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雨脚は強まり、アスファルトに水しぶきが跳ねた。
悠真は無言で傘を少し傾け、咲の肩が濡れないように気を配る。
「……あの、悠真さんこそ濡れてます」
見上げてそう言うと、彼は軽く笑った。
「俺は平気。妹ちゃんが風邪ひいたら亮に怒られるからな」
冗談めかした言葉に、胸の奥がふっと温かくなる。
近すぎる距離に落ち着かなくて、咲は指先で制服の裾をいじった。
「……ありがとうございます」
小さな声は雨音に溶けてしまいそうで、けれど悠真は確かに聞いてくれたように頷いた。
ふたりの影がひとつの傘に収まって揺れる。
心臓の音まで響きそうな帰り道だった。