テラーノベル
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マイヤさんの先導で、私たちは海底に空いた暗い穴へと入って行った。
遠くから見て感じた通り、その光の届かなさがやはり気持ち悪い。
「――暗いですね……」
エミリアさんも同じことを感じていたのか、とても共感できる言葉が聞こえてきた。
「ふたりとも、もう少し我慢してくれればすぐに着くから。
……っていうか、泡の中なら照明の魔法とか使えない?」
「あ、使っても大丈夫ですか?
……えいっ、ライト・イルミネート」
――パァッ
エミリアさんの詠唱と共に光の球が生まれ、周囲が明るく照らされた。
私たちを包む泡と海水との境目で、反射やら拡散やらが起こっていて幻想的なんだけど……ちょっと、眩しいかな。
長時間このままでいたら、目が疲れてしまいそうだ。
「……とっても綺麗だけど、すっごく目立つわね」
「はわわ……」
マイヤさんの言葉に、セミラミスさんが何故か慌て始めた。
他の誰かに見られているわけではないが、そもそも目立つようなことが苦手なのだろう。
「だ、大丈夫ですよ、セミラミスさん。
ここには他に、誰もいませんから!」
「そ、そう……です、よね……」
そう返事をしながら、セミラミスさんの心中は穏やかでは無いようだ。
これは早く海底神殿まで行かなくては……。……まぁ、帰りも同じように照明はつけるんだろうけど。
引き続き光輝く泡で移動をしていると、進んでいた縦穴が、横穴になった。
「もうすぐだからね。
ここから少し上に上がって、そうしたら空気のある場所に着くから」
「あ、空気があるんだ?」
「うん。ついでに光苔も壁に付いていたから、照明が無くても薄っすらとは見えるのよ」
「へー。光苔かー」
ふむふむ、それは便利なものだ。
魔法を使わなくて済むのであれば、使わない方が楽だもんね。エミリアさんがずっと、魔法を維持することになってしまうわけだし。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――うん、微妙な明るさだ」
空気のある場所まで着くと、確かに光苔でうっすらと明るくなっていた。
それでも寝るときにつける灯りくらいの光量だから、これを当てにするというのも心許ない。
……でも、この光苔は良いよね。
ちょっと採集していこうかな。
「アイナさん、何してるの?」
#主人公最強
杯雪乃
1,330
Tubling
715
自転車和尚
977
こはる
46
「え? 採取を少しばかり……」
「……さ、さすが錬金術師……ですね……。
日々の、好奇心が……はい」
マイヤさんのやや冷たい視線に対して、セミラミスさんは感心するような温かい視線をくれた。
でもこの採取癖、錬金術師の職業病なんだよね……。
「――っと、お待たせしました。
ここには部屋が3つあるんでしたっけ?」
「ええ。ここが1つ目の部屋、って数えていたんだけどね」
マイヤさんの言葉を聞いてから辺りを眺めると、ここはいわゆる普通の洞窟……といった感じだった。
となると、少し向こうの横穴からが、神殿っぽい場所になるのかな?
つまり、いわゆる神殿のような場所は2部屋しかない。
1部屋は目的のものがある場所として、もう1部屋には何かあるんだろう?
ゲームだと、ボスがいそうなものだけど。
「さて、それじゃ行きましょうか。
マイヤさん、この先で注意することって何かある?」
「足元に気を付けてね!」
「え? あ、うん」
「確かに、少しぬるっとしていますからねー」
ここならではの注意が聞きたかったけど、マイヤさんの口からは一般的な注意事項が飛び出してきた。
しかしエミリアさんは足で地面を|弄《もてあそ》びながら、納得するように頷いている。
……まぁ、転んで頭でも打ったら大変だもんね。
私もせいぜい、足元には気を付けていくことにしよう。
……逆に考えれば、ここだからという理由で注意することは特に無いのかな?
