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5 - 不屈の魂

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2025年03月07日

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かなみは優しかった。クーガーの手土産は空元気の生返事に終わり虚無の日常を歩む。負けた、この俺が……ボロボロのグローブは相棒の証。夢うつつを逆さまの空に映して春風に吹かれる部屋のベランダから土筆が顔を出して俺を見下している。

「畜生」

「昼ごはんだよ〜!気分転換♬」

ぬるま湯に入り浸る日々。かなみは相変わらず家事を母親のようにしてくれる。これ以上の幸せがあるものか。あの悔し涙もきっと無駄じゃない、全て希望へのステップ……明日は明日の風が吹く。

「雇われの身のなんでも屋。か」

「ケンカは駄目。約束」

俺はテレビをただ眺めていた。君島からのLINEの返事は即答で返す、これが仕事!!激闘は急き立てて「敗北」の烙印を俺の魂に刻み込んだ。

「元気無いね〜」

「かなみ、仕事は仕事だ。金も残り少ねェ。食料ももう底を尽きる」

「私もアルバイトしてるよ」

「君島には悪いが腹を括ってもらう。一度燻った火は消えねェ!そうだろ!?俺の性に合わねェんだ」

「……」

「借りは返す!!当然のパーペキだ!!」

「熱血漢の単純」

「シェルブリットのカズマに二言は無ェ」

報道のニュースでは本土の株価が美人アナウンサーによって読み上げられている。女はロストグラウンドの原稿を声に出した。

「専門家によりますと治安の悪化に歯止めが止まりません。支援物資の調達のメドは依然立っておらず経営破綻は避けられないとの話です」

玄関のチャイムが鳴った。顔見知り?先日のネイティブの仲間の一人だった。俺は少年を招き入れた。

「ガキが何の用だ。バトル・ファイトは休戦したぞ」

「僕のアルターが危機を察知した、HOLYとの一騎打ちは免れない……もう一度力を貸して」

「戦争でも押っ始めるか?」

「君島さんは別の職務で忙しいんだろう?僕のバイクで行こう」

「OK!!」

俺達は一概発起した。買い出し中のかなみにLINEを送り街へ赴いた矢先の出来事だった。

「おいおい仲間割れかよ」

「手前ェ等!!金だけ寄越してさっさと働け、誰のおかげで健康に過ごせてると思ってんだ!!」

ネイティブの女が鞭を翻し叫ぶ一部始終の光景を少年は見逃さなかった。

「止めて下さい!同じアルター使いとして恥ずかしいと思わないんですか!?その力は世界を救う為にあるんです!!」

街は一般市民の呆れた様子が伺える。アルター戦が幕を開けた!

「名乗れ小僧」

「僕の名は輝!ブレイド使いの一端の戦士だ!!」

ネイティブ同士の衝突……感情に身を任せた不毛な争い。カズマは生欠伸をして座り込む。市民達は声を上げて応援する。

「何の為のバトル・ファイトだ輝?」

「僕の意志が告げている!男には避けられない試練があると!!」

女は自分の名前をハルと吐き捨てると鞭を掲げた。

「クソガキごときに能力アルターを使うまでも無ェ!」

輝のアルター「カゲロウ」が発動した!接近戦に長ける雄叫びが二人を戦火の渦中に巻き込む!ハルは胸ぐらを掴み輝に頭突きする、生々しい鮮血が飛び散った!!

「俺達は勇者だろう?」

「あなたは間違っている!片意地を張って自分を正当化したいんだ!」

「人生の先輩の説教を聞け。アルター狩りは止められない……警察の魔の手はロストグラウンド神奈川県ならぬ日本中の全域まで知れ渡る。これは聖戦」

「お前は神か!!」

「現状を知れ。歴史は戦奇譚のピース欠片を綴り叙事詩を創り上げる」

「それが愚行!」

カズマは無視を貫いた。野蛮な言い争いはどこまでも続く、パンピーは聞き入っている……最早痴話喧嘩。

「ロストグラウンドは絶望の一途を辿る、破壊衝動が炎を燃やし爪跡を遺す。他意は?」

「学力の低い諸悪!」

側にいた老人が横槍を入れた。街に活気が戻り三々五々人が帰ってゆく。

「もういい、やめてくれ。この通りだ」

「ハル!君は人間の心を忘れたただのエゴイストだ」

「指の一本でも折らなきゃ気が済まねェ!負けろ!!」

刹那!ピストルの弾丸がハルの脳天をブチ抜く!!倒れ込む彼女をカズマが支える、が……首を横に振った。警察だ。

「ネイティブアルターは全員極刑です。署までご同行を」

「たかがポリ公なんぞ……どけ輝」

イーリャンの絶対知覚が大地の隙間風を吹き荒んでいく激情の交わる現実REALを焦がしてゆく。

「俺を止めてみろ。輝」

「うん。分かってる」

周りの人々を避難させてカズマは一人孤独になった。負けねえ……我が道は一本筋!!警察が拳銃を構える一瞬の隙を突いて君島の軽自動車が強引にカズマを連れ戻す。

「お前なあ……いつも言ってるだろ。性格直せ」

「逃げ恥なんて俺の世界じゃねェ。今すぐ戻れ!君島、ゲンコツが必要なんだ!あいつらしつこいにも程がある!」

「駄目だ。かなみちゃんの想いに気付け」

「よせ!巻き込むなよ」

帰り道の二人は斜陽を浴びて他愛の無い会話で盛り上がる。

「アルター戦も板に乗ってきた。楽しんで何が悪い」

「警察なんて弱ェ。お前には別の仕事がある。今夜はみっちり指導してやる。それと……」

「まだ何かあんのか?」

君島は人指し指を立てた。もうすぐ家路に着く。

「遅ェぞ!ちょうど腹減ってたんだ、あいつのサンドイッチ美味いんだよな!早くくれ」

「やれやれ」

精神の奥底に微かな愛欲が灯る。情念DESIREの薔薇の花弁が散ってゆく……カズマの知らない内に。

「おかえり。早かったね」

「かなみちゃん!こいつ借りるから」

「アルター能力の強化だな?いいぜ。元気に働いてやる!!」

「ハハ!そうこなくっちゃ」

男達の讃美歌は続く。HOLYの野望と踏襲する世代交代の倫理に天秤を掛けて。

「「完璧」「闇」「他」、現状維持の経過観察デス」

無常矜侍がワイングラスを傾けて夜会を楽しんでいる……

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