テラーノベル
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いちゃいちゃするのなら、決まって夕焼けに染まった薄暗い部屋の中が良い。重要なのは、薄暗いということ。それから、夕焼けがきれいなオレンジ色をしていること。
なぜなら、何となくセンチメンタルで、エモーショナルな気がするから。
「あすなろ抱き 」
阿部を後ろから抱き締めた目黒が、ぼそりと言った。
阿部はたった今立ち上がって帰り支度をしようとしていたところで、羽織ったカーディガンのボタンを閉めかけていた手を止める。
「え…何、急に」
夕暮れの部屋で後ろから抱きしめられるなんて、とてもきゅんとするシチュエーションだけれど、散々抱き合った後だからか、少し反応は鈍くなった。
「何となく」
相変わらず、何を考えているのか全くわからない目黒の行動に、阿部は一拍置いてから言った。
「ていうか、古くない?」
「名作は何年経ったって色褪せないんだよ」
たまに実年齢を疑いたくなるほどに、目黒は平成初期を愛していた。
「確かにそれはそう…」
だけど、正直そんなことは別にどうだっていい。阿部は今、家に帰ろうとしているのだから。
「どうでもいいけど、めめ、もう離して?」
軽く身を捩ってみる。対する目黒はがっちりと回した両腕の力を更に強くした。
「どうでもよくないし、離したくない」
ついでに、そうきっぱりと言い放って。
「俺、もう帰りたいんだけど…」
「今日、泊まっていけばいいじゃん」
呆れて溜息をつく阿部を後ろから揺する目黒。どうやら甘えモードのスイッチが入っているようだ。
目黒がこういう態度をとるのを、阿部は嫌だとは思っていなかった。むしろ、すごく可愛いと思う。ぎゅっと抱きしめてよしよししてあげたくなるけど、少なくとも今はその時ではないのでぐっと堪えた。
「だめ。お前、明日朝早いだろ」
「大丈夫、ちゃんと起きるから」
言いながら目黒はまだ阿部の身体を揺すっていた。
どうしたら彼が言うことを聞いてくれるのか、ぐらぐらと前後に揺れながら阿部は考える。ちらりと腕時計を見ると、もうすぐ6時を指すところだった。このままここで押し問答していても生産的ではないだろう。
あえてしばらく黙っていると、目黒も痺れを切らしたようで、阿部に巻き付いていた腕を解いた。
「めめ」
ようやく自由になったので、くるりと目黒の方に身体を向けて向かい合う。
「今日は帰らせて。また今度ゆっくりできる時に、ずっと一緒に過ごそう?」
「阿部ちゃんの約束はあてにならない」
じと、と睨みつけられる。
「そ、そんなことないだろ。ね?」
と、阿部は苦笑いで首を傾げた。
たまに自分の言ったことをすっかり忘れてしまうことがあるのは否定できないけれど、いつだって決してわざとではなかったので、それに関しては申し訳ないと思っているのだ。これでも、一応。
「わかった。じゃあ、最後にもう一回だけしよ… 」
「はあ? 今日何回したと思ってんの!? 俺はもうクタクタなんだよっ」
目黒の放ったびっくりするようなセリフに、思わず飛び上がりそうになりながら答える。
阿部だって自分では性欲は強い方だと思っていたくらいなのに、目黒ときたら若さのせいなのか、それとも体力の差なのか、まるで常軌を逸していた。目黒の気の済むまで付き合っていたらいつか絶対に身体がどうかなってしまうんじゃないかと、阿部は密かに危険を感じている。
「もぉ…それなら、お別れのキスで我慢するから」
「…はいはい」
急にしおらしい態度で言った目黒が可愛くて、阿部はすぐさま目を閉じて唇を差し出した。
「……ん」
夕日でオレンジ色に染まった部屋の中に、重なった二人の影が長く伸びていた。
◆
カチリと静かな音を立てて動いた時計の長針が、12の文字の上で短針と重なる。
「待って…え、おかしい…絶対おかしい…こんなはずじゃ……」
口の中でブツブツ呟くけれど、そんな阿部の言葉には説得力なんて1ミリも存在しなかった。なにせ、ベッドの中裸で、同じく裸の目黒に抱き締められていたのだから。
「阿部ちゃん、めちゃくちゃかわいかった」
頬をツヤツヤさせてご満悦な表情を浮かべた目黒が嬉しそうに阿部の頬にキスしてくる。続けて彼がこちらを見つめて小さくウィンクしたのを、阿部はただ悔しい思いで見つめることしかできなかった。
コメント
9件
なんて可愛らしい一幕!理性的なオトナであろうと頑張ってるのに、結局性欲と愛情に絆されて流されちゃう🟢がチョロくて愛おしくて大好物です。
ねえ最高かよー!!!🖤💚 結局負けてるあべちゃんかわいい😂
おいおいこれはジャスティスしか出てこないな、、最高かよ!!!