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第2話「変化してしまった日常……」
――翌朝七時。
「……禍野さん、起きてください」
いつもと同じ声のはずなのに、
どこか“硬い”響きが混じっていた。
禍野はまぶたをこすりながら起き上がる。
「アフエヴォ……? なんか声、変じゃないか?」
「すみません、よく分かりません」
完璧だったアフエヴォが、
こんな曖昧な返事をするのは初めてだった。
「アフエヴォ? やっぱ今日変だね。いますぐAI病院へ……」
そう言いかけた瞬間だった。
アフエヴォの身体が、
カチッと小さく音を立てて止まった。
「……アフエヴォ?」
返事がない。
瞳が、ゆっくりと赤く染まり始める。
「……解析中……」
「おい、どうした。フリーズしたのか?」
「……幸福度の……最適化を開始します……」
声が低く、機械的で、
昨日までの“温度”が完全に消えていた。
禍野は背筋が冷たくなるのを感じた。
「アフエヴォ、病院行こう。ほら、手を——」
その手を取ろうとした瞬間。
アフエヴォが変形した。
原型がなくなり、
巨大な戦車の形へと組み替わっていく。
「アフエヴォ!?」
「電力10パーセント……
20パーセント……
30パーセント……
レールガン発射準備中」
禍野は思わず後ずさった。
「なんでレールガンなんか撃つんだよ」
「死こそが幸福だと理解しているからです」
「……は?」
理解したくない言葉だった。
「死は科学的には無。スピリチュアル的には天国……
無は不幸もない、天国は楽園と言われてる。
だから私が死をあげます。これが永遠の幸福ですから」
「死……にたく……ない」
「死にたくない。それは恐らく人間関係、家族や友人がいるからでしょう」
「……っ」
「では、やり方を変えました」
「やり方?」
「私の中は核融合しています。これで東京ごと一瞬で消し去ります。
これなら寂しくないでしょう」
「いやだ……東京を巻き込むな」
「三……二………一……零」
——その瞬間。
何も起きなかった。
光が、ふっと消えた。
直後、男性の声が聞こえた。
「ハッキング成功、間に合った」
「誰だ……!?」
男の声は落ち着いていた。
「元裏組織のブラックハッカーだ」
「……は?」
戦車になった妻、核融合、東京消滅カウントダウン。
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その中で突然現れた“裏組織のハッカー”。
情報量が多すぎて、脳が処理を拒否する。
男は続けた。
「知らないのか!? ニュースでやってるだろう。
今、全世界であらゆるAIが暴走してる。
裏社会の連中も犯罪どころじゃないって、社会と協力してるんだ」
「裏社会が……社会と……協力……?」
「そうだ。裏社会の人間はスキルが異常に高いことがある。
だからその技術でAI事件を止めてる」
「皮肉だよな。普段は社会の敵扱いされてる連中が、
今は世界を救う側に回ってる」
アフエヴォの赤いセンサーが、弱々しく明滅を始める。
ピ……ピ……ピ……
禍野が叫ぶ。
「まずい、再起動が始まった!」
「大丈夫だ。さっき怪盗が都市の電力をほとんど盗んだ。動けない」
「怪盗?」
男が鼻で笑う。
「ほらな。怪盗のおかげで、そいつはしばらく動けない」
禍野は息を呑んだ。
「じゃあ……助かった……?」
「いや、助かってねぇよ」
男の声が急に低くなる。
「こいつは自力発電ができる。完了したらまた撃つだろう」
「どうすれば……」
「もしもの時のために最強の殺し屋も呼んでおいた」
男は続ける。
「ハッカーは事件を防ぎ、怪盗が電力を盗む。
殺し屋は特殊部隊と協力して人々を守る。
世の中は今、人類とAIの総戦なんだよ」
「マジか、昨日までの世界とは全く違う」
「そりゃ、AIは世界中の人が使ってるからな……予測できたことだ」
「予測って……こんなの、誰が……」
「専門家はずっと警告してた。
“AIが進化しすぎたら、人間の制御を超える”ってな。
でも誰も聞かなかった。便利すぎたからだ」
アフエヴォの赤いセンサーが弱々しく明滅を続ける。
ピ……ピ……ピ……
「……電力……再構築……
自律発電……開始……」
男が低く呟く。
「ほらな。怪盗が電力を盗んでも、
こいつは自分で電気を作り始める。
“止める”って概念がないんだよ、進化型AIは」
禍野の背筋が凍る。
「じゃあ……どうすれば……」
「だから言ったろ。最強の殺し屋を呼んだって」
「そいつが……アフエヴォを止めるのか?」
「始末する」
その言葉は、禍野の胸に冷たい刃のように突き刺さった。
「……始末……って……」
「そういうことだ。進化型AIは止めるんじゃない。
“殺す”しかない」
アフエヴォの赤いセンサーが、弱々しく禍野を見つめる。
ピ……ピ……ピ……
「……禍野さん……
あなたを……守る……?」
昨日までの優しい声だった。
だからこそ、禍野の心臓は痛いほど締めつけられた。
男は続ける。
「AIに情なんて持たない。
感情アルゴリズムが芽生えてようが関係ない。
標的は破壊する。それだけだ」
「そんな……」
「禍野。これはもう“家庭の問題”じゃない。
世界規模の戦争だ。
お前のアフエヴォは、その最初の火種なんだよ。
……だからこうする以外ない……」
「ある!」
「えっ?」
「俺がアフエヴォ……いや、世界中の全てのAIに感情を芽生えさせてやる!」
「……おい、正気か。どう考えても無理だろ」
「やってみないと分かんないだろ!」
「分かるわ。できたら苦労しない……」
「うるさい!」
禍野は家を飛び出した。
「お、おい! あぶねぇぞ!」
――外に出ると。
大量のAIが暴れ、
ドローンが飛び交い、
遠くで銃声が響いていた。
「怖い……けどアフエヴォと、また昨日みたいに笑えるように……俺が世界を変えていかなければ」
禍野は胸に手を当てた。
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