫びを上げたことは偶然では無く、実は打ち合わせ済みの事であった。
理由は簡単である、『竜の餌場』の外で待機しているヴノとジグエラ、今回はジグエラに対して確実に言葉を届けるために事前に、竜語でね? うん竜語だね! そんな感じで決めていたからなのである。
竜種はあらゆる面で哺乳類や鳥類を上回る存在である。
全ての種、と言う意味では魚類や両生類、昆虫や無脊椎動物ほどの多様性は無いが、こと大地の上、地上に於(お)いては始祖とも言える優れた種であった。
進化の過程に於いて、最後の変温動物であり自らが置かれた環境に対して、即座に対応できる柔軟さを持った、言うまでも無い先史時代の主役、適応力の王者なのである。
ヴァイパーもラーミャも割と容易(たやす)く、この終末感溢れる時代に適応していた。
無論、爬虫類の極致、かつての霊長、恐竜に匹敵し更には現環境に適した姿に進化を遂げたドラゴン、竜種はやはり別格の優性種なのである。
当然、聴覚も優れている。
聞こえた音が、同種にしか発音不可能な言語で、その上年端(としは)も無い稚竜(ちりゅう)の声であれば尚更であった。
その事を証明するかの様に、間を置く事無くジグエラはギレスラの真横に姿を表した直後、いつに無く凶暴な怒号を響かせて周囲を威嚇する。
『ンギャァアアアァー! グギャァァアアアァラララァアアァー! ガアアアアァァー!』
『ギャッ♪ ギャッ♪ ギャッ♪』
こちらも本能なのだろう、打ち合わせ済みだったというのに、自分の救援を求める声にガチな感じで駆け付けてくれたジグエラに対して手放しで嬉しそうにしてしまうギレスラの声である。
ともあれ、周辺にいまだ残って様子を伺っていたモンスターは、このジグエラの咆哮(ほうこう)を聞き、残らず一目散にこの場を離れて行ったのである。
対してジグエラは、頼り無さげに草原に腰を下ろした自らの相棒、バストロを見た事で即座に冷静な自我を取り戻して叫ぶ。
『ば、バストロ? アナタどうしたのよ!』
「キュ~……」
残念な事ではあるが、ジグエラの声を聞いたバストロは安心故か、情け無い言葉を残して再びその意識を刈り取られてしまうのである。