ついにこの日が来た。長かったと言えば長かったし、短いと言えば短い。そんな期間だった。スマホを手に取り、夜野くんに【今から行くね】と送る。…見れないと思うけど
ガチャン
「…心地いい気温、出会った時と同じような気がするな…」
〜第9章〜
「着いた…」
そこには確かに、〇〇病院と記された看板が立っていた。入院中の人にお見舞いするの何気に初めてだなーなんて思いながら病院の中に入る。
「すみません…夜野k…夜野海翔さんのお見舞いに来たんですけど…」
「え?」
「?」
受付の看護師さんに不思議そうな顔をされた。すると突然目線を下の方に持っていった。
「申し訳ないですが……!。あ、い、今は夜野さん、咳がすごくて、お見舞いどころじゃないかもです…。せっかく来ていただいたのに、すみません」
「いえいえ、こちらこそ、すみません。」
「あの! もし、よろしければ、手紙とかでお話するのはどうでしょうか?」
「手紙?」
「はい、たまたま忙しくて、見舞いに行けない となっている方などは、よく励ますような手紙を送っていますよ。」
「なるほど…そうですね、そうします。わざわざありがとうございます。」
「はい、手紙は私の方に出してくれれば直接お渡し致します」
「何やら何までありがとうございます。それじゃあ」
病院を出る。咳が凄いのか…声聞きたかったけど、それどころじゃないな…。家に帰って、手紙かこーっと…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うーん…。こんな感じかな…。」
うんうん、読み返してみたけど、我ながらいい感じに書けている。これまでしてきた思い出とか、私が密かに感じてたこととか…。なんかほんとにいなくなっちゃうみたいだな…。最後に[また会おうね]とか書いとこ…
「よし、完成! これを持っていけばいいのかな…。」
時計の針は16時を指している。急がないと…。 急いで部屋からでて、また、病院まで走って行く。
「あの…!」
「あ、夜野さんの…」
「はい、手紙を渡しに来ました! 」
「はい、渡しておきますね。あと、夜野さんから、小林さんに手紙が来てますよ。沢山あるので、残りはまた違う日に取りに来てください。」
「はい、ありがとうございます。」
夜野くんが…私に手紙…か。まさか夜野くんから書くとは思わなかったな…。しかも大量らしいし…。その事実に少し戸惑いながらも、左手に7枚程の手紙を持ち、病院を出た。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
家に帰って、ご飯を食べた。普通に明日学校だけど、今日はちょっと夜更かししちゃおうかな…。
「せっかくだし、読んでみよーっと」
手紙を開くと、入院生活の日記?が書かれていた。
8月25日 今日も治療をしました。早く治るように頑張りたいです。小林さんは25日、何をしましたか?どうせ、小林さんの事ですから、友達とワイワイ楽しんだんでしょうね。いいなー。僕も早くゲームがしたいです…。
8月31日 今日は高熱がでました。熱中症ですかね…。医師からの診断では、肺がんの症状らしいです。小林さんは熱中症にならないようにしてくださいね。
そんな感じの日記が沢山書かれている。こんなに書いててくれたんだ…なんか嬉しい?…これ、こんなに沢山あるなら、毎日一日ずつ見ていってもいいかも…。
それから毎日、家に帰ってからの楽しみが増えた。寝る前には、絶対に読んでいる。読むと、なんだか夜野くんが傍で見守ってくれて、心を満たしてくれるような気がしていた。けど…。
「あれ…もう書かれてない…」
続きは…また病院に行って貰いに行こう。明日は確か開いてるはずだから…学校帰りにでも行けばいいかな。
「ふぁぁ…もう寝よ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「あの…夜野くんの…」
「あ、手紙ね」
「はい。あるって聞いたんですけど」
「ありますよ。けど、もう1枚しかないんです…」
「そう…ですか」
「………………………」
「夜野くんの体調が回復してきたら電話ください。お見舞いに行きたいので」
「……わかりました。」
「それでは…」
あと残り1枚か…あの看護師さん、沢山あるって言ってのになー…まぁ8枚でも結構多い方かー…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「よし、読もう!」
[ーーーーーーー]
!?
