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その日はぐち逸のほうから早めに落ち合おうと提案して、ぺいんは連れて行きたい所があると提案して、そこでささやかにお祝いする…はずだった。
「これは不当な拘束ですよ。」
「上から捜索許可が出てるので。」
E5バーガーで店員達とチルタイムを過ごしていたら急に警察が押し入って来た。新薬の事でどうたらこうたらと話している。
「ぐち逸この後用事あるんだよな?どうする、逃げる?」
「……いや素直に従ったほうが早く終わるでしょう。」
ぺいんに電話したくて少し席を外したいと頼むも逃げられたら困る、誰かついて行くなら良いと言われ諦めるしかなかった。もし何かあった時の為に証拠が残りやすいチャットでのやり取りはしないと決めたのが悪手となり、連絡手段が無くなってしまった。
「場所はここで良いのでお店閉めて施錠してください…じゃあ本題に入ります。」
「ウチは別になんも悪い事してねーよ?ただのバーガー屋。」
「僕の格好悪い事してるように見えます?このピンクのふわもこ宇宙服。」
「椎名さんは中身とのギャップがありすぎて怖いですよ。」
「えーそぉ?でも可愛い帽子かぶってるじゃん、この星が本体だから。」
「あの、進めますよ?このお店で怪しいクスリを作っているという容疑が上がってまして…」
「はぁ、当然それ相応の証拠はあるんですよね?」
よく回る口で反論しながらもしきりに時計を気にする。その間数回電話が鳴っても出れず、証拠不十分となり開放されたのは明け方だった。1人になってすぐに折り返したがぺいんはもう寝ていた。
「…ぁ゛ーもうなんで今日なんだよ。」
罪悪感と何に対してなのかも分からなくなった苛立ちとで中々寝付けなかった。
翌日電話で起こされた。誰からなのは見なくても分かりきっているがどうしても話す気分になれなくてまた目を閉じ、暫く経つと今度はインターホンが鳴った。
「……ぇ?」
「ぐち逸ー!!…いないのかな?」
大声で自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。慌てて眼鏡をかけて戸惑いながら扉を開ける。
「あっぐち逸!急にごめんね、昨日大丈夫だった?体調悪い?ごめん心配で家まで来ちゃったんだけど。」
「…ぺいんさん、だ。」
「ん?うん俺だよ。元気そうだね良かった。ちょっと上がっても平気?」
ソファーに案内されて急いで身綺麗にするのを待っている間、家の中を見渡してみた。ボロボロの壁や床の狭い空間にいくつかの収納とクローゼット、ソファーだけが置いてある。他の部屋もチラッと見てみたがもぬけの殻だ。
「お待たせしました。すいません何にも無くて、まさかこの家にぺいんさんが来るなんて思ってなくて。」
「ううんお構いなく、俺が急に押しかけてきちゃったんだし。」
ぐち逸は髪を少し気にしながら立ったまま、ソワソワと落ち着かないでいる。ポンポンと軽く座面を叩いて呼び寄せた。
「ぐち逸おいで。ここ座って?」
「…は、ぃ……あの、昨夜は本当にすいませんでした。大切な日だったのに…」
「そんな気にしないでよ、事情があったんでしょ?でもどうしたの、電話もできないってよっぽど大変だったんじゃ…」
「えーと…いや、あの…」
「ごめん聞く事じゃなかったか。とにかくぐち逸が無事で良かった。ね、今からお祝いしようよ!俺色々持ってきたんだ!」
ご飯やらお菓子やらジュースやら、次々とバッグから出てくる。テーブルさえないのでソファーの2人の間を空けてそこに山盛りになった。
「お腹空いてる?どれ食べたい?」
「じゃあ…これとこれを。」
「俺はこれとこれとー…これ半分こしない?飲み物もいっぱいあるよ!」
いつにも増して元気に振る舞い大きな声で、少し強引に勧める。食べつつ穏やかに話をしているとぐち逸の表情も柔らかくなっていった。
「はーお腹いっぱい、もう食べれない〜。」
「食べ過ぎですよ、この後の仕事に支障が出るのでは。」
「今日は休みにしたもーん!よしじゃあもう1個お祝いね、えっとー…はいこれ、誕生日おめでとうぐち逸!」
「えっ誕生…日?俺の?」
「そうだよ9月3日。おめでとう!」
「そうか今日だ忘れてた、ありがとうございます。」
「記念日なんかよりずっと大事な日じゃん忘れないでよw気に入るか分かんないんだけど開けてみて。」
革製の緑色でシンプルなベルト式キーホルダーだ。早速家の鍵につけて嬉しさを噛み締めるようにうっとり眺めていたと思ったら、急にキリッとした顔でぺいんのほうを見た。
「ありがとうございます。ぺいんさんあの……昨日やろうと思ってた事があって、今やっても良いですか?」
「もちろん!なに?俺どうすれば良い?」
「そのままで大丈夫です。すぅ、はぁ…よし。」
小さく深呼吸をしてから両手を広げて、挟むように横からぺいんに抱きついた。驚いたぺいんが下を向いている顔を覗き込んでみると真っ赤になりながら目をぎゅっと瞑っている。手には身動きが取れない程力が入っていた。
「っ…ありがとう。ちょっとだけ力抜ける?」
「ぁっごめんなさい…」
「違うよ、俺もこうしたいから。」
ガッチリホールドされている所から両腕を引き抜いてぐち逸の背中に回し、ふんわり優しく包み込んだ。余裕を見せたいがぺいんの顔も赤くなっている。
「ぁ、///…あの、嫌じゃないですか?」
「好きな人にこれされて嫌な人いる!?めっっちゃ嬉しい、ありがとうぐち逸。大好き。」
「おれ、あ…わ、たしも、好き、で、す…///」