「夏恋は僕が、必ず守るからね」
「やめ、て」
第1章 終わり始まり
第2章 明かり に照らされ
第3章 暗闇に覆われ
第4章 私の心情
第5章 また来世で
第1章 終わり始まり
真夏日の事だった。
彼女と予定が合わなくて一人でベランダから花火を見てた。
小さく見える花火でも迫力は満点で
下にある街の光は、花火のクライマックスには邪魔な光だった。
花火を見始めてしばらく経った頃
そろそろ暑さに耐えられなくなって部屋に戻ろうという時
彼女からの着信音が。
「もしもし」
「急にごめんね!」
「んーん。どうしたの」
「んー。」
「声、聞きたいなって。」
「え、なんか珍しいね」
「いーじゃん別に!!」
「花火綺麗だねー。」
「だねー」
「ねえ夏恋」
「ん?」
「やっぱなんでもない。」
「変なのー笑」
だって君は
なんで声が震えてるの?なんて
聞かれたくなかったでしょ?
「さ」
「く」
「なーに」
「す」
「だよ」
花火の音と電波の渋滞で上手く聞き取れなかったけど、伝わってきた
でもそれをわざと聞こえなかったフリをして
「ごめん。なんて?」
「好きだよ!」
「笑」
「僕も好きだよ」
その後の嬉しそうな声が
堪らなく愛おしかった。
「次の花火は一緒に見れるといいね」
「いいねじゃなくて見るんだよ」
「そっかー笑」
「ありがとね」
「朔」
「一生愛してる」
嫌な予感。
考えるより先に僕は靴を履いていた
もうスマホは
1Hzも表さなかった。
夏恋に白い翼が生えて1週間が経った。
僕は今でも捨てられた抜け殻のように過ごしていた
僕の半分は夏恋で出来ている様なものだった。
半分がナくなった今、生きる事が困難になってしまった。
こんな事ならいっそ。
夏恋に会いたい
そう思い、僕はフェンスに足を掛けた
来世はこんな思いをしなくて済みますようにと心から願い
息を引き取った。
蝶が、飛んでる
髪が風に靡く
これは?
「_の!」
「あの!」
「夏、恋?」
「え、何で私の名前知ってるんですか、」
「え、いや何でって、え、」
1年前だ
1年前に戻ってる。
夏恋の身なりからして、恐らく今日は出会った初日
綺麗にネクタイを結んだ一切のシワもなく折られた事の無いようなスカートを履いた
初々しい新高校生
疑問は3つ
・何故生きているのか
・どうやって戻ってきたのか
・何の為に戻ってきたのか
1つずつ整理していくと
・不明
・不明
・夏恋を救う為
どれだけ考えても明確になるのは1つだけだった
それでも尚理解出来ないながらに考えた結果
とりあえず知り合いから始めてみるか。
「初めまして。夏恋」
「いやだから何で名前、っ」
「驚かせてごめんね」
「実はクラス同じでさ。君が前の席だったから」
恐らく今日は4月11日
僕達の入学式
「あ、そういう、」
「ごめんなさい、! 」
「大丈夫笑」
「そんなことより、ここで何してたの?」
「んー。夕日でも見ようかな、みたいな」
「そっか」
夕焼け色に染まった君の目に映った僕は
再び君に会えた喜びを覚えた表情をしたのとは裏腹に
なんだか君の瞳は
湖の様だった。
「ね、明日学校で話しかけていい?」
「待ってるね。」
この時僕は
次こそは君を落とさないと誓った
「おはよう。夏恋」
「おはよう! 」
「あ、名前、」
「ああ、そうだった」
「音瀬 朔です」
「朔」
「よろしくね!笑」
「うん」
つい最近
って言っても1年後までその呼び方だったのに
変な感じだ
日本語も変になっちゃうな。
「夏恋。友達が呼んでるよ」
「ほんとだ、後でね! 」
「ん」
こんなに元気なのに
なんであの時僕の前からいなくなっちゃったの?
