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「竜崎」
彼が、夜神月が。竜崎という私の偽名を呼ぶ。かも平然に、いや自然体で。過去に私が聞いた夜神月の声とうってかわって、その言葉には私を呼ぶという目的以外には、何の感情も込められていない。それが、私が夜神月を疑う理由の他にならなかった。私の心を動かしたのは、他ならない彼だと。夜神月だと言うのに、彼は私に関する感情がすっぽり欠け落ちたようだった。
「おい、竜崎!」
「どうしましたか?月くん。」
二回目。夜神月に名前を呼ばれる。椅子をくるくると回し夜神月の方へと向くと、親指を咥えた。――私は夜神月に対してこんなにも渇愛を持って接しているのに、以前の彼は、確かに私と同等……もはやそれ以上の渇愛を返していてくれたのに。今の彼の私に対する態度は、ただの敬愛に過ぎず。だが、そんな態度をされても、私の夜神月。否、キラに対する渇愛は増すばかりだった。
「新しい情報が見つかったんだ。竜崎も見てくれよ。」
……彼は優秀だ。とても――否、超がつくほどに。私と比べても同等……もしかしたら、私より上かもしれない。だって、私は彼の仕組んだ落とし穴に、まんまと嵌っている最中なのだろうから。
本当にそんな落とし穴があるのか。……いや、ある筈だ。だって、キラが夜神月。彼なのだから。私はその落とし穴にハマり、底なしの湾か穴へと墜落していってる最中。そうだろう、夜神月。
「……そうですね。月くんのお陰で、キラに着実に近づいています。ありがとうございます。」
「竜崎――。今更どうしたんだよ。」
夜神月は頭を掻き、誰が見ても恥ずかしいと感じているのが分かる。彼はそんな己自身を恥じていない。以前の彼ならば、絶対に気にする筈のソレを。恐らく、私は――夜神月でなく、キラに惹かれている。
だが、それとは打って変わって。夜神月という彼自身にも惹かれている。
彼は、とんでもない殺人鬼だ。そんな彼は、本来の意味でも。また、彼は無意識に私に好かれようとしている。それが、防衛本能からか、捜査を撹乱するためか。以前ならばそれもあったかもしれないが、今は確かに言える。彼は、私に対する特攻兵器――キラーだと。
「月くん。」
「なんだ?」
「私、月くんの事が好きかもしれません。」
「……はぁ!?何、ふざけたこと言って――」
照れ隠しとでも言うように、声を張上げて驚く夜神月。彼の優位に立つというのは、彼がキラであろうとなかろうと。ひたすら純粋で傲慢で優秀な彼を、組み付したい。倒したい。打ち砕きたい。彼の心根にある信念を、決意を、全て。
「ふざけてません。本気も本気です。」
「……なら、お前は僕に好かれる努力をしろよ。」
「好かれる努力……ですか。」
「そうだ。好かれる努力だ。」
「具体的には、何を?」
「それも考えるんだよ。世界の切り札、Lなら分かるだろ?竜崎。」
少し楽しそうにそういう彼は、キラでなくても負けず嫌いなのだろう。私と、とても同じだ。纏う空気が、性格が、見た目、仕草。外見ではまるで真反対の私と、彼が。
「……難しいですね、好きになるというのは。」
「でも竜崎、僕に惹かれてるんだろう?」
それは夜神月であって夜神月ではない。だと言うのに、そう述べた彼の目と、キラの目が似ている。同一人物であるから似ているはずの夜神月の目と、キラの目は似ていない。なのに、似ていないはずのキラの目と、夜神月の目が。彼は面白い。面白いと言うのに――。
「それもそうです。」
「……はぁ、竜崎の思考が本当に読めないよ。」
「それでいいんです。私は隠していますから。」
「いつか、お前の考えが分かるようになるといいな。」
それは、どこまでも純粋な明るい声をしている。……私の中で、改めて再確認ができた。こんな仲良しこよしをしている暇は私にはない。それは彼も、キラも同じだろう。儚く終わるこの時間に一言言おう。夜神月。お前とごっこ遊びをするのは気持ちが悪い。――キラ。それはお前も同じだろう?