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「悠人さん、急に呼び出してすみません。お忙しいってわかってたんですけど……」
「いや……」
俺は父との仕事が終わってすぐに、シャルムに戻った。
梨花ちゃんに呼び出されたからだ。
こんなことは初めてだった。きっと、仕事のことで他のスタッフには言えない何か大事な用事があるんだと思った。
「仕事で何かトラブルがあった?」
「あ、いえ。あの、私……」
彼女は、それから少し間をあけて続けた。
「実は、悠人さんにお聞きしたいことがあって……」
「それはどんなこと?」
「はい。私、月城美容専門学校のことで、悠人さんのアシスタントを外されましたよね。あの時、正直、すごく悲しくなりました。あれから、いろいろ考えてもその理由がわからなくて。私……どうして外されたんでしょうか?」
「聞きたいことって、もしかしてそのこと?」
「はい……それがひとつです。あとは……私、ずっと前から悠人さんのことが……」
そう言って、梨花ちゃんは急に俺にしがみついた。
「悠人さんが好きです! 私と付き合ってもらえませんか?」
その告白に、俺は正直驚いた。
でも、すぐに、俺の体から梨花ちゃんの腕をゆっくりと離した。
「申し訳ないけど、俺は君と付き合うことはできない」
「どうしてですか? 私のこと嫌いですか?」
梨花ちゃんが、俺を真っ直ぐ見上げている。
「俺には心に決めた人がいるんだ。だから、君の気持ちに答えることは……できない」
梨花ちゃんはその言葉に目を見開いて、そして言った。
「一体誰なんですか? 悠人さんの好きな人って。まさか……穂乃果ちゃんじゃないですよね? 穂乃果ちゃんが好きだから、あの子にアシスタントをさせたとかじゃないですよね?」
「……」
俺は、黙ってしまった。
「いとこって言ってませんでした? 穂乃果ちゃんは、悠人さんの親戚だからシャルムに入れて同じマンションに住んでるって……」
「あれは……」
もう……黙ってることはできない。
これ以上、みんなを騙すことはしたくない。いや、何よりも穂乃果のことをちゃんと考えないとダメだと思った。ずっと彼女に嫌われたくないと思って、穂乃果が自分から離れてしまうことに恐怖すら感じていた。俺は、もう彼女をそこまで深く愛してしまっていたんだ。
そんな不安な気持ちにフタをして、忙しさを理由に、俺は……穂乃果の気持ちを確かめることから逃げていた。どこまでも情けない男だ。
でも、キチンと前に進むべき時が来たんだと思う。いつまでも逃げてる場合じゃない。
「俺は、穂乃果を愛してる」
その言葉に、梨花ちゃんはさらに驚いた顔をした。