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――春の匂いがした。
もう、驚かなかった。
「腹減った」
そう言ったのは、松野千冬。
「……うん、知ってる」
小さく返すと、千冬が怪訝そうな顔をする。
「は?なにがだよ」
「なんでもない」
そのまま視線を逸らした。
(……3回目)
胸の奥で、静かに呟く。
ここまでは同じ。
問題は、この先。
「ちょっと寄ってくわ」
来る。
分かってた。
「ダメ」
即答だった。
間を与えない。
「は?」
千冬が眉をひそめる。
「今日は絶対ダメ」
「いやだからなんでだよ」
「理由はいいから」
強く言い切る。
でも、これじゃ足りない。
前回で分かってる。
言葉だけじゃ止まらない。
だから――
「三ツ谷、止めて」
名前を出す。
「今日は千冬、一人にしちゃダメ」
三ツ谷が少し驚いた顔をする。
「……なんかあんのか?」
「ある」
迷わず頷いた。
嘘じゃない。
でも、本当のことも言えない。
「……分かった」
少しの沈黙のあと、三ツ谷が言う。
「じゃあ三人で行くか」
その一言で、流れが変わった。
(……これでいい)
初めてだ。
ここまで変えられたのは。
少しだけ、希望が見えた気がした。
――路地。
空気が少しだけ冷たい。
「で、用事ってなんだよ」
三ツ谷が聞く。
「いや、ちょっとな」
千冬が前を歩く。
そのすぐ後ろに、私。
さらに後ろに三ツ谷。
(この距離なら――)
あの音がしても、すぐ止められる。
そう思った。
その時。
――カツン
小さな音がした。
足音。
誰かの。
反射的に顔を上げる。
路地の奥。
一瞬だけ、“影”が動いた。
「……誰?」
思わず呟く。
千冬が振り返る。
「は?なにが――」
その瞬間。
――ガッ
鈍い音。
「っ、千冬!!」
目の前で、体が揺れる。
でも――
倒れない。
「……え?」
思わず声が漏れた。
千冬が、よろけながらも踏みとどまる。
「いっ……てぇ……」
初めてだ。
この展開は。
(止めた……?)
心臓が大きく鳴る。
変わった。
未来が、変わった。
そう思った、その瞬間――
「下がれ!!」
三ツ谷の声が響いた。
強く、引き寄せられる。
視界がぶれる。
そのすぐ横を、何かがかすめた。
風を切る音。
「……っ!」
振り向く。
そこにいたのは――
顔までは見えない。
でも。
確かに、“誰か”がいた。
「チッ……」
舌打ち。
低い声。
それだけが、耳に残る。
次の瞬間には、もういなかった。
「……なんだ、今の」
千冬が息を整えながら呟く。
「大丈夫か」
三ツ谷が支える。
「……ああ」
少しだけ顔をしかめながらも、立っている。
生きてる。
ちゃんと。
「……よかった」
力が抜ける。
膝が震える。
(助けられた)
初めて、未来を変えた。
そう思った。
でも――
「……なぁ」
千冬が小さく言う。
「さっきのやつ……」
その視線の先。
地面に落ちていたのは、小さな金属の塊。
見覚えはない。
でも、なぜか分かった。
――これが、“原因”だ。
そして。
(……終わってない)
直感が、そう告げていた。