テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第十七話「もうひとつの居場所」
あの日から。
山本美憂は、小太郎とよく会うようになった。
⸻
最初は——
ただの“相談相手”だった。
⸻
「今日さ、ちょっと咳してて」
放課後の帰り道。
自然と、口から出る。
⸻
「佳が?」
「うん」
「……そっか」
小太郎は、すぐに返さない。
一度、ちゃんと受け止める。
⸻
「無理してそう?」
「……してると思う」
「だよね」
⸻
否定しない。
軽くもしない。
ちゃんと同じ目線で考えてくれる。
⸻
「でもさ」
小太郎が少しだけ笑う。
⸻
「山本さんも、無理してるよね」
⸻
「……え」
⸻
「顔見たら分かる」
⸻
ドキッとする。
⸻
「そんなこと——」
「あるでしょ」
優しく遮る。
⸻
「一人で抱えてたら、そりゃそうなるよ」
⸻
図星だった。
⸻
「……どうすればいいのか、分かんない」
ぽつりと漏れる本音。
⸻
「分かんなくていいと思うよ」
⸻
「え?」
⸻
「正解なんてないでしょ、これ」
⸻
あっさりと言う。
でも、その言葉は——
妙にしっくりきた。
⸻
(……ああ)
そうかもしれない。
⸻
その日から。
“相談”は、少しずつ増えていった。
⸻
数日後
カフェ。
⸻
「今日さ、普通に笑ってた」
「佳が?」
「うん」
「それ、いいことじゃん」
⸻
「……うん」
頷く。
でも。
⸻
「なんか、逆に怖い」
⸻
「……あー」
小太郎が苦笑する。
⸻
「分かる」
⸻
「分かるの?」
⸻
「無理してるの分かってると、余計ね」
⸻
「……そう、それ」
⸻
ちゃんと伝わる。
説明しなくても。
⸻
(……楽)
心の中で思う。
⸻
佳には言えないこと。
言ったら壊れそうなこと。
⸻
それを、ここでは言える。
⸻
また別の日
ゲームセンター。
⸻
「これ取ってよ」
「無茶言うな」
「いけるって」
⸻
笑いながら、クレーンを動かす小太郎。
⸻
「ほら、あとちょっと」
「プレッシャーやめて」
⸻
ガコン。
ぬいぐるみが落ちる。
⸻
「お、取れた」
「すご!」
⸻
自然に、笑う。
⸻
(……あれ)
気づく。
⸻
(今、普通に楽しい)
⸻
相談じゃない時間。
ただ、遊んでるだけの時間。
⸻
それでも。
ちゃんと、楽しい。
⸻
「はい」
ぬいぐるみを渡される。
⸻
「ありがと」
⸻
受け取る。
少しだけ、見つめる。
⸻
(……前もあったな、こういうの)
佳と一緒に取ったぬいぐるみ。
⸻
でも——
⸻
(……これは、違う)
⸻
比べるものじゃない。
そう思える自分がいる。
⸻
夜
スマホ。
⸻
『今日ありがと』
メッセージ。
⸻
『こちらこそ』
すぐに返ってくる。
⸻
『また明日も話聞くよ』
⸻
その一言に——
少しだけ、安心する。
⸻
(……いるんだ)
頼っていい人が。
⸻
気づけば。
毎日、連絡を取るようになっていた。
⸻
相談だけじゃなくて。
どうでもいい話も。
くだらないことも。
⸻
全部。
⸻
(……居心地いい)
⸻
そう思ってしまう。
⸻
そして——
⸻
(……少しだけ)
⸻
ほんの少しだけ。
⸻
(……惹かれてる)
⸻
その感情に、気づく。
⸻
でも。
⸻
夜。
家。
⸻
「……ただいま」
「おかえり」
佳の声。
⸻
その一言で——
⸻
全部、揺らぐ。
⸻
(……やっぱり)
⸻
胸の奥が、締め付けられる。
⸻
(……好きなのは)
⸻
変わらない。
⸻
それでも。
⸻
もうひとつの温かさに——
少しずつ、心が触れ始めていた。