第2章 明かりに照らされ
1年前にもどって3ヶ月が経った
この3ヶ月間
夏恋と何か進展があった訳でもなかった
そろそろ真剣に動き出さなくちゃいけないな。
「夏恋、ここ分かる?」
「ここはねー」
3限目は自習だった
窓から夏風邪の匂いがした時
不意に夏恋の方に視線を向けると
長い髪を垂らして俯いていた
「朔!」
「さっきのとこ分かった?」
「んー何となく」
「説明下手だったかな」
「あ、放課後予定ある?」
「ううん?」
「じゃあ放課後教室で教えてよ」
「分かった!」
夏恋は基本放課後1人でそそくさと帰っていく主義だった
友達がいない訳でもないのに遊ぶ予定を立てる素振りもしなかったから
高校生は放課後みんなと遊びたがるものなんじゃないかと疑問に思っていた反面
僕にとっては好都合だった
「ごめんお手洗行ってた!」
「ん、大丈夫」
「で?どこだっけ」
「んーとねー」
僕はいつものように席に座って
夏恋は椅子に逆に跨いで向き合った
上品に見えて意外と大雑把な所とか
本当に大好きだったな
淡々と式を言っていく夏恋に置いてかれながら
夏恋のまつ毛を見つめた
真っ黒で艶があって
まるで本当に天使の輪があるかのように見える髪に思わず見惚れてしまった
「ね?分かった?」
「っわ、ごめん。全然聞いてなかった」
「え!?結構長い説明してたんだけど!! 」
「ほんとごめん笑」
「もー!!」
怒るように笑う君を見て
未来があることを忘れてしまいそうだった。
今日はやけに夕焼けが綺麗で
夏恋を中心として照らしいている様に見えて
「…綺麗だな。」
心の中で思っていたはずのがいつの間にか声になってしまった
「え?何が?」
「あ、いや」
「夕焼けってさ」
「何色だと思う?」
『えー?』と言いながら窓の方を振り向こうとする夏恋を見て
慌てて条件を付け足した
「あ、見ずにね 」
「んー、オレンジ色?」
「まあ、普通はそうだよな」
「違うの?」
「じゃあ答え合わせ」
と言いながら夏恋の右頬に手をやって
窓側を向かせようとして
夏恋に触れた瞬間
夏恋が目を見開いて
驚いたように、照れたように
僕を一瞬だけ見つめた
気がした。
「はい、何色?」
「!!」
「わぁっ…!」
また目を見開いて
瞳孔が大きくなった瞳には
まだ残っている蒼色
空の端にあるように光った橙色
雲を包むようについた淡い茜色
言葉で表せられないようなその他のグラデーションなどが空いっぱいに広がっていた
「綺麗…!!」
「本当だよな。」
「空ってさ」
「手を届かせてみたいな、って思わない?」
「え?どーゆー事?」
「ん?ああいや、別に意味は無いんだけどさ」
「ふうん?」
まあいいや。と言いたげな顔をして
君は課題に手を付けた。
「っふー」
「 結構やったねー 」
「だなー」
「そろそろ帰るか」
「だね!」
「電車通?」
「うん!」
「じゃあ一緒帰ろっか」
また、君は一瞬だけ驚くような顔をして
「うんっ!!」
元気よく答えた。
夕焼けに包まれながら線路沿いを2人で歩く
何度も、数え切れないほど2人で歩いてきた道
それなのに雰囲気だけで懐かしく感じてしまう
「アイス食べたいな」
「うわ!今同じこと思ってた!!」
「まじ?テレパシー笑」
「買い行くか」
「行こう!!」
駅の下のコンビニでパピコを買って2人で分ける
僕は何度も経験したことかもしれないけど
この時は初めての夏恋が嬉しそうにしているのを見ると
僕も初心に返った気持ちになった
『まもなく○○駅ー』
「降りるのここ?」
「うん」
「一緒だ!行こ!」
「明日から夏休みだねー」
「だねー」
「なんか予定あるの?」
「ぜーんぜん。何にも決まってない」
「僕も笑」
鼻歌を歌いながらスキップする君を見ていると
その横の塀に貼ってあるポスターに目が行った
「あ、夏祭り」
「ん?ああ」
「今年もやるんだねー」
夏祭り
みんなにとっては1年のイベントとして楽しむものなんだろうけど
僕にとっては人生最高で最悪の記憶だった
「誰と行こうかなー」
「…行く人、決まってないの?」
「みんなもう結構埋まっちゃってて」
「じゃあ俺と行こう」
勝手に口が開いて言ってしまった
急になんだと思われても仕方ない
と思っていたら
「いいよ」
「行こう。私と」
「え?」
「いいの?」
「?うん」
予想外の答えに驚きを見せるとその顔を見て夏恋も驚いていた
「何で朔が驚いてんの笑」
「浴衣、着ていこうかな」
前世では見られなかった
夏恋の浴衣姿
そんなの気にならないわけがない
「来てきて。見たい」
「夏恋の浴衣」
「っ!」
「わかった、笑」
本当に
照れた顔も愛おしい
「じゃあ、次会うのは夏祭りかな」
「だね笑」
「楽しみにしてる」
「私も!」
「じゃー」
「またねー!」
そして
夏祭り当日
夏恋が浴衣を着てくるというのを聞いて僕は何を着たらいいのか分からなかったけど
