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翌日。
「今日の体育、バスケだって! ゆあんくん、バスケ得意?」
昼休み、えとがまた俺の席にやってきた。俺はイヤホンを外して「別に」とだけ答える。バスケは嫌いじゃない。むしろ得意な方だ。中学の時はバスケ部で、それなりに活躍もした。でも、高校に入ってからは、目立つのが嫌で運動部には入らなかった。
「えー、つまんないなぁ。私、バスケ苦手なんだよね。ゆあんくん、パスとか教えてよ!」
えとは無邪気に笑う。その笑顔に、俺の心臓はまた小さく跳ねた。
体育の時間。
バスケのコートでは、すでに男女に分かれてボールが弾んでいた。三大マドンナのうち、えとの他にいるクールビューティー系の美人、のあも、友達と楽しそうに話している。のあは、普段は俺に目もくれないけれど、実はYouTubeでは共に活動する仲間だ。その横には、クラスのムードメーカーで、YouTubeのリーダーであるじゃぱぱと、その隣で鋭いツッコミを入れているたっつんの姿も見えた。彼らもまた、学校ではただの同級生だ。
「ゆあんくん!パス!」
えとが俺にボールを投げた。俺は反射的に、中学時代に培ったフォームでボールを受け取る。そして、えとがゴール下でフリーになっているのを見て、迷わず正確なパスを出した。えとは驚いたように目を見開いたが、すぐに笑顔になり、シュートを決めた。
「やったー! ゆあんくん、すごいじゃん!」
えとが駆け寄ってくる。その時、クラス中の視線が俺に集まっていることに気づいた。のあと、るなの視線も、ちらりと俺に向けられたのがわかる。じゃぱぱとたっつんは、遠巻きに見ていたが、俺のパスを見て小さく「おぉ」と声を漏らしたのが聞こえた気がした。
「おい、今のパス、すげぇな、ゆあん!」
「まさかゆあんがバスケできるなんて!」
クラスメイトたちがざわめき始める。その中には、唯一の友達のじゃぱぱの声も混じっていた。じゃぱぱは、クラスのムードメーカーで、スポーツも勉強もそつなくこなす人気者だ。
「まぐれだ」
俺は慌てて呟いたが、もう遅い。一度向けられた興味の視線は、なかなか離れない。
その日の放課後。
俺はいつものように、誰もいない教室で参考書を開いていた。すると、えとが一人で教室に入ってきた。
「ゆあんくん、あのさ……」
絵斗は少し言いづらそうにしている。
「何?」
「ゆあんってさ、もしかしてじゃぱぱくんとさマイクラの動画とか、投稿してる?」
その言葉に、俺は凍り付いた。じゃぱぱとマイクラの動画。まさか、それを学校で聞くとは。
「……なんで、そう思うんだよ」
俺の声は、自分でも驚くほど震えていた。
えとはスマホを取り出し、俺が先日SNSで風景写真としてアップした、教室から見える夕日の写真を見せた。その写真の片隅には、動画編集ソフトの小さなアイコンと、マインクラフトの起動画面がうっすらと写り込んでいる。俺が風景写真と偽ってSNSに投稿し、その裏でじゃぱぱとマイクラのチャンネルを運営していることは、誰にもバレていないはずだった。
「この写真、ゆあんくんがいつも座ってる席から撮ったでしょ? だって、この机の傷、ゆあんくんの机の傷と一緒なんだもん」
絵斗はにこやかに笑っている。その笑顔が、俺にはとてつもなく恐ろしく見えた。
俺は完全に思考停止した。まさか、こんな些細なことでバレるとは。隠し通してきた大事な秘密をクラスの陽キャ、えとに暴かれるなんて。
「ねぇ、ゆあんくん。声も。動画の声、ゆあんにそっくりだよ」
えとは俺の顔をじっと見つめている。その瞳には、好奇心と、そして少しの期待のようなものが宿っているように見えた。
「……どうして、俺だってわかって、何も言わなかったんだ?」
俺は絞り出すように尋ねた。
えとは少し困ったように笑った。
「だって、ゆあんくんが隠したがってるみたいだったから。でも、今日バスケしてるゆあんくん見て、なんか、もったいないなぁって思っちゃったんだ」
「もったいない?」
「うん。ゆあんって、本当はもっと色々なことができるのに、なんで隠してるんだろうって。それに動画、私、いつも見てるんだ。すごく面白くて、好きなんだよ」
えとの言葉に、俺の心臓は激しく脈打った。好きなんだ。その言葉が、俺の耳に甘く響いた。
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