え…嘘。なんで。嫌。なんで、嘘ついたんだろ…。看護師さんも、坂本くんも。なんで?どうして?バカみたいじゃん。言ってたじゃん。私が生きてるなら、僕も生きてると思うって…。もう、学校行けないよ…行きたくないよ…。
「……また、あの時と同じなの?」
ーーーーーーーー
「よしよし、紬ちゃんはいい子だねー…」
「ねぇ、おばあちゃん、ママとパパと勇輝はどこに行ったの?」
「ママ達はちょっとお出かけだってさ、紬ちゃんはいい子だからお留守番できるってママ達言ってたわ。本当にいい子ね」
「つむぎも、ママ達とお出かけしたかった…せっかく誕生日なのに…勇輝とも、積み木で遊びたい…」
「……ママ達にも事情があるのよ。これからしばらくはおばあちゃん達と暮らしましょう?」
「うーん…わかったー…」
あの時のおばあちゃんの目には光はなかった。家族の死を完全に理解した時は、もう中学2年生だった。よくよく考えたら、その時4歳だったから10年間もお母さん達いなかったらおかしいって思うよね…。何呑気なこと考えてたんだろ…。
ーーーーーーーーーーーー
「紬ちゃん、少し話があるの」
「?どうしたの?おばあちゃん」
「ママ達の話」
「!」
「薄々気づいていたかもしれない…けど、ママ達はね…あの日、交通事故で亡くなったの…」
「え…?嘘でしょ?」
「嘘じゃない、紬ちゃんが現実を受け止めたくない気持ちも分からなくはないわ。でも、これは事実なの…今まで騙してきて、ごめんなさい。」
「おばあちゃんは悪くないよ…。私が生まれなければ…。誕生日なんて忘れられてれば、こんなことに、ならなかったのに…。」
「紬ちゃん…。そう、ネガティブにならないで…。また、いつもどうり生活しましょう?」
「………うん。」
それから私は、人に素っ気ない態度をとり続けて、だんだん孤立して行った。誰も私の事を見てないし、誰もいると思っていない。幽霊みたいな人。そんな認識でよかった。中学3の最後に話しかけてくる人もいた。でもそれは、私の容姿ばっかり。「よく見たら紬って美人だよね〜」だの「高校行ったらモテまくるよ!」とかばっかり、褒めてくれるのは容姿だけ、中学校の最初は良かった。友達も沢山いて、いい青春を感じていたけど、親族の死は私にとって、思っていたよりも、ショックだった。
あれから、もう終わった事だしと気持ちを切り替え、高校でいっぱい青春を謳歌するぞ! と思っていた。そしたら思っていた時より、高校は真面目な人ばっかりで、つまらなかった。そこでおばあちゃんに頼み込んで、一人暮らし、都会の方の高校に行き、転校してきた。最初はみんな、話しかけてくれて、…夜野くんも話しかけてくれて。本当に嬉しかったのに…
「もう…嫌」
また、楽しかった思い出が壊されていく…。友達がいなくなって孤立してしまう…。
「………うぅ…」
目から大量の雫が落ちてくる…。限界が近いのだろう…。失いたくなかった。よりによってこんな大事な人が…。
「もう、あの学校に行っても、なにも楽しいことないかも…。前いた学校にでも戻ろうかな…」
ピロン
「?」
【紬ちゃん! 聞いてよー…また頭髪検査引っかかっちゃって〜…地毛です! って毎回言ってるのにー…】
菜月からだ。……前の学校よりも、この学校の方がいいかも…。私の容姿だけじゃなくて、中身も見てくれる友達がいる。素っ気ない態度をとっても、多分みんなは「冷たいよー! 」とか言って笑ってくれる…。
時計の針は12時45分を指している。
菜月に【まぁ菜月は地毛ほとんど茶髪だし、仕方ないよ(´・ω・`)】と送って、眠りにつく。
もう、あの時の私じゃない。今はみんなと楽しい事をして、青春を謳歌しよう。夜野くんは、私を変えるきっかけをくれた人。みんなは、私を支えてくれた人。家族もいないし、好きだった人もいないし、恋愛もした事ないけど、まだまだ、これからだよね。
「そうでしょ?夜野くん」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「おはよぉ…眠い…」
「おはよ!紬ちゃん! 」
またいつも通りの日常が始まる。
周りから見たら、私の隣には誰も居ない。けど、私から見たら、隣には本を読んでる彼がいるように見える。
「なにさ?」と言った彼に私は、「私の事好きでしょ?」と言う。「…うん」と照れながら言った彼をからかう。軽く話したら、亡霊の彼の姿はなくなっていく。去り際に
「またね。話せてよかった。僕の代わりにたくさん青春を謳歌してね。」と言ってきた
「まかせてよ」
強くなった私を、空から見守ってて欲しいな。
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