僕も無難にグレーの浴衣を着てみた
屋台に灯りが付いていくのを見届けながら
夏恋にDMを送った
『今どこら辺?』
『駅前にいる!』
『もうすぐで着くよ!ごめんね!!』
『大丈夫。ゆっくりでいいよ』
赤いハートで終わった会話の画面をつけたまま
横を通り過ぎて行く老若男女を見送った
「ごめんお待たせ!!」
「…あ、大丈夫待ってないよ」
綺麗に髪を縛り付けて
水色の花や丸模様柄の白い浴衣を着た夏恋に
思わず見惚れてしまった
「行こっか」
「… うん!!」
「花火まで時間あるね」
「何か食べる?」
「食べよ!」
周りには
焼きそば、唐揚げ、ポテト、わたあめ
射的、投げ技、金魚すくい、光ったうちわ
お祭りならではの屋台がずらりと並んでいる
どれも見飽きたものばかりなのに
何度見ても飽きないのは
「かき氷買ってきた!」
きっとこの現象と同じで。
「夏恋の何味?」
「カルピス!」
「ん、1口ちょーだい」
「あ」
「へ、?」
ちょっと前の癖で開けて待っている口は
何故かなかなか閉じてくれない
「あ、ごめ、間違え」
「あーん」
顔を赤らめてまでやってくれるのは
そういう事でいいのだろうか。
その後、少々気まずくなってお互いにそっぽ向いていたけど
手は絡んだままだった
「そろそろ花火の陣取りしよーか」
「そーだね」
「あ!あそこ空いてる!」
そう言いながら僕の手を引っ張って人の間を抜けてく君の後ろ姿から
好揚感が伝わってきた
「あと3分で始まるよ!!」
「急げ急げ笑」
前世では味わえなかったこの楽しさは
僕の首を思い切り締め付けた
「きれーい!!」
「たまやー」
「たーまやー!!」
楽しい時間というものは
一瞬で過ぎていってしまうもの
「楽しかったねー!!」
「楽しんでくれて良かった」
「…夏休み中にさ」
「もっと、色んな所行けるといいね」
「だね。」
この時から君は恐らく
僕のことが好きだったんだと思う
僕は前世から好きだけど。
第3章 暗闇に覆われ
夏祭りからしばらく経った
あの後、僕たちは数え切れるほどの回数で色んな所に足を運んだ
そして、遂にその時が
『朔』
『今日暇?』
『暇だよ』
『いつものカフェに3時に来れる?』
『分かった』
集まるのが決まるのはいつも唐突で
大体夏恋からだった
「お待たせ」
「来たきた!」
「どーしたの今日は」
「んー、ちょっと相談があって」
1年後の記憶が蘇った
「なーに?」
「私、さ」
「ストーカー、されてるかも」
「なん、だよね、」
「え?」
店内の騒音が一瞬にして聞こえなくなった
脳内が真っ白になった
「どーゆー、」
「決定した訳じゃないんだけど、」
「何でそう思ったの」
焦る気持ちを必死に隠して僕は普通を装った
「事の始まりは2週間くらい前なんだけど」
「うん」
「前、1人でちょっと買い物に言ってたんだよね」
「で、ふと後ろを向いたら、同じ人がずっと私の後ろを歩いてて、」
「試しに少し早歩きで歩いてみたの」
「そしたら、後ろの人も早歩きになって、っ」
夏恋は話しながら思い出してしまったらしく
顔を青ざめて少し呼吸が荒くなった
「夏恋、落ち着いて。ゆっくりでいいから」
「深呼吸しよう」
「…ありがとう。落ち着いた」
「良かった。続き話せる?」
「うん。」
「それでね、怖いから人が多いところを歩いたらその人は居なくなったんだけどね」
「同じ状況が、ここ2週間ずっと続いてるの。」
「そう、なんだ」
話してくれたことがあまりにも重すぎて
脳がしばらく追いつかない
ストーカー
この一言だけが僕の身体を何周も巡り続ける
もしかすると、これが原因で夏恋は、
そんな考えたくもない思いつきが思わず表情に出てしまう
「朔?」
「え?ああ、ごめん」
「それにしても、それは怖い思いをしたね」
「うん、もう、どうしたらいいか分かんなくて、っ」
「大丈夫だよ。」
「絶対僕が守るから」
「ありがとう、」
そう言いながら美しいビー玉のような瞳から1粒の雫が落ちる
「とりあえず、警察に行ってみたら?」
「行った。行ったんだよ」
「でも、相手にして貰えなかった。」
「は?そんな事が現実で起きるの?」
「なんの為の警察だよ、」
思わず小さい舌打ちが漏れて正気に戻る
「…じゃあ、夏休みがあけたらとりあえず僕と居よう」
「夏休みも後1週間で終わるから、その間我慢出来る?」
「出来るよ。」
「ごめんね。家にあんまり出ないとかの努力はやってみよう」
「分かった、」
「怖いよね。ごめんね」
「何で、朔は悪くないよ。むしろ話を聞いてくれてありがとう 」
「いつでも頼ってね」
僕のヒーロー活動が始まった。
そして、夏休みがあけた。
「夏恋」
「朔、」
不安を語っている君の眉を見て表情をつられてしまう
「1週間、大丈夫だった?」
「うん。あんまり家に出ないようにしてた」
「そっか、良かった」