「やっぱり暗いですし、エミリアさんには照明の魔法を引き続き使ってもらうことにしましょう。
私とエミリアさんが先頭に立ちますので、みなさんは付いてきてください」
「わ、分かりました……」
「おっけー。
ま、前回来たときは何も無かったから大丈夫だと思うけどね。
何か敵でもいたら、全部よろしく♪」
マイヤさんは気軽に、楽しそうに言った。
これには他の人魚たちも少し苦笑いをしているが、とりあえず敵が出たら私たちが何とかしてしまおう。
ルークもいるし、広さもそれなりだから――普通に戦えそうだもんね。
……まぁ、敵がいたら、の話だけど。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――アイナさん! 言霊ってやつですよ!」
「そ、そうですね……」
神殿の2部屋目に入ると、タコがいた。
それはそれは大きなタコ。
どこからどう見てもタコなんだけど、3部屋目の出入り口をちょうど塞いでしまっているようだった。
「この前はあんなタコ、いなかったんだけどね」
「そもそもこの部屋、何かあったの?」
「何も?」
……本当は何も無かった部屋。
今回はご丁寧に、タコと遭遇するイベントが作られていたようだ。
「まぁ……相手がタコって言っても、たこ焼きを作るわけにもいかないしね……」
私には、そんな冗談を言うくらいが精一杯だった。
しかし――
「たこ焼きって何ですか? 丸焼きにする感じです?」
――思わず食い付いてきたのは、エミリアさんだった。
そういえばこの世界、たこ焼きは無かったっけ……。
「えぇっと、タコの切り身を生地に入れて、丸い形に焼くんです。
焼き方でいろいろな食感が楽しめて、それに美味しいんですよ」
「へぇ~。今度是非、作ってください!」
「そうですね、せっかく海の近くに住んでいますしね。
……ところでこの辺りって、タコは獲れましたっけ?」
「はい、売ってるのは見たことがあります!
それじゃ今日か明日にでもお願いしますね!」
「えぇ……。ちょっと用意するものがあるんですよ。
丸く焼くために、そういう鉄板がいるんです」
「アドルフさんにお願いしましょう!!」
「……つ、作ってくれるかなぁ……」
経験豊富で魔法武器にも精通する、神器の素体をも作った凄腕の鍛冶師。
そんな人に、たこ焼きの鉄板を作ってもらうだなんて……何だか申し訳ない気がしてくる。
……でもまぁものは試しだ。ひとまずここから戻ったら、相談してみることにしよう。
「――アイナさん? 話は終わった?」
ふと、マイヤさんが訊ねてきた。
「うん。戻ったらアドルフさんに、鉄板を作ってもらえるか聞いてみるね」
「そ、そうね……?
でも、今はこのタコをどうにかしないと……」
「――あ」
そうだそうだ、たこ焼きの話をしている場合じゃなかった。
目の前のタコ、特に魔物というわけでもなくて、本当に大きいだけのただのタコなんだよね。
でも私たちの行く道を塞いでいるのだから、ここは倒していかないといけない。
「それじゃルーク、ぱぱっとよろしく!」
「かしこまりました。
倒し終わったら、食材として持ち帰りますか?」
「え……、いや、さすがにそれは――」
「そうですよ! アイナさんだって、そんなお茶目は言いませんよっ」
「ははは、失礼しました。それでは普通に倒してしまいますね」
――大味そうじゃない?
……正直な感想を言うタイミングは逃したけど、これは言わないで良かった……。
コメント
1件
お疲れ様です、成瀬りんさん。476話、海底神殿探索の続き、わくわくしながら読ませていただきました! 暗い海の穴から入って、照明魔法で照らされる泡の中の幻想的な雰囲気、すごく綺麗に想像できました。そして「たこ焼き」の話題に華麗に脱線するところ、ほっこりしました(笑)。エミリアさんの食いつきの良さと、アドルフさんに丸い鉄板をお願いしようとする流れ、めちゃくちゃこのパーティーらしいです。目の前に巨大タコがいても、日常が滲み出る空気感が好きです。ルークの「食材として持ち帰りますか?」には思わず笑ってしまいました。 探索とギャグのバランスが絶妙で、楽しく読めました。続きが楽しみです!