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ピアーニャはとりあえず、『雲塊シルキークレイ』を籠に変形させ、ドルティパスを捕えた。


「まさかの生け捕り」

「美味しいのよ?」

「いやチョウサのためだからな? これリージョンシーカーでもらっていいか?」


ドルティパスは慌てて籠を削ろうとしてクチバシを回すが、変形させるだけですぐに元通りになってしまう。金属の様に硬いが、そもそも形の無い雲なので、基本的に破壊は不可能なのだ。

籠から出られない様子を見ていたクォンが、質問に答える。


「もも肉が美味しいよ」

「そっちはどーでもいいわ!」


特に珍しくもない害獣という事で、転移の塔の一角で飼ってみる事になった。

そんなやり取りを、クチバシから解放されたジェクトが茫然と見ている。


「なぁ、俺結構苦労して止めてたと思うんだが」

「あ、おつかれさまでーす先輩っ。あの人は最強幼女なんで気にしないでください」

「なんじゃそりゃ」


ドルティパスはクォン達サイロバクラム人にとって油断ならない駆除対象である。そのクチバシは石をも貫き、群れが見つかったら厳戒体制になる程。

しばらくドルティパスを眺めていたパフィが、先程から思っていた事をピアーニャに聞いた。


「そういえば、この鳥は四角じゃないのよ? というか、クォン達も四角じゃないのよ」

「あぁ、きづいたか。どうやらヒトをふくめたドウブツは、フツウ……っていっていいのか? まぁシカクではないらしい」

「植物は四角なんですよねぇ」

「うむ。あとイキモノいがいはすべてシカクだな」


この100日程で、リージョンシーカーはある程度の事は把握済みだった。言葉の通じる相手がいるなら、友好的な関係になって直接聞けば良い。そうすれば新たなリージョンであっても、必要な情報は手に入るようになるのだ。


「流石なのよ」

「こんかいは、クォンのチュウカイがあったからな。スムーズにハナシがすすんだ」

「いやーそれほどでもー」

「えらいね、クォン」

「はい♡」


ムームーに褒められ、クォンはデレデレである。

その様子を、ジェクトは複雑な気持ちで見ている。


「そのせいで、新人だったお前はいきなりクビになったけどな」

「クビじゃありませんー。出張先で同棲してるだけですー」

「羨ましいなオイ! しかもそんな美女と! 俺によこせ!」

「べー」


クォンはファナリアにあるムームーの家に厄介になっている。

就いたばかりの仕事中にネマーチェオンに落ちて行方不明になったクォンは、帰って来るなり職場で上司に説明を求められた。同行していたロンデルやムームーの協力もあって、なんとか異世界の存在を信じて貰えたところで、新たな任務を与えられたのだ。


「今のクォンは、このサイロバクラムと他のリージョンを繋ぐ架け橋なんですよっ。先輩より偉いんです! えっへん!」

「チクショー! 本当にそうなってるから言い返せねぇ!」

「なので、結婚するのもクォンの方が先になるのです!」

「それは関係無いと思うなぁ」


隣りにいるムームーは苦笑い。

先輩に対して一通りマウントを取り終えて満足したクォンは、今ある疑問を解消する事にした。


「ところでジェクト先輩は、どうしてここにいるんですか?」

「ん? ああ、建築現場を見に来てみたら、いきなりドルティパスそいつに襲われてな。ようするに事故だな事故」


目の前にある建築途中の転移の塔。ここには他に何も無く、先程作った椅子とテーブルで、シーカーと大工達が早速のんびり休憩を始めている。と思ったら、大工達がミューゼに祈りを捧げ始めた。


「……なんかの宗教の教祖なのか?」

「違いますっ!」

「まぁミューゼは女神様だからね」

「違うからっ! ねぇ早く行こう! コロニーってトコ行くんでしょ!?」


大工達から崇められているミューゼは恥ずかしがりながら、クォンとパフィの背中を押して急かした。


「あ、うん。それはいいんだけど、方向逆だから」

「………………」

「ひゃうっ!? みゅーぜ!?」


ミューゼは無言になって、アリエッタを抱き上げ、お腹に顔を埋めてしまった。アリエッタはちょっと苦しいが、ミューゼに対して一切の抵抗はしない。恥ずかしそうにミューゼの頭を抱え、ナデナデする事にした。

それを見て、なんとなく気まずくなった一行は、最低限の会話をしながら、塔の場所を離れていった。




「着いたよー!」

「へぇ。ピカピカしてるのよ」

「お、おおお……」(凄いとこキター!)


やってきたのは人の住む地域。上空には大きな四角の物体がところどころに浮かんでおり、エーテルラインが輝いている。地上には建物が多数。その全てが四角。とにかく四角。大きな建物もあるが、外見は四角の上に四角が重なっているビルディングとなっている。


(豆腐だ、豆腐建築だ。この世界には実在しているのか!)