この一週間
どうやって夏恋を守るか考え続けた
その結果。思い付いたのは
とにかく夏恋と一緒にいる
それ以外の対策が思いつかなかった
「とりあえず、2週間僕は夏恋の傍にいるから。それで様子を見よう」
「ありがとう、」
たった1週間会ってないだけで
夏恋はやつれているように見えた
どれだけストレスを抱えていたのかと想像すると胃が痛くなる
もしもこれが自殺の原因なんだとしたら
何としてでも助けるしかない
4限目が終わって購買に向かおうとすると
夏恋が後ろから小さく袖を引っ張ってきた
「1人にしないで、、」
怖がっていて、本当は同情しなくちゃいけない状況なのに
愛らしく見えてしまった
「ん、ついてくる?」
「ぃく、」
あの日から、夏恋はどこか足りなくなった感じがして
いつも目にハイライトは無かった
「行こっか。」
その後、何も言わずに手を引くと
夏恋は黙ってついてきた
赤い顔1つ見せることなく。
「夏恋、弁当?」
「んーん、」
「そっか。一緒に買お」
何があるかな、とわざとらしく夏恋を元気づけるように言ってみたけど
夏恋には耳にすら入っていないように見えた
「裏庭で食べる?」
「外、怖いけど、教室よりマシだよね。」
「そーかもね。」
「夏恋はストーカーが誰か知ってるの?」
ベンチに横並びで座りながら
恐る恐る尋ねた
「ううん。」
「いつもマスクと帽子を深く被ってて顔が見えないの。体型とかもあんまり見覚えないし」
「そっかー。手がかりないと難しいな」
「え?何が?」
「何が、って 」
「犯人探しでしょ」
「え?」
おそらく夏恋は僕が傍にいるだけだと思っていたらしく、きょとんとしていた
「だ、ダメだよ、危ないよ」
「それでもし犯人が分かったとしても、犯人が何してくるかなんて分からない」
「そこまでして傍にいるなんてしなくていい、」
本当は自分の方が怖いに決まっているのに
この状況でも僕の心配をするなんて
どこまでお人好しなんだ
そんなのじゃ、犯人によっては被害者の夏恋でが味方をしてしまう羽目になる
「僕は大丈夫だよ」
「夏恋は、自分の心配をして。」
「で、も、」
「僕を見て?」
ゆっくりと凍えきった夏恋の手を握りながら
僕は夏恋を見つめた
見つめ返してきた夏恋の瞳には
何故か歪んだ顔をした僕が映っていて
思わず目を背けてしまった。
「朔?」
「あ、ん?」
「ありがとね。」
「よろしく。」
「任せて」
夏恋の傍にいて
2週間が経った
2週間経っても分からないことがある
ストーカーの情報が未だに何も掴めない。
僕達は放課後も一緒に帰って、僕が夏恋を家まで送るようにしていたが
ストーカーは一向に姿を表さない
帰る時も僕は表面上
恐怖心を抱いている夏恋を落ち着かせようと明るく接しながら
夏恋にも伝わらないほどで何度も後ろを振り向いた
それでも顔を隠した人物がいる気配は感じられなかった。
「夏恋、帰ろ」
「あ、朔、」
「あのさ、」
「うん」
「2週間経ったし、もう、」
「大丈夫だよ。」
僕に心配をかけないようにと思ってその言葉を言っているなら
そんな顔しないで欲しい。
夏休みに入る前の
いつも友達とはしゃいで元気に過ごしている夏恋とは違って今は
いつも不安で潰されそうな顔をして俯いている夏恋が居た。
「大丈夫って顔じゃないよ。」
「私はもう、大丈夫だよ。」
僕と離れようとする君は精一杯の冷たい言葉をかけてきて
今まで見た事ないくらいの酷くくすんだ瞳をしていた
「駄目だよ。まだ何があるか分からない」
「でも、2週間も何も無かったんだよ?」
「きっと諦めたんだよ」
「だから、ほっといて、」
そんな事を言っているけど
本当は思ってないことだって分かってる。
何年君といると思ってるんだ。
「もう、着いてこなくていいからね。」
「2週間ありがとう。ばいばい」
君は、僕を突き放した。
第4章 私の心情
私は、ストーカーをされている。
同じクラスの 音瀬 朔 に
気付いたのは約2週間前。
私は 誰かわからない黒竦めの男に後ろを付けられていることが分かった時
怖くなって同級生の朔に話をした。
すると朔はストーカーから私を守ってくれると言ってくれた。嬉しかった。
あの時は。
それから2週間ずっと朔過ごしていた
けどストーカーは私達の前に姿を現さなくなって
恐らく朔はその事を怪しく思っていた
2週間の間に1回だけ
朔が予定があると言って一緒に帰れない日があった
その日私はしばらく朔と帰っていたせいで
一人で帰る恐ろしさを倍で感じた。
そして
後ろから視線を感じた。
よりによって朔がいない時に、そう思って
覚悟を決めて勢い良く振り返った
その時
朔がいた。
「予定って先生に頼まれてたことなんだけど、それがなくなってさ笑」
そう言って笑いながら近付いて来る朔に
私は安心感よりも恐怖心を覚えた。
