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「━━別れよう、リディア。元々、この結婚は間違いだった。なかったことにしよう。お互いの……いや、私達三人のために!
私の署名は、もう記入してある。
リディア、後は君の署名だけだ。
署名を終えたら、私が責任を持って今日中に離縁届を提出してくる。早い方がいいだろう?」
「━━間違い?」
「あぁ、そうだろう?」
結婚してから一度も使われたことのない夫婦の寝室で、夫フレデリック・アシュモフ伯爵は、妻であるリディアに対して、驚くべき言葉を浴びせていた。
夫婦の営みがないことは、邸中の使用人一同周知のこと。それが、本日、寝室には「誰も近づけるな」という主の言伝が下ったのだ。
浮き足だつ使用人達。そして、それは夫人であるリディアもおなじだった。
慌てて、閨に関する本をこっそりと読み漁って予備知識を蓄える。こういった本を読んだのは随分昔。一人であわあわと赤面しながらドキドキして、落ち着かなくて、何を着ようかと下着をずらりとベッドに並べてみる。侍女も張り切っているのは知っているけれど、やはり初めてのことなので、自分で選んだものを着たい。フレディが何色が好きなのか分からない。いつも何を聞いてもはぐらかされるのよね。
「リディアが好きなものなら、なんでも」と。
この言葉を偶然耳にした人達からは、愛妻家で羨ましいと言われたけれど……。
実際は、そういう訳ではないの。
ずっと、ずっと、フレディだけを想っているのに、この想いはいつも空回りしてばかり。
でも、今日は話があるからと夫婦の寝室へ誘われたわ。
期待してもいいのよね……。
これにしようと下着は淡いピンクの組み合わせに決める。
決めたはずなのに、やっぱりレースの多い白にしようかな、透けすぎて破廉恥かしら、これなんて布の面積がおかしいわ、なんて、今日一日中下着と会話していたわ。
さすがに夜着は侍女に任せることにしたけれど。
だって、気合いが入りすぎていると思われたくない。 でも、私は知ってるわ。侍女が私では絶対に選ばないであろうシースルーの夜着を選ぶことを。
「これで、いちころです!」と満面の笑みを浮かべながら用意しているのを見たから。
もはや下着丸見え状態になるかもしれないけれど。それでも、あなたに触れてもらえるのなら、どんな格好でも、厭わない。
念入りに入浴を済ませて、いつ使われるかもわからないのに、この日の為に準備していたであろう夜着を身に纏い、魅惑的な香水をほんのりとつけると、急に現実に引き戻される。
「やっぱりこんな格好は無理」「大丈夫です!奥様の魅力に旦那様もいちころです!」と侍女とテンプレ会話を繰り返しながら、ガッツポーズをした侍女と別れて寝室へと立ち入る。
ここへ来るまで、この時が訪れるまで、フレディに誘われたのだと思うと嬉しくて、楽しみだった。
それなのに……。
開口一番、離縁宣言を突きつけるの……?
どうして、今頃になってそんなことを言うの!
こんなにも、私はあなたのことが好きなのに。今日だってずっと……。