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「離してよ!」
陽も暮れかけた夕暮れ時、帰宅を急ぐ人たちで溢れかえる繁華街の一角で声を荒らげる少女が一人。痩せ型で少し小柄な彼女の名は橘 咲結。
白色で少し大きめのダボッとしたセーターの裾から赤系チェックのプリーツスカートが少し見え、その短いスカートから覗く白い脚は紺のハイソックスの効果も相俟ってすらりと細長く見える。
パッチリ二重で少し厚塗りの化粧をしているけれど、ツインテールのせいか少し幼くも見える事もあって、美人というよりも可愛いという言葉が良く似合うだろう。
咲結は放課後、繁華街で友達と買い物をして別れた直後、金髪と明るめの茶髪でいかにもチャラそうな二十歳くらいの二人組の男に声を掛けられていた。
明らかにナンパだと分かり嫌悪感を抱いた咲結が素っ気なく断ると、行く手を阻んで来た挙句金髪の男の方が腕を掴んでしつこく迫って来たのだ。
「そんなに睨まないでよ~」
「そうそう、別に何もしないって」
「少しでいいからさぁ、俺らと遊ぼうよ」
「奢るからさ、ね?」
咲結は断っているのに話を聞いていないのか聞こえないのか、勝手に話を進めていくチャラ男二人。
この光景に道行く人はチラリと視線を向けるも、ただ見て見ぬふり。関わり合いになりたくないというのが素直な感想なのだろう。
それを分かっている咲結もまた誰かが助けてくれるという展開は期待していないようで、自分で何とかしようと毅然な態度で相手をしていた。
(もう、最悪。何なのよ、このチャラ男たち。話聞けっての!)
全く話にならない男たちに嫌気が差した咲結がより強い口調で相手を牽制しようとすると、
「おい何してんだよ、おめェら」
通りすがりの男が一人、咲結とチャラ男の間に割って入って来た。
(……誰? 仲間……ではなさそうだけど、何だか似てる感じだなぁ)
間に割って入って来た男はチャラ男たちと同じくらいの年齢で赤髪短髪、耳は勿論、鼻にもピアスを付けている。
細身だけどがっちりとした体型で身長は平均的、派手な柄のシャツを着ているせいか、全体的にチャラそうな雰囲気が漂っていて見た感じナンパしているチャラ男たちとそう変わりは無いので、咲結は一瞬ナンパ男の仲間かと勘違いすらした。
「何だよ、テメェは」
「そうだよ、邪魔すんなよ」
いきなり現れた赤髪の男に嫌悪感を示したチャラ男たちが詰め寄るも、
「おい、コイツら知り合いなのか?」
そんなチャラ男たちを無視して呑気に咲結に話し掛ける赤髪男。
「いえ……全然知らない人、です」
「ま、そうだろうな」
咲結の言葉を聞いた赤髪男は納得した様子で再びチャラ男たちに視線を向けると、
「お前らさ、この子が嫌がってんの分かんだろ? 悪いことは言わねぇ、諦めてとっととどっか行けよ。今なら見逃してやるから」
呆れ顔で男たちに言い放つも、その程度で諦めるのならば、もっと前に諦めてどこかへ行っているだろう。
「お前、一体何なんだよ? この子は俺らが先に目つけたんだからよ、お前こそどっか行けよ」
「そうだよ、関係ねぇ奴は引っ込んでろっての」
それに、後からのこのこ現れた男に言われて立ち去るような輩でもないだろうから、このまま穏便に話し合いで済むとも思えず、三人の会話を目にしている咲結は内心気が気でなかった。
「あのさ、順番なんて関係ねぇんだよ。嫌がる事をするなっつってんの」
「だから、そんな事テメェに言われる筋合いねぇんだよ――」
やはり咲結の不安は的中し、金髪男が赤髪男に殴りかかろうと拳を振り上げた。
「き、きゃあ!」
赤髪男の背後に居た咲結は彼が殴られると思い弱々しい悲鳴を上げて目を瞑るも、
「い、痛てぇ!!」
大きな声を上げたのは赤髪男ではなく金髪男の方で、咲結が恐る恐る目を開けると赤髪男は金髪男の腕を捻りあげていたのだった。
「痛てぇ……、畜生……やりやがったな……」
「おい、大丈夫かよ!?」
「絶対骨折れてるって……」
「まだやるか? 俺は構わねぇけど、これ以上やるってなら腕の骨一本じゃ済まねぇかもなぁ?」
痛がる金髪男と恐怖に震える茶髪男。二人は赤髪男の挑発には乗ることなく、
「クソがっ!」
「覚えてろよ!!」
お決まりの捨て台詞を吐いて走り去って行った。