注意事項は一話の最初、またはあらすじをご覧ください
長めです
ここまで大丈夫な方のみどうぞ
あの日…一風変わった人の子と出会ってから
七日が経過した
「本当にまた来るとは思わないじゃん!!!!」
『俺は有言実行する男だからね』
『しなくていいよ!!!てかしないで!!!』
そんなに言わなくて良いじゃんとでも言うかのように唇を尖らせる人の子
まさかもう一回わざわざ森奥まで行って崖滑り降りてくるとは思わなかった
そこまでしてこんな雑魚九尾に会いたいのか???
「…妖術はもう見せないからね?」
『うん良いよ別に。思ったよりしょぼかったし』
「言い返せないのが悔しいぃ…!!」
『いつかもっと凄いやつ見せてよ』
「…あぁ分かったよ…いつか君が驚きすぎて血反吐ぶちまけちゃうくらいの妖術見せてあげるから
覚悟しとけよ!!!!!」
『表現が物騒だな』
完全に舐められてるなこれ…
単純に何十歳も年下の相手に馬鹿にされるのは腹が立つ
…今日から妖術練習しよう
「っていうかなんでまた来たの?」
『別に。また喋りたいと思って』
「僕としては人間に勘付かれる可能性が上がっちゃうからあんまり来ないで欲しいんだけど…」
『誰にも言ってないし大丈夫だって。そりゃあ毎日行ったら怪しまれるかもだけど、七日に一回なら何も言われないって』
「…遠回しにこれから七日に一回来るって言ってる…?」
『うん』
「ふざけないでよ!!!本当に辞めて!!!」
七日に一回来るだって?
そんなの、絶対勘付かれるに決まってる
村の人に気付かれてしまったら、きっと僕は払われてしまう
…それに
「…僕が言う事じゃないかもしれないけれど、君だって危ないんだよ? 僕と、九尾と馴れ合うなんて村への裏切り以外の何物でもないんだから」
『…えっ?』
「…一度だけ、妖怪を助けようとした人間を見たことがある。村を裏切って、妖怪を遠くに逃がそうとした人間を」
「でも殺された。元は仲間だったなんて嘘みたいにあっさりと殺された…もちろん妖怪も…僕の仲間も払われてしまった」
「だから僕は…君が傷つけられない為にも、もう会わないべきだと思うんだ 」
僕の真剣さを感じ取ったのか
目の前の子供はしばし黙った後、口を開いた
『…なら俺が妖怪になれば良いってこと? 』
「ちょっと待って話聞いてた???」
『え、いやだってそうじゃん。俺が人間で、きゅーびが妖怪だから会うと危ないんでしょ?なら俺が妖怪になれば解決じゃん』
「なんでそうなるの…? そこまでして僕とお話したいの!? なんなの君は!!??」
『なんなの君はって言われても…俺”りうら”だけど? てか名前で呼んでよ』
「名前聞いてんじゃないよ!!!だからどうして君は僕t『”君”じゃなくて”りうら”!!』「なんでそんなこだわり強いんだよ!!!!」
僕が知らないだけで人間というのはこういう物なのだろうか
…いや、多分こいつ…りうら限定なんだろう
『きゅーびと話してると単純に楽しいんだよね。あと普通に好奇心。九尾とか御伽草子の中でしか見たことなかったから』
「そんなこと言っても…好奇心に身を任せて行動するのは危ないって。ほら人間も言うでしょ?好奇心はうんちゃらかんちゃら…」
『”好奇心は猫をも殺す”?』
「そうそれ!」
『やっぱきゅーび馬鹿じゃん』
「悪かったね馬鹿で!!!!」
なんか本当に悲しくなってくる
あれ…僕一応100年近く生きてる九尾なんだけどなぁ…
「てか僕と話すのが楽しいって…村のお友達とお話すれば良いんじゃないの? わざわざ森奥まで行って僕と会話する意味無いでしょ」
『無理。俺近所の子供から怖がられてるから楽しくお話なんて出来ない』
「…確かに君、口が達者だもんね」
『”君”じゃなくて”りうら”なんだけど』
「あぁはいはい…りうらは口が達者だもんね」
『だからきゅーびとお話したいの。分かる?』
「 そんなこと言われても…ていうかもう暗くなってきたし帰りなよ。君の帰りが遅いと村の人間に勘付かれるかもしれないでしょ 」
いつの間にか日は沈みかけていて、辺りに夜の匂いが立ち上り始めている
暗くなると帰るとき危ないだろう
『うわもうこんな暗くなってる…次はもっと朝早くから来ようかな。』
「いやもう来なくていいから!!」
『でもきゅーび言ってたじゃん。いつか俺が驚きすぎて血反吐ぶちまける位の妖術見せてくれるんだっけ?』
「…あ」
『楽しみにしてるね〜!!』
「っっっ…腹立つうぅぅぅぅ!!!!!!! 覚悟しとけよりうらぁ!!! 僕も有言実行する男だからぁ!!!!」
僕は、もうすっかり遠くなった背中にそう叫び散らしていた
