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ぶつかったって遠慮は無用だ
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山中 Side .
「……ほんとにやるの」
消灯時間を少し過ぎた頃、柔太朗は小声で言った。
「やる」
即答。
「バレたら怒られるよ」
「バレなきゃいい」
「その理論やめて」
でも結局、断りきれないまま廊下に出ていた。
旅館の夜は静かで、昼間とは別の場所みたいだ。
「ほら」
手を引かれる。
「……またそれ」
「いいじゃん、暗いし」
「そういう問題じゃない」
言いながらも、逆らいはしない。
そのまま人気のない中庭の方まで連れていかれる。
外の空気は少し冷たくて、でも気持ちいい。
「うわ、ちゃんと星見える」
「ほんとだ」
しばらく並んで空を見上げる。
昼間の騒がしさが嘘みたいに静かだった。
「来てよかったでしょ」
「……まあ」
素直に頷くと、隣で満足そうに笑う気配。
そのまま、肩に軽く頭を乗せられる。
「ちょっと」
「いいじゃん」
「外」
「誰もいない」
確かに、今はいない。
でもその距離に慣れすぎてる自分が少し悔しい。
「柔太朗」
「なに」
「今日さ」
少しだけ真面目な声。
「楽しかった?」
「……楽しかった」
間を置いて答えると、すぐに返ってくる。
「俺も」
それだけなのに、やけにあったかい。
「てかさ」
「はい」
「朝のあれ、ちょっと恥ずかしかった?」
「めちゃくちゃ恥ずかしかった」
即答。
「俺はそんなでもない」
「でしょうね」
「でも柔太朗があんな顔するなら、もう一回見てもいい」
「やめて」
肩を軽く押すと、くすっと笑われる。
「じゃあ今は?」
「今は……」
少し考えて、視線を逸らす。
「別に、恥ずかしくない」
小さく言うと、隣が一瞬静かになる。
「……それ、結構やばい」
「何が」
「可愛すぎる」
「うるさい」
言った瞬間、ぐっと引き寄せられる。
「ちょ、ほんとに――」
「静かに」
小さく囁かれて、言葉が止まる。
そのまま、額が軽く触れるくらいの距離。
「好きだよ」
夜の静けさの中で、やけに響く。
「……知ってる」
「ちゃんと返して」
「ここ外」
「誰もいないって」
数秒だけ迷って、小さく息を吐く。
「……好き」
言った瞬間、満足そうに笑う気配。
「よくできました」
「子ども扱いしないで」
「してない。普通に嬉しい」
そのまま少しだけ、くっついたまま時間が流れる。
「そろそろ戻るよ」
「もうちょい」
「ダメ」
「じゃあ最後」
そう言って、手をぎゅっと握られる。
「明日で終わりか」
「だね」
そんな2人を置いて、いつの間にか夜は明けていた。
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