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エリスが縁談を承諾するや否や彼女の気が変わるのを恐れてか両家の間では、あれよあれよと話が進み、二ヶ月も経たないうちに挙式まで終える事になった。
まさに電撃婚とも言えるシューベルトとエリスの結婚は、国内外でもかなりの話題になった。
ただ、シューベルトの噂が噂だけに、誰もがエリスに同情していたし、周りはこれが政略結婚である事も分かってはいたが、それを口にするものは誰も居なかった。
挙式を終え、夫婦となったエリスとシューベルトだが、二人の寝室は別々で、顔を合わせる事すら、数日に一度あるかどうかという間柄だった。
そんな二人が共に寝起きしたのは、初夜の一度きり。
処女だったエリスを無理矢理犯す形で欲望の赴くままに抱いたシューベルト。
事が済み、疲弊している彼女の身体を労る事すらせず、『妻になったくせに、夫である俺を満足させる事も出来ない女に用は無い。今後俺が誰と寝ようが文句を言う筋合いは無いからそのつもりでいろ』と吐き捨てて以降、エリスには指一本触れていない。
そんなシューベルトはエリスという妻が居るにも関わらず、別宅に気に入った女を住まわせたまま結婚前と変わらず夜な夜な女を部屋へ連れ込んでは朝まで楽しんでいたが、それを咎める者は一人も居なかった。
そして、結婚して約半年が過ぎると、エリスはシューベルトの愛人たちが住まう屋敷よりも狭い別宅へと移されていた。
「エリス様、お食事をお持ちしました」
「ありがとう。そこへ置いておいて」
「はい」
妻であるというのに、まるで罪人の様に囚われ、自由を奪われた生活を余儀なくされたエリス。
この仕打ちは屈辱的で何とも言えない気持ちだけどシューベルトに逆らう事が出来ず、最近では屋敷から外へ出る事すら禁じられていた。
表向きには体調を崩している事にされているので、エリスの姿を目にしなくても誰も不思議に思わなかった。
そんなエリスと顔を合わせるのは食事を運ぶメイドくらいのもので、エリスはつまらない毎日を与えられた部屋で過ごしているだけだった。
そんな変わり映えのしないある日の事、お手洗いから部屋へ戻る道すがら、本宅と別宅を繋ぐ中庭から聞き覚えのある声が二つ、聞こえてくる。
一つはシューベルトのもの。
そして、もう一つは――
「ねぇ、シューベルト、そろそろいいんじゃない?」
「そうだな。体調が悪化した事にして、そろそろ作戦を実行するか」
「いよいよ、あの邪魔な女を始末する事が出来るのね。嬉しいわぁ。お母様も私も今か今かと待ち望んでるのよ」
「俺もだよ。国の為とはいえ、あんな辛気臭い女と結婚なんて物凄く嫌だった。ようやくお前と一緒になれると思うと嬉しいよ――リリナ」
そんな不穏な会話をシューベルトと交わしていたのは他でも無い、妹のリリナだったのだ。
(どうして、シューベルトとリリナはあんなに仲が良さそうなの……? それに、今の話って……?)
シューベルトがリリナを気に入っているので二人が一緒に居ても何らおかしくは無い。
けれど、今の話の内容は明らかに矛盾しているし、リリナがシューベルトと一緒に居るのに嬉しそうにしている事もおかしいのだ。リリナはアフロディーテと同じでシューベルトに良い印象を持っていない筈だったのだから。
(作戦って? 邪魔な女を始末って? それって、私の事を、言っているの?)
二人の会話の内容から自分の事を話していると気付いたエリス。
不穏な話に身の危険を感じた彼女は震える身体を落ち着かせ、今にも腰が抜けそうになるのを必死に堪えながら、小さく深呼吸をすると二人に気付かれないよう静かに部屋へと戻って行く。
(私、殺されるの? 何故? それに、リリナが言っていた『お母様も今か今かと待ち望んでる』って、どういう事なの? もしかして、この結婚には、金銭面の援助以外にも、何か裏があったという事なの?)
部屋へ戻って来たエリスは先程得た様々な情報を整理すべく、ベッドの上に腰を下ろして考える。
けれど、何が何だか分からない中で考えを纏めようとしたところで何一つ纏まる訳もなく、
(どうしよう……一体、どうすればいいの?)
答えが出ないまま夕食の時間になり、いつもの様にメイドが部屋へ食事を運んで来た。