りうらは律儀にも、七日ごとにちゃんと僕の元へやってきた
その度にちょっと喋って、ちょっと遊んで、ちょっと妖術を見せて…みたいな感じで過ごして
そしてりうらは、無知すぎる僕を面白がっている
みたいで、度々人間の世界のものを持ってきた
「…なにこの…じゃりじゃりした玉…」
『お手玉だよ。知らないの?』
「…ぁあ、お手玉ね!! うんもちろん知ってる!!!」
『じゃあどうやって使うか教えて?』
「…えぇっと…触って中に何が入っているのか当てる…?」
『何が入ってると思う?』
「…人間の骨???」
『怖いわ』
やっぱ何も知らないんだね〜なんて馬鹿にされるのは本当に悔しい
それと、確かりうらが6回目くらいに来た時
僕はここから先も”きゅーび”呼びなの? と聞いてみたところ
『じゃあ”ほとけ”って呼んでもいい?』
「…仏???」
『うん。仏と同じくらい優しいから』
「仏様舐めんな…てか僕は九尾なんだけど…」
『でも本名教えてくれないじゃん』
「普通に長過ぎて覚えてないんだよ…え、本当に僕”ほとけ”呼びになるの???」
『うん。よろしくほとけ』
「呼び捨てなのかよ!!!!」
そんな風に過ごしている内に
いつの間にか、出会った頃の寒さは跡形も無く消え去って
お日様が心地良い春がやってきた
ということで僕、りうらに一泡吹かせます
「そろそろ来るかなぁ…」
いつもいつも年下に馬鹿にされて、僕だって悔しくない訳じゃない
『こんなことも知らないの?』とか『やっぱり、ほとけってバカだね』とか散々心を抉られてきた
だけれど…僕も有言実行する男なんだからね
今日でりうらと会うのは丁度10回目
辺りにはすっかり春の気配が漂っている
桜も綺麗に咲いて、すこし前の僕なら1匹だけでお花見を楽しんでいたであろう良いお天気
きっとりうらだって浮かれてるはず
多分!!
「…ふふふふふ…」
大量の桜の花びらを前に、にやけが止まらない
あの日から毎日練習していたんだから
さぁて、りうらはどんな反応をしてくれるかなぁ
そんなことを能天気に考えていたら
『ほとけぇー? 来たよーー 』
「!!」
遂にりうらが来た
ふふふ…やっぱりうらもお花見日和で浮かれてるね。顔が赤いしいつもより目がとろんってしてる
『ほとけーー? …今日いないのかなぁ 』
りうら…覚悟ぉ!!!
「おらああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
『っえ? ほとけそこ居たの? てかなんで急に叫…ってうわああぁぁぁ!!??』
沢山の桜色が
一斉に舞い上がった
「どう!? 驚いた!? 驚いたでしょ凄いでしょ!!!!」
作戦が上手くいって、思わずきゃはきゃはと子供のような笑い声をあげてしまう
仕方ない。だってもの凄く上手くいったんだもん
最初とは比べ物になんないくらいの風、起こせるようになったんだから
当のりうらはまだ少し桜の花びらが舞う中、座り込んでぽかんとしている
僕の凄さを思い知ったか!!
『…これ…』
「僕の風起こしの妖術で桜の花びらを一斉に吹き飛ばしたの!! りうら驚いたでしょ!! 」
『……』
得意気に説明すると下を向いてしまったりうら
…あれ、ちょっとやり過ぎた?
「…り…りうら? 大丈夫…?」
『………(グイッ』
「うわぁっ!?」
突然りうらに押し倒される
え、僕怒られちゃう?
『….ぷっ….』
『あははははははっ!! すげぇ、めっちゃ綺麗だった!!! すごいよほとけ!!!』
僕のそんな心配は不要だったみたいで
りうらは可笑しそうに笑い始めた
「…でしょ!!?? 僕、沢山練習したんだから!!!」
『すごい!! めっちゃ桜色だった!!! 匂いもふわって香って…なんか、夢の中みたいだった!!』
「そんなに言われるなんて照れちゃうなー!!!!」
桜の香りが漂う崖下、二人…というか一人と一匹で僕らはずっと笑っていた
種族が違うのも忘れて
『ねぇ、今のもっかいやってよ!!』
目を輝かせながらそう言ってくるりうら
…こんなに笑っているところ、初めて見たかもしれない
薄紅色の花びらと真っ黒な髪、それと細められた赤い目がとても綺麗に見えて
少しだけ胸が高鳴った
…あぁ、本当に駄目だな
「人間と馴れ合うつもりはない」なんてほざいてた癖に、もう絆されかけてしまっている
でもこの崖下には僕らだけしかいないんだから
まぁ良いかな、なんて投げやりな思いも
「あと一回だけね!!」
全部春の所為にすることにした
展開がはやい
閲覧ありがとうございました
コメント
1件
毎回さいこうすぎますっ😭続きたのしみです!