もしかすると、今までストーカーをしていたのは朔なんじゃないか、
ストーカーが姿を現さなくなったのはそのせいなんじゃないか
決定的証拠も無い妄想を
1つの出来事で今までの朔の優しさが裏返ったように感じた。
全てが怖くなった。
その日は、寝れなかった
その日から約束の2週間が経つまで私達は一緒に帰った。
私は手を足を、体中を震えさせながら。
2週間が経ってやっと解放されると安堵していた時
「夏恋、帰ろ」
当たり前のように話しかけていた。
いや、きっと朔にとってはそれが当たり前になっていた
これ以上は耐えられないと思い
朔と離れた。
今までの朔の優しさに罪悪感を覚えながら
朔からの生温い視線に背中を刺されながら
教室を後にした。
そして、更に3日後
私は恐怖感に解放されなかった。
朔は、未だに私のストーカーをし続けた
バレてないと思っているのだろうか。
あからさまに私の死角を歩いているけれど、
ずっとストーカーされていた私の感覚を舐めないで欲しい。
本当に朔がストーカーをしていたのかは分からない。
1ヶ月前のストーカーと同じ人物なのかは分からない。
けど、その可能性がない訳じゃない。
そう考えてしまうと
私はもう家から出られそうになかった。
そして、1週間。
朔は未だに私の後ろを隠れて歩く。
どうしてそんなに私の後を付けてくるのかが理解出来なかった
どうして私に拘るのか。
我慢の限界に到来した私は
帰り道、朔の元へ向かった。
「朔。」
「っ、夏恋、」
「気付いてたの、 」
本当に気付かれていないと思っていたのか。
阿呆過ぎる。
「当たり前だよ。 」
「ねえ、辞めて。 」
恐怖で言葉が詰まりそうになったのを押し出して
堂々と立って朔に言った
「え、なんで、」
「1ヶ月前からストーカーしてくるのって、」
「朔だったの?」
確認するのも怖くてスカートの裾を握り締めていないと崩れ落ちそうだった
自分がどれだけ醜い顔をしているか理解した上で
朔と目線を合わせて話した
「それは、違う。」
「…そっか。」
今更遅い。信じるなんて不可能で私は1歩後ろに下がった
何をされるか分からない。全身で恐怖を感じた
「ただ、夏恋の事を思って…」
「それは私のためになってないないよ、」
朔の優しさは痛い程伝わってきた
夕日も落ちかけている時、ふと空を見た
夕焼けの色は、何色あるんだろうか。
確かに今の私にとって朔は恐怖でしか無かった
それでも
今までの恩もあって切り捨てるなんてしたくてもできないと思ってしまった
私は朔が好きだと思ってしまった
ストーカーを好きになるなんてどうかしてるって分かってる
でも、 過去があるから。
だけど許すことは出来ない
「黙ってストーカーするんじゃなくて、何か言ってくれたら私だって」
「朔に同情できたよ、」
「1人で全部しようとしないで。」
「それは善意になってない。」
キツイ言葉で朔を釘刺した
同じ事は繰り返さないように
「でもまた夏恋が怖い思いをしたら誰が助けるの」
「助けてあげられるのはきっと僕しか居ないよ」
「夏恋は1人じゃ危ないよ、」
どうして何でも分かっているような口調で話されなきゃならないのか分からなかった。
「その行動が、私を怖い思いにさせてるよ、?」
朔はまるで気付いていなかったような顔をして
口をぱくぱくさせていた
「もう余計なことはしないで。」
これ以上、朔を突き放したくない
「やだ、捨てないで。 」
「夏恋から離れちゃ駄目なんだ、」
「どーゆー、」
「夏恋は1人にさせられない、」
言ってる意味が分からなかった
どうして朔に 私を助ける権利があるのか
それを決めるのは私なのに。
「なんで勝手に決めてるの」
「自分のことは自分で決めるよ。朔に決められる必要ない」
正直ここまで頭にくることを言われると思ってもみなかった
朔はもっと、人を尊重して大切にしてくれる人だと思ってたのに
「もう付いてこないで。」
頭が思うままに口が動いてしまった
こんな事を言う予定はなかったのに
ここまで言ってしまうと
引くも引けなかったから、勢いでその場を去ってしまった。
「夏恋、!待って!1人で行っちゃ駄目だ!」
朔の声を背中で聞いて振り返る動作をしなかった。
家に着いた瞬間私は無気力に陥った
お母さんのおかえりの挨拶もまともに返事を出来ないまま部屋に閉じこもってしまった。
お母さんには制服のままベッドに入るなと頭が痛くなるほど言われ続けてきたけど
そんなことを気にする体力はこれっぽっちもなかった
横にころがってぼーっとしていると
今日のこと、今までの朔のことを沢山思い出してしまう
朔と初めて話した場所は屋上だった。
最初から私の名前を知っていて、変な人だと思ってた。
でも、段々知っていくにつれて良い人だと分かって…
いや
あの時は席が前だからと言う理由だったけど
本当は既にあの時からストーカーだった可能性は?
