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56短編集

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56短編集

5 - 気づいてる。

♥

26

2024年10月07日

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気づいてる?の6さん視点。






ことこと、ぐつぐつ、とんとん。

ないこあたりに聞かれたら涙流して感謝されそうな、なんとも家庭的な音が響く。いつかの同居企画の時のないこのガチな喜び方を思い出して、少し笑ってしまった。


うちのメンバーは全員舌がおこちゃまやからなぁ。おいしそうに食べてくれるから、それが一番やけど。


小一時間前に防音室に入っていったあいつの進捗は、いまごろが佳境だろうか。録音の前に、これ歌うんだ!!と無邪気な笑顔とともに聞かされた曲は、なんとなく思い描いていたあいつのイメージと驚くまでにぴったりだった。


無意識に鼻歌が出ていたことに気づいて、苦笑する。


浮かれてんなぁ。


あいつに飯作ってやることなんて、何回したかわからないくらいにはしてきているっていうのに、柄にもなく気分が高揚してしまう。

もっともこんな経験も、もう何回したかわからない。


煮込むだけの、頭のメモリが空く時間。そこで考えることがあいつのことばかりになってしまったのは、いったいいつからだっただろうか。


計算、というには大雑把な段取りがちょうど終わって、できあがったカレーが入った鍋をのぞき込むと同時に、キィ、と音がした。


思わず上がる口角をそのままに、振り返る。抱きつくのはさすがにやめておいた。こいつは気にしない…どころか大歓迎しそうやけど、さすがに俺にも羞恥というものがあるので。


そんなことを考えた次の瞬間には抱きしめられとった。あぁ、この流れも何回かやったな。


いつかのないこみたいなよろこび様が面白くて、ちょこっといじってみたら。

あにきが作ったのをあにきと食べたいの!!…なんて、特大の蛇が出てきた。


やっぱりつつくんやなかった、って思ってたら、後ろで奇声…いや、げんかいおたく兼こいびと特有の、謎の叫びがきこえてきた。なにやらおれがかわいいんだと。この押し問答も大分やってるけど、こいつのここでの頑固さは重々わかっとるから、そこそこのとこで引き下がっておく。


顔をのぞき込んで、いっしょにはこぶ?なんていうのだ、このいけめんは。一緒に、なんてさらっと言えるところがモテるんやろなぁ、こいつ。


左手に持ってたスプーンを持ち上げてみせる。…あ、気づいてない。

味見しすぎた、って口滑らせてもうたけど、そんくらいは大丈夫やろ。


心の中であーん、なんてつぶやいて、右側にスプーンを突き出す。


…あ、意外と一気にいったな。


なるほど、まろの好みはもうちょいコクある感じか。おっけ、覚えた。


腕を解いて冷蔵庫にいくついでにちらっと横目で伺うと、固まっている青髪。


いつもは味見皿使うやん?

鈍いなぁ。



そんなところも、なんて。絶対言ってやらない。






問いかける言葉に何も知らない風の言葉を返して、腕に収まってやる。と、息をのむ音が降ってきて、鼓膜を揺らす。


…ほんと、こういうことに関してはわっかりやすいやつ。

回ってきた腕を感じつつ、カレーに味噌を溶かす。味噌なくなってきたな。今度は粉状のものを買ってもいいかもしれない。


もう一回、とスプーンを突き出すと、一瞬の間のあとに耳元で抑えめの歓声が聞こえた。


「すごい…!めっちゃ美味しい!!」

「それはよかったわぁ」


お皿によそおうと目線をずらした瞬間、あにきも食べて!なんて声が聞こえたもんだから、一口いただく。


さっきあんなに味見したカレーは、味噌だけじゃない幸せの味がした。


あんまりすべてがしあわせすぎて、ふりかえってなにをしようかとか、なにも考えてなかった。


まずありがとっていって、それで、


ぱちっ、と目が合って、やっぱりこいついけめんやなぁなんて思って。






柄にもなく見惚れてたら、いつのまにか顔がゼロ距離になっていた。






半ば反射で、言葉が口からぽろぽろこぼれる。


…ほんとはいやじゃないことなんて、とっくに知られてる。


あいつの舌が自分の唇を触る錯覚を覚えて、俺は固まった。






おまけ

「あ、あにき明日予定ある?」

「…ないんとちゃうかな、きのう録るもん録ったし。いきなりどうしたん?」

「時と場合をわきまえたらしてもいいんでしょ?」

「…?!」

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