「なんでアリエッタは興奮しているのよ?」

「さぁ?」


建物の外観にはあまりエーテルラインは見えない。しかしクォンによると、四角の管が地面の中や空中に張り巡らされており、その中にエーテルラインが仕込まれているとの事。夜も光ってて眩しいから、ブロックの中に隠すという対策が成されたのだった。


「ここがクォンの実家のあるコロニー『トランザ・クトゥン』でーす。ようこそっ」


クォンが楽しそうに紹介したトランザ・クトゥン。サイロバクラムでも大きい部類で、交易の中心となっているコロニーである。

一行はクォンとムームーによるコロニーの説明を聞きながら、クォンの本来の職場へと向かっていった。


「クォンの仕事って何なの?」

「『SGソルジャーギア』っていう組織よ。クォンはその中で『JKジャッジナイト』として活躍……する予定だったんだけどね」

「わたし達と出会って仕事が変わっちゃったんだよね」


ソルジャーギアは治安維持を目的とした組織である。その新人だったクォンは、行方不明になった後に恋人を連れて帰ってきてしまい、リージョンの橋渡しという任務を上司のさらに上から言い渡された。警備とか言っていられない立場になってしまったのだ。

しかし若い事もあって、いきなり政治的な所で働く事は出来ないし、その上層部はここから離れたコロニーにある。その為、一旦ソルジャーギアに窓口を置き、クォンと他数名を使ってファナリアとの交流から開始する事にしたのだ。


「今のクォンの部署は『ISイデアルシード』。ファナリアとか他のリージョンの事とか、どれくらい仲良くなれたとか報告したり、このサイロバクラムに来たお客様を案内する仕事よ」

「SGにはいくつも部署があってな。犯罪者を追跡調査する『JCジェットチェイサー』、民間同士のトラブルを解決する『JKジャッジナイト』、コロニー外からの危険を排除する『DKデンジャーキラー』、マシンやパーツの取り付けや整備をする『DDデバイスディーコン』といった部署がいくつもあるんだ。おっと着いたな、まぁゆっくり見学していってくれ」


ここまでクォンの補足をしていたジェクトとは、SGの建物の前に着いた所で別れた。彼は現在仕事中なのだ。


「ちなみにジェクト先輩の所属はDKで、たぶんさっきは周囲の警戒してたんじゃないかなぁ」

「なるほどな」


ピアーニャは、初めてサイロバクラムに来てソルジャーギアという組織を知ってから、ずっと考えている事があった。

リージョンシーカーには、受付や事務を担当する者と、探索やトラブル対策に向かう者の2種類の枠組みしか存在していない。全員が色々な仕事を出来ると言えば聞こえは良いが、要するに雑多なのだ。

もう少し個人の担当範囲を減らして、得意分野ごとに人員を配置すれば、効率があがるのでは?という疑問を元に、計画を練っていたのだ。


「おーいピアーニャ~」

「ん? ああすまん。では、いくか」


気を取り直して、クォンの案内でソルジャーギアの建物の中へと入っていった。中はエーテルラインを照明にした、広くて荘厳な雰囲気を醸し出していた。

雰囲気に飲まれた一同は、入口で少しの間固まるのだった。




「そうですか……急いだ方がよさそうですね」

「うむ。遅くなる程、我々は不利になるじゃろうな」


エーテルの光がうっすらと輝く部屋の中。思いつめた様子の者達が、真剣に話し合っていた。


「まったく忌々しい奴らね。アタシらにもアタシらの生き方ってものがあるってのに」

「これが上層部の決定だというのだから、嘆かわしいものだ」


全員の声に、怒りや焦りといった感情が混ざっている。落ち着かない様子で机を指でトントン叩いたり、部屋の中をウロウロする者もいる。


「まだ準備は出来んのか!?」

「50日余りでは流石に無理だ!」

「これ以上待てば、奴らの方が盤石になってしまう」

「……いや、やれる。やるしかない」

「しかし!」

「今の段階では確かに危険だ。だが実行は出来る。不足しているのは、アクシデントの対応手段と、失敗した時のリカバリーだ」


男の現状報告に、全員が考え込んだ。

行動は可能だが、失敗しても一切の後戻りが出来ない大博打。一刻の猶予もないと言う彼らには、選択肢は多くなかった。


「決行は明日よ」

『!』


代表格と思われる女の言葉に、一同はハッと顔を上げた。そして揃って重々しく頷いた。そして、最後の心の準備をするべく、代表格1人を除いて部屋を出ていった。


「……絶対に許さない。せめて貴女だけでも討ってみせる。クォン・パイラ!」

からふるシーカーズ

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