ゼロとは言えない
確率なんてよほどある。
だとすると、色々な点が繋がってくる
何故私達は屋上で出会ったのか。
何故朔は異様に私と関わってくるのか。
何故私に近付いてきたのか。
ありとあらゆる可能性が滝のように湧き出てくる
どれも無いとは言えないこと
完全否定は出来ないんだ。
そう考えた途端
本当の恐怖に襲われたように感じた。
これ以上仮説を立てるのは私には重かったから
考えるのを辞めようと
私は重くなった瞼を閉じた。
1ミリも軽くならない瞼を開いて
暗い部屋を灯す明かりを付けスマホの画面を開く
時間を確認してリビングへと下りるといつも用意されている朝食を今日は食べる気にはなれなかった
ストーカーに後を付けられていたあの時の朝よりも怖さが一段と増していて
偶に後ろを振り返り、そして前を向くことなくローファーのつま先をじっと見つめて進んだ
学校の校門が見えてくる時
私は無理やり笑顔を貼り付けて
「おはよう!」
みんなに明るく挨拶をした。
硬い階段を上る足が鉛のように重かった
今から朔の前に座るというのは私からするととても気まずくて
いい気持ちにはならない。
話しかけるべきなのだろうか
それとももう関わらない方がいいのだろうか
どう接したらいいか考えているといつの間にか教室の扉の前に立っていて
ドアを開ける手が動かなかった
不安と恐怖と心配で消えそうになっていると
「どーしたの」
上から降り注ぐ声に反射して後ろを振り返ってしまう
そこに立っていたのは今までと何の変わりもない朔だった。
「あ、いや、」
「なんでもないよ、」
「ごめんね。邪魔だったね」
急いで扉の前をどこうとすると
朔が私の肩に両手を置いて
「顔色悪いよ。大丈夫?」
「保健室行こう。」
そんな、どうして
何も無かったかのように関われるのか不思議で仕方がなかった。
でも、朔に言われて体調不良に気が付くと私はその場に倒れてしまった
「起きた?」
うっすらと開いた瞼の間から一番最初に目に入ったのは
白く光った電球だった
その次に目に入ったのは
視界の端で捉えた
朔のすんとした綺麗な顔
カーテンに囲まれたベッドの上に寝転がった私はのそりと体を起こして座った
「朔がここまで運んでくれたの、?」
「そうだよ」
昨日のことがあっても尚、優しくしてくれるのか。どこまで考えてもどうしてそこまでやってくれるのかと言う疑問しか出てこない
「ありがとう。」
とりあえずというように感謝を伝えた後
「昨日は、酷いこと言ってごめんなさい。」
頭を下げて謝った
昨日考えた仮説も、昨日の出来事からして
私は先に謝られる側じゃないのかと思う反面
朔に助けてもらったことで、安堵感に陥ってしまった
朔を、手放したくないと思ってしまった。
しばらくして下げていた頭をゆっくりと上げて
朔に視線を向けると
朔は静かに目を見開いて頬を一直線で濡らしていた
「な、んで、」
「夏恋が、」
どうやら自分でも謝らないといけないと思っていたらしく
自分の太ももを殴るように拳を振り下ろしながら
「ごめん、ごめんね夏恋、」
「酷いことしてごめんなさい、」
「夏恋を守らなきゃってことで視野が狭くなっちゃって、結果僕が夏恋を傷付けちゃった、」
思っていた以上に理解していて話が進めやすいと思った
びしょびしょになった朔の顔を新しく冬用になった制服で
朔の目元をそっと拭いた
「朔、大丈夫だよ。」
「これでもう、お愛顧だね笑」
私が口角を上げてみせると
朔は安心したかのように頬が緩んでいた
少しして朔が落ち着いて、私は眠気に襲われてベッドに横になった
朔をずっとここにいさせる訳にもいかないから教室に戻らせようと思い口を開こうとすると
私よりも先に朔の唇が動いて
「夏恋、僕、夏恋が好きだよ。」
唐突の告白をされた。
確かに好きでもない同級生にここまでするのは異常だと思うが
改めて朔の口から聞くと今にも顔と耳が燃えた様に熱くなった
「そう、なんだ。」
私も、朔が好きだ。
きっと
なのに
朔の告白を素直に受け取れなかった。
心から嬉しいと思えなかった
掌に冷たい汗をかいてるのに気付いてしまった
「…それだけは、理解しててね。」
私に返答を求めることは無く、どこか泣きそうな笑顔を貼り付けて
「僕、もう行くから、落ち着いたら戻っておいでね。」
静かに保健室を出ていった
背中から寂しそうなオーラを出して。
第5章 また来世で
あの日から僕は、学校に行けなくなった。
保健室まで夏恋を運んだ3日後
不運なことに風邪を拗らせた
時に引き戻されて、僕は夏恋を助けることだけを考えて日々生きていた
そのせいで友達を作ることを忘れていて
前仲の良かった友達とも話すことは無くなっていた
まあ、仲が良かったことを覚えているのは僕だけだから良いんだけど。
そのため、心配のメールも1つ無かった
僕が悲しかったのは、夏恋からの心配が無かったこと。
僕が告白しても、夏恋は何も考えなかったのか。
僕のことはすぐに忘れてしまったのか。
嫌なことばかり頭をめぐらせてしまって
僕が夏恋を守らないといけないことは分かっていたのに
夏恋に会う気にはどうしてもなれなくて
あの日から1ヶ月経った今、
家から足を運び出すことは不可能に近かった
朝目を覚ましても布団から出ることは出来ず
昼も真面に食べれない
夜は寝付きが悪く寝るのは午前3時
こんな生活がずっと続いていた
家族には馬鹿みたいに毎日心配掛けて
母親には散歩でもと誘われても断って
父親にはドライブに誘われても体調不良って事にして
もう、嫌気がさした
何の為に戻ってきたのか。
どうしたらいいかも分からなくなっていた
けど
1年前に戻った目的だけは
ブレることは無かった
今、夏恋の身に何が起きているのかは何も知らない
ストーカーは消えたのか
未だ続いているのか
それとも
他の悩みが夏恋を襲っているのか
考えたいけど考えられない
夏恋の事を考えただけで何も食べてないのに喉から汚物が出てきそうだった。
今日も起きて何もせずにベッドから動かずにいると
母さんが2回ドアを叩いて
扉を開けずに話しかけてきた
「朔、体調は大丈夫?」
心から心配している声音に
安心感より嫌悪が勝った
そんな自分にも嫌気が差した
「…大丈夫だよ。」
その一言で会話を終わらせようと思ったら
「…今日ね、満月なんだって。」
「見に、行ってみたら、?」
まさかの言葉だった
なんでそんなこと言ってくるのか
今の僕に必要な事だと思って言ったのか
言ったら行くと思ったのか
心配してくれるのはありがたい
でも、
「…うん。」
心の中で行けたら行くよと囁いて
耳を塞いで自分の中で会話を終わらせた。
いつの間にか眠っていて
目を覚ますと窓の先は暗い闇に覆われていた
空に1つ輝いている満月を見て母親に言われたことを嫌々思い出した
外には、出たくない。
でもそれじゃあ
僕はいつか腐ってしまうと思う
…夏恋も、助けないとだし。
「…出るかぁ〜、」
ゆっくりと右足から地につけて
カタツムリみたいに歩いてドアノブに手をかけ
1回深く深呼吸をした後、静かに扉を開いた
「行ってきます。」
誰にも聞こえないようなボリュームで口から息を漏らした後
重い靴を履いてコンクリートを踏み込んだ。
どこから満月を見ようと考えながらフラフラ歩いていると
左頬に塩臭い風邪を感じた
「海。」
海岸沿いに着いた時白い布がひらひらと風になびいているのを見た
そのヒラヒラはまるで僕を招いているかのようで
無意識に惹かれ
白いワンピースに向けて進んでいた。
砂浜に僕の大きくて小さい足跡を付けながら
前を、ワンピースを見て歩いていた。
月に目なんていかなかった。
ワンピースの約13m後ろに立った時
ワンピースと、長い髪が僕の方を向いて舞った
その後ろ姿は
満月なんかよりずっと綺麗だった。
「…夏恋。」
気づいた時には、声は漏れていた。
その声は美しい後ろ姿にも届いてしまって
その少女は
ゆっくりと、恐れを放ちながら
真後ろを向いてきた。
本当に、聞き取れない程の声量で
僕の名前を呟いた
とにかく何か言わないとと頭をフルで巡らせて
口を動かそうとしたけど
使えない程に脳内は真っ白だった。
久しぶりに見た夏恋は
髪は少しだけ伸びていて、以前より痩せ細って見えた
それでも何故こんなに美しく見えてしまうのか
本当に不思議で堪らない。
「久しぶりだね。」
僕より先に言葉を発した夏恋は
瞳が湖の様になっていた
「そうだねー。元気?」
何も悟らせないように、明るく振舞おうとした僕が馬鹿だった
1ヶ月以上休んでるやつが
明るいはずがないのに。
「んーぼちぼち笑」
「そっか、笑」
そこは普通、元気だよって応えるところじゃないのかな笑
なんでそんな正直に、
いや、これでも隠してる方なのか。
「聞いてもいい?」
そう言いながら風にうたれる君を見て
駄目。
そう言いそうになった
「なーにー」
「何で、休んだの?」
なんて答えよう
夏恋に合わせる顔がなかった、なんて言えるわけが無い
「何となく、行く気になれなくて笑」
心配ご無用。とでも言うように眉を下げて笑うと
より一層不安な顔をさせて
「それは、私の、せい、だよね、」
途切れ途切れに言葉を紡いで
何とか音になるような声で僕に訴えかけてきた
「それはっ、!」
違う
あと3文字が言えなかった。
夏恋のせいじゃない
これは僕の責任なのに
都合良く夏恋に押し付けてしまう自分が気持ち悪かった
「夏恋、ごめんね」
言葉の意味が取り組めない夏恋の顔を見た後
次の言葉を紡いで
「僕、夏恋が大好きなんだ」
「気が狂いそうになる程に」
頭が思うままに口を動かした
もういっその事、どうなってしまってもいいと言う理由で
全ての感情を伝えた
「ありがとう。」
静かに応える君の唇を今すぐに奪いたくなる理性を抑えて続きを待った
「私、も」
「朔が好きだよ」
その一言で崖の上にはもう両手を掛けて
今すぐに上がれそうだった
でも、そう思ったのも束の間で
「でもね」
「朔のその気持ちを素直に受け取れなかった」
理解がうまく追いつかなかった
好きなのに嬉しくない
大雑把に言えば
好きだけど好きじゃない
よく聞く言葉に耳を疑い言葉の意味を汲み取れなかった
そのせいで感情の抑えが効かなくなって
僕の脳みそはぐちゃぐちゃになっているようで
空っぽだった。
「…んで」
「え?」
聞き取れなかった僕の音を聞き直す
「なんでそんな事言うんだよぉ〜、、」
「僕、夏恋の為に沢山したじゃん」
「夏恋の為にたっくさん頑張ったよ。おかしくなる程、」
「なのに、なんで、」
もう自分自身で止めることは不可能だった
誰かに止めて欲しいと心で願った
夏恋に止めてと叫びたかった
心と体が正反対だった
「僕のものになってよ゛!!!」
今まで思っても無かったことを
初めて口にした
口にする寸前も、そんな事は思ったこと無かった
なんで、口に出たのか
そんなの分からなかった
どこか胸の奥で
本当は思っていたのかもしれない
多分、僕の今は
夏恋の事を助けたいなんて思ってないのかもしれない
とにかく夏恋と一緒になりたくて必死だった
夏恋を今度こそ助けるために1年前に戻ってきたのに
助けたいなんて考えは結局自分の自己満で
僕は最後まで屑だった
だって
こんな事を考えて尚、
決意が固まってしまったから。
「夏恋、好きだよ」
僕の今までの人生
口が痛くなるほど夏恋に伝えてきた言葉
「わかった、分かったから、」
顔を真っ青にさせて今にも膝から崩れ落ちそうな夏恋の顔を見て
愛おしくなった。
「夏恋は?」
「夏恋は僕のこと好き?」
僕の真剣な質問に少し間を開けて
体を震えさせながら
「す、き」
「だよ。」
「そっかあー。」
君の間が
口に出した答えより
君の心の中の 思いを語っていて
多分、君とは違う意味で
体が震えた。
「夏恋、おいで」
夏恋の方へと手を伸ばし
夏恋が僕の手を取るのを待った
君は
少し躊躇しながらも足を竦ませ自分の右手を左手で抑えて目の中に水を張って
僕の方へと近づいた
そんな君を見て僕は
思わず笑みをこぼした。
こんな季節に浜辺に来て寒そうに震えている夏恋を
黙って僕は抱きしめた。
「な、なに、?」
恐怖で満ち溢れた君の声を聞いた。
嗚呼、僕はなんて
糞野郎なんだろう。
「夏恋」
「愛してる。」
「どんな姿になっても。」
「え、?」
そう言って僕はゆっくりと躰から夏恋を離し
周りは波の音と潮の匂い
1歩でも歩けば季節外れの夏を感じる音がする様な場所で
君の首に手をかけた
「ちょ、朔、?」
「冗談、だよね、?笑」
今まで見た事のない歪んだ、汚い笑顔をしていた夏恋の目の前で
今まで見た事のない顔を君に見せた
「おやすみ、夏恋」
「また。会えたらいいね」
『また、?』と言おうとしたんだろうけど
僕がうっかり一気に愛を込めちゃったから
夏恋はもう
動かなくなっちゃった。
しばらく夏恋がぐっすり眠っている横に座って
満月と、満月が反射した海を眺めていた
その時僕、何か考えてたのかな
「帰ろ。」
「おいで、夏恋」
海に来る時期を間違えたせいで
夏恋は寒く凍えていた
その体をあっためるように抱いて
僕は森へ歩いて行った
「夏恋」
「僕はね、きっと夏恋を守る為に1年前に戻ったんだ」
「だけど、」
「今回は難しかった」
夏恋を両腕に乗せて勝手に動く足に行き場所を任せてただ喋る
「だからさ」
「僕はまた、チャンスを望むよ」
傍から見たら奇妙な光景を
僕は再現してみせた
「夏恋は、どこに行きたい?」
さっきとは違って雲に覆われ
満月は見えなくなっていた
「あそこにしようか。」
森に入った時
頭上にある木々の美しさに目を奪われて
油断してしまった
足を滑らせてそのまま堕ちた
暗いどこかに
「あー。もう終わっちゃうのか」
「悲しいな」
とか言いながら多分今の僕の顔は
泥だらけでぐちゃぐちゃな笑顔だと思う
「夏恋ー」
「次は、助けに行くからね。」
そう言って
僕は体を冷たくした。
𝙚𝙣𝙙 .
ここからの物語は皆さんのご想像にお任せします。
12.12~1.5
🪐🥂
コメント
14件
はあぁぁ天才すぎて嫉妬
才能の塊やないかい
うおおおおお!!! 長編でここまでかけるの天才ですね 最初朔良い奴かと思ったらストーカーとかもう最高ですねほんとに しかも伏線回収が最高すぎる!!!